|
3 大学病院の高度医療化と学生教育 現在,大学病院は二次診療施設という特性から,CTやMRIをフル稼働して神経疾患の診断と治療を行っている.たとえば,それまで治療どころか診断することさえも困難だった脳腫瘍を摘出し,術後に放射線治療まで行うことが可能になった.20年前には,とうてい考えられなかったことである. CTやMRIで診断し治療を行うようになると同時に,獣医学領域でも「高度医療」という言葉がしばしば使われるようになった.著者は,医療行為はそれなりの高度の学習と経験に基づくものであるため,個人的にできることとできないことがあるだけで,低度も高度もありはしないと考えている.たとえば,健康な犬に全身麻酔をかけて手術を施し,回復させて退院させるという避妊手術にしても,1例の事故もなくできる技術というのは高度なことではないのだろうか.しかし,臨床に進む学生たちにとって「高度医療」という摩訶不思議な言葉はとても魅力的なようであり,どこの学生でもCTだMRIだと騒いでいるのが,今の日本の大学の現状である. 著者は2003年の夏,国際放射線学会で南アフリカへ行った.学会期間中,主催者であるプレトリア大学獣医学部・放射線学教室のKirberg教授が教育病院内を案内してくれた.その際,偶然にも女性研修医がダックスフンドの椎間板ヘルニア症例の脊髄造影検査を行っていた.隣の部屋には使用してないCTがあるにもかかわらず,である.そのことをKirberg教授に尋ねてみると「フィールドに出たときには高価な医療器械が使えないから」という答えであった.さらに彼は「学生には,大動物のX線はすべてポータブルで撮らせ,手現像させている」と続け,骨董品のような小型のX線発生装置を指差した.そのとき著者は,オランダ系と思われる,長身で強面てのKirberg教授に尊敬の念を抱いた. 以上のような理由で,このような基本的な学生に対する教育と最先端の動物医療をどのように同時進行させていくかが,今後の獣医神経病学の課題であり,また大学病院の課題でもあると考える. |
引 用 文 献 | ||
|
† 連絡責任者: | 諸角元二(戸ヶ崎動物病院) 〒341-0044 三郷市戸ヶ崎2-160-4 TEL 048-955-8179 FAX 048-955-7746 |
|