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解説・報告

5 フェレットに使用する薬剤
 動物に使用する薬剤は,動物用医薬品として農林水産省により製造や販売が承認される.この承認は,おのおのの薬剤について,対象の動物種ごとに効能及び効果を規定している.
 しかし,獣医臨床の対象となるすべての動物,すべての疾病に対して動物用医薬品が開発され,承認されているわけではない.承認薬がない場合には,それぞれの獣医師の裁量により,他種の動物用の薬剤や人体薬が用いられたり,あるいはその動物用の薬剤であっても,使用対象となっていない疾病については効能外の使用が行われることになる.
 犬と猫に使用される薬剤は,かつてはほとんどが人体薬であったが,最近は犬あるいは猫用に多くの薬剤が開発されている.しかし,いまだフェレット用の薬剤は開発されていない.犬,猫に比べてフェレットの飼育頭数が少ないことを考えれば,これはやむをえないことであろう.そこで,フェレットの診療に際しては,他の種の動物用の薬剤か人体薬を使用せざるをえないのが現状である.
 非承認薬を使用する場合は,特に有効性と安全性について留意すべきである.有効性に関しては,承認対象外の動物種に対しても,対象の動物種と同等の効能・効果が得られるか,事前に考慮しなければならない.仮にフェレットが犬と同一の疾病に罹患したとして,そのときに犬用の動物用医薬品を犬の場合と同一の用法・用量で投与しても,同等の効果が得られるという保証はないからである.動物種が異なれば,薬物代謝の機序や速度が異なることが多く,治療上の効果を示すためには高用量の投与が必要なことがある.
 また,安全性に関しては,承認対象の動物種に対しては安全な薬剤であっても,他種の動物には副作用を発現しやすいものがあることに注意する.この場合,薬剤の有効成分そのものの安全性は高くても,賦形剤成分が副作用を示すことがある.すなわち,ある薬物のある製剤がフェレットに安全に使用できたとしても,これをもって同一薬物の他の製剤も安全であるとはいえないのである.
 非承認薬の有効性と安全性は,その有効成分や剤型等からある程度の予測は可能であろうが,実際には多くの使用経験の蓄積が必要である.こうした知見を収集して診療にあたることが肝要である.また,飼い主に対しては,フェレット用の承認薬がなく,承認外の薬剤を使用せざるをえないことを明確に伝え,これに付随して発生する問題を十分に説明すべきである.また,承認薬を使用する場合以上に,万一の不測の副作用発現に備えておくことも必要であろう.

6 投 薬 法
 フェレットへの投薬は,犬や猫に対して行われているいずれの方法も応用が可能であり,特に経口投与と注射が一般的に行われている[12].

(1)経口投与
 経口投与には錠剤や散剤,顆粒剤,液剤を使用する.通常は,錠剤を強制的に投与するのがもっとも容易である.
 飼料あるいはその摂取が薬効に影響を及ぼさないのであれば,薬剤を飼料に混じて与えてもよいが,フェレットはそれを自発的に摂取しないことが多い.特に散剤などの場合には,薬剤を混じた飼料の摂取が不十分であると,薬物の摂取量が不明になる.これを避けるためには,やむをえず飼料に混じる場合には錠剤を用いるべきであろう.
 また,フェレットは,比較的液剤を経口投与しやすい動物である.液剤を調製し,チューブを接続したシリンジを使用して飲ませるとよい(図2).この場合,成体のフェレットであれば,1分間に10mlずつ,最大で100mlくらいまでの投与とする[12].

(2)注  射
 注射は,皮下注射と筋肉内注射,腹腔内注射,静脈内注射などが可能であり,いずれも犬や猫における方法に準じて実施する.一般的には,皮下注射と筋肉内注射が多く行われている.静脈内注射は,麻酔を施さないと困難なことが多いようである.
 なお,術者が1人で注射を行わなければならない場合には,片方の手でフェレットの頸部を保持してぶらさげるように保定し,もう一方の手で皮下注射を行うこともできる[1](図3).

フェレットへの液剤の経口投与法
図2 フェレットへの液剤の経口投与法
フェレットへの簡便な皮下注射法
図3 フェレットへの簡便な皮下注射法

 

引 用 文 献
[1] Fox JG. : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 173-181, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[2] Fox JG. : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 183-210, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[3] 深瀬 徹:獣畜新報,49,496-500(1996)
[4] 深瀬 徹:獣畜新報,50,425-426(1997)
[5] 深瀬 徹:獣畜新報,50,508-510(1997)
[6] 深瀬 徹:獣畜新報,50,931-932(1997)
[7] 深瀬 徹:日小獣会誌,41,97-107(2001)
[8] 深瀬 徹:獣畜新報,56,159-160(2003)
[9] 深瀬 徹:獣畜新報,58,170(2005)
[10] 深瀬 徹:日獣会誌,58,645-648(2005)
[11] Lee EJ, Moore WE, Fryer HC, Minocha HC : Lab Anim, 16, 133-137 (1982)
[12] Marini RP, Fox JG : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 449-484, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[13] Thronton PC, Wright PA, Sacra PJ, Goodier TEW : Lab Anim, 13, 119-124 (1979)

(以降,次号につづく)


† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
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