3 獣医療における表現の曖昧さ 獣医療における表現について考察すると,まず,小動物臨床施設の名称ですら明確に規定されていないのが現状である. 獣医科大学の付属の診療施設名も,ほとんどの大学が付属家畜病院としていたのが,ここ数年で,動物医療センター・獣医臨床センター・動物病院・家畜病院など大学によって表現が変わってきている.各大学で,法的な問題への対応・内部調整や名称変更の煩雑さなど諸事情があると思われるが,ペットが診療対象の大部分を占めるようになった近年,一般的な飼い主の感覚としては,「○○大学付属家畜病院」という名称に何となく違和感を持つと思われる. また,民間の小動物診療施設においても,「施設の目的や規模・従事する人員の数などを考慮した上で,医院・診療所・病院・救急救命センターなどに明確に分類される人の医療」と違って,大小さまざまな施設が混在する中,開設者が独自の判断で,ペット・クリニック,動物病院,動物医療センターなどの名称を使用しているのが現状である. しかし,社会情勢の変化を考慮すると,何らかの形で,農水省や日本獣医師会が中心となって,診療施設の目的や規模,従事する獣医師や獣医療補助者の数などと施設名称についての整合性について検討する時期にきていると思われる. 臨床獣医学において,「産業動物獣医学」と「小動物獣医学」あるいは「大動物臨床」と「小動物臨床」というカテゴリに区別されることが多いが,単純に大動物臨床と小動物臨床として分類して対応するには,獣医療をとりまく社会環境や対象動物に対する動物福祉の問題など多様かつ複雑になってきている. これらを整理するうえで,対象となる動物を目的別に分類して,それぞれの動物医療として対応していくのもひとつの方法である. たとえば,家族の一員・社会の一員として認識されるようになったペットに対する獣医療を「伴侶動物医療」,産業動物に対する獣医療を「経済動物医療」,野生動物に対する「野生動物医療」,動物園動物に対する「展示動物医療」やその他「実験動物医療」「学校飼育動物医療」「(特殊)外来動物医療」と分類して,それぞれの動物に対する定義(飼育目的・環境整備・飼養方法や疾病時の対応,動物福祉に関わる事項など)を明確にして,対応することで,社会からの理解が得られやすいと考える. |
4 伴侶動物医療の今後 伴侶動物医療の充実には,個々の診療施設の充実とともに二次診療システムの構築(言い換えれば,地域伴侶動物医療の充実)が重要であり,もちろん臨床獣医師の研鑽は必須である. わが国において,1980年ぐらいまでは,小動物臨床に関する情報を得ることは非常に困難で,臨床獣医師は,苦労を重ね,いろいろな手段を用いて学んだ知識や技術を小動物臨床に応用してきた. 各地で獣医師会主催の小動物臨床に関する研修会や講習会が定期的に開催され,ほとんど毎日どこかで勉強会が開催されるなど情報収集が容易となった現在では,個々の診療施設での伴侶動物医療の充実は,人の医療や欧米の動物医療から導入された知識や技術の習得など,個々の臨床獣医師の努力によって,比較的容易に達成されるであろう. しかし,「地域社会としての伴侶動物医療の充実」,つまり,具体的には,夜間・休日応急診療体制や二次診療システムの整備,高度動物医療の提供などに関しては,人の医療や欧米の動物医療に比べて,かなり立ち遅れている. 多くの臨床獣医師が夜間応急動物病院や二次診療システムの整備の必要性は理解している. しかし,なかなか実現しない. 理由は,いい意味でも悪い意味でも,臨床獣医師が「いろいろな疾患に対して自分自身で対応したい(他人に任せたくない)」「夜間や休日も可能なかぎり自分で対応したい」という欲求を強く持っていることに起因すると思われる. つまり,多くの臨床獣医師が「自分の病院ですべてのことに対応する」から「地域で対応する」と意識改革することで,「地域社会における伴侶動物医療の充実」が実現されるであろう. 地域にとって,何故,夜間応急動物病院が必要か.何故,二次診療センター病院が必要か.設立は可能か.また,それには,どのような人々や組織の協力が必要なのか.を地元の獣医師間で十分に検討し,実行に移すのが重要であり,それが実現された時にこそ,わが国の文化や国民性に適した伴侶動物医療が確立されると信じる. |
5 最 後 に 平成17年の1月から7月にかけて,「小動物獣医療に関する検討会」が6回開催され, [1]卒後研修,[2]獣医核医学,[3]獣医療における専門医,[4]獣医療における広告規制,[5]獣医療補助者,などが検討され,それぞれの項目について,現状・課題・提言が農水省に報告された.(詳細は農水省のHP参照) つまり,伴侶動物医療に携わることを希望する新卒の獣医師(獣医科大学を卒業し,国家試験に合格した約50%「約500名」)の臨床研修制度の整備,二次診療や高度医療を確立していくためには欠かせない専門医制度の確立と獣医核医学における法整備,また,獣医療補助者の業務範囲の明確化(教育と資格認定基準の平準化)や悪質な勧誘診療や比較広告を防ぎつつ広告規制を緩和することについて検討され,細かく現状と課題と提言が報告されている. これらの課題への対応については,私も検討会委員であったこと,また,日本獣医師会職域理事(小動物担当)として,今後も実現に向けて,小動物臨床部会の中で多くの先生方と協力し合って,積極的に協議検討していきたいと思う. さらには,関係省庁,日本獣医師会,地方獣医師会,獣医科大学が中心となって,多くの関係団体・関係者との協議検討を重ね,数年内での実現を望みたい. |
† 連絡責任者: | 細井戸大成(ネオ・ベッツVRセンター) 〒537-0025 大阪市東成区中道3-8-11 TEL 06-6977-0760 FAX 06-6977-0761 |
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