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1 は じ め に 「ポジティブリスト制度」は,食品衛生法に基づき本年5月29日に導入される食品の製造,販売等の規制に関する新しい制度である.この制度の下では,食品衛生法によって畜水産物に残留する動物用医薬品がこれまでより広く規制されるので,獣医師及び動物用医薬品使用者は,今後この新しい制度を十分理解した上で,動物用医薬品を適切に使用いただくことが必要となる. |
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2 ポジティブリスト制度とは (1)ポジティブリストとネガティブリスト ポジティブリスト制度は,平成15年5月30日に公布された「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成15年法律第55号)に基づき,平成18年5月29日に施行される新しい制度であり,食品中に残留する農薬,動物用医薬品及び飼料添加物(以下,「農薬等」という)を規制するものである.この制度が導入される背景には,これまでの制度では,残留基準が設定されていない農薬等が食品から検出されても,食品衛生法による販売等の規制ができないという状況があったことが挙げられる. すなわち,これまで日本の食品中の農薬等の残留に関する規制は,抗菌性物質については,「食品には抗生物質を含有してはならない」,「食肉・食鳥卵,魚介類は化学的合成品たる抗菌性物質を含有してはならない」という規制をしているものの,これら以外の物質については「ネガティブリスト制度」(原則規制がなく,規制するものをリスト化する制度,この場合のリストとは残留基準のこと)であった.これに対して,「ポジティブリスト制度」は,原則規制(禁止)し,使用してよいものをリスト化する制度(この場合のリストも残留基準のこと)であるので,現状では残留基準が設定されていない農薬等の規制ができることになる. (2)ポジティブリスト制度の概要 このポジティブリスト制度の下では,農薬等は,[1]残留基準が設定されているもの,[2]制度の対象外物質(規制されないもの),[3]残留基準が設定されていないもの,の3つのカテゴリーに分類される.この中で,厚生労働省告示により[1]については食品ごとに物質名と残留基準値が示され,[2]については65物質が示されているが,[3]については,いずれかの食品に残留基準がある物質以外のものについては具体的な物質名が示されていない.[3]は人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定めた量(一律基準,0.01ppm)を超えて食品中に残留してはならないとされるのだが,食品・添加物等の規格基準(昭和34年厚生労働省告示第370号)の一般規則として,i)すべての食品は抗菌性物質を含有してはならない(食品添加物,一般規則に残留基準等の基準があるものとそれらを原料として製造・加工されたものを除く),ii)15物質は食品中不検出とする,iii)食品に自然に含まれる物質は,その食品に通常含まれる量を超えてはならない,iv)成分規格が定められている食品を原材料として製造または加工される食品については原材料が成分規格に適合するものでなければならない,などの規定があり,それらに該当するものには一律基準は適用されない. この制度の施行される平成18年5月29日には,758物質について残留基準が新たに設定されるが,このうち238物質について厚生労働省は主な用途として動物用医薬品を挙げている.新たに設定される残留基準は,制度導入までの時間が短かったため,毒性試験成績等に基づく食品安全委員会の通常の評価を受けておらず,暫定的に設定されるので暫定基準と呼ばれており,今後5年間を目途に再評価が行われる予定である. また,食品衛生法に規定する「動物用医薬品」は「薬事法第2条第1項に規定する医薬品であって動物のために使用することが目的とされているものの成分である物質(その物質が化学的に変化して生成した物質を含み……)」と記載されているので,農林水産大臣が承認している専ら動物に使用される医薬品(薬事法で定める動物用医薬品)のみに限定されず,しかも各物質の代謝物も含むと考えられる.いずれも平成17年11月29日に公布された厚生労働省告示第497号(一律基準値を0.01ppmと定めるもの),第498号(対象外物質として65物質を定めるもの),第499号(暫定基準,不検出物質,自然に含まれる物質等の取り扱いについて定めるもの)に示されている.関連の告示,通知等の詳細については厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/index.html)をご覧いただきたい. (3)残留モニタリングと試験法 ポジティブリスト制度においては,不検出物質及び残留基準のある物質については,高感度の残留分析法が厚生労働省により示されている(試験法も上記の厚生労働省ホームページからダウンロードできる).高速液体クロマトグラフ法による多成分一斉分析法も示されており,この方法によれば1検体から同時に多数の残留情報が得られる.したがって,厚生労働省の実施している残留モニタリングによる違法残留の検出率も大幅に向上することが予想される.しかし,まだ残留基準のあるすべての物質についての残留分析法が示されている訳ではなく,また国産の畜産物のモニタリングを実施している各都道府県の機器の整備状況なども異なることから,都道府県においてこれらの方法が全て実施されるまでにまだ時間がかかると思われる. ![]() |
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