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4 歯 の 特 徴 先に述べたように,ウサギ目を設けているのは,その歯の特徴による.ウサギ類には,上顎に長い切歯(大切歯)と小型の切歯(小切歯)の2つのタイプの切歯が存在するが,小切歯が大切歯の後方に位置しているのが特徴である.すなわち,大切歯と小切歯は横列せず,前後に並んでいることになる.このことから,ウサギ類のことを重歯類Duplidentataともいう. なお,ウサギ類の切歯も齧歯類の場合と同様に,生涯にわたって伸長を続けるが,正常な状態では上顎の切歯と下顎の切歯が相互に噛み合って摩滅するため,過度に伸びすぎることはない.しかし,何らかの理由によって切歯が摩滅せずに過長になることがある.その理由としては,給与飼料の品質や外傷による上下の歯の噛み合わせの不良などが考えられるが,このほか,遺伝的な要因によって噛み合わせが不良なことも多いようである[2]. |
5 食 糞 アナウサギは,その消化管において2種類の糞便を形成する. 一つは,硬く,いわゆる兎糞状を呈し,日常的に目にするウサギの糞便である.この正常の性状は,おもに昼間に排泄される. 一方,もう一つのタイプの糞便は,軟らかく,粘液に被われた粘稠な性状を示し,おもに夜間に排泄されている.この糞便は盲腸を通過してきたもので,盲腸糞といわれている.盲腸糞は多量の蛋白質とビタミンB群を含有する.アナウサギは,この糞便を肛門から直接なめ取り,経口的に摂取している.これが食糞(coprophagy)である. 食糞を行わないと,ウサギは十分な栄養素を摂取することができないといわれる.ただし,ウサギは肛門から直接,盲腸糞をなめているので,仮に床面が金網になっているケージで飼育されている場合にも,食糞を行うことは可能である[2]. |
6 飼 育 アナウサギを飼育するには,その習性を発揮することができるように,土壌を用いた環境で穴を掘れるようにすることが理想的である.しかし,ペットとして飼育する場合に,こうした環境を整備することは,事実上,不可能に近い.また,仮に庭などに囲いを作り,そこでウサギを飼育することができたとしても,その場合には,そのウサギが逸脱する可能性が高く,飼育方法として推奨できるものではない. 近年は,ウサギ類などの小動物の飼育用に金網製のケージが販売されており,これを用いて飼育するのが一般的である.ケージの床面にはわらや切り草を敷くか,あるいはすのこを置くことが望ましい. ウサギ類の食性は植食性である.餌としては,干草(ウサギの飼料用として市販)を多給し,これに加えて固形配合飼料(市販品)やその他,必要に応じて野菜類などを与える. なお,古くはウサギ類には水を与えないほうがよいともいわれていたが,飲水は常時可能としておくべきである.特に水分含有量が少ない飼料を給与している場合には,絶えず水を摂取できるようにしておくことは必須である.ただし,皿状の容器に水を入れて与えると,こぼしてしまうことが多く,こうして飼育環境が湿潤するとウサギが疾病に罹患しやすくなる.水はボトル状の給水びんを用いて与えるとよい. ペットとして飼育されているアナウサギの寿命は,10年以上に達する[1]. |
7 繁 殖 一般的なペットとしてアナウサギを飼育している場合は,1個体のみのことが多く,そうした場合には繁殖が行われることはないが,条件が整えば飼育下におけるアナウサギの繁殖は比較的容易である.特に複数の個体を同時に飼育し,それらが相互に自由に接触できるようにしておくと自然に繁殖する. 妊娠期間は通常,28〜33日で,1回に1〜9個体,多くの場合は5〜6個体を出産する.新生子の体重は40〜50gである[5]. 雌のアナウサギは,分娩後まもなく次の発情を起こし,交尾が可能となる. |
8 移入種としてのアナウサギ アナウサギは,古くから世界各国で移入種として定着している.日本においても,食用や毛皮の生産用,あるいは愛玩用に導入された個体が各地で野生化し,移入種になっている[3, 4].特に島嶼における定着の例が多いようである[6]. 野生化したアナウサギは,植生を破壊し,さらにこれによって土壌の浸食が発生する.特に島嶼では,土壌の流出が起こりがちである[6]. また,奄美大島では,在来種であるアマミノクロウサギとの競合が危惧されている[6]. |
引 用 文 献 | ||||||||||||
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