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解説・報告

5 飼  育
 フェレットは,犬や猫と同様の方法で飼育することができる.ただし,屋外での飼育は勧められない.屋内でケージに収容して飼育し,遊ぶときなどに,適宜にケージから出すのがよいだろう.
 飼育ケージは,金網製のものを使用する.フェレット用のケージが市販されているが,大型の鳥かごやウサギなどの小動物飼育用のケージを用いてもよい.ただし,ケージの網の目が大きいと,たとえわずかな隙間であっても,フェレットはそこから頭を出して逸脱することがある.ケージの選定にあたっては,目の大きさに細心の注意を払うべきである.特に入院させた場合には,犬及び猫用のケージに収容することがあるが,逸脱しないように留意しなければならない.
 フェレットの飼育に適した気温は15〜21℃といわれているが,これ以下あるいはこれ以上の気温であっても,ある程度の範囲(およそ5〜25℃)であれば,一般に良好に飼育することができる.ただし,フェレットは汗腺の発達が不良なため,気温が30℃を超えると,体長が悪化することがある[5].特に高湿度の下では体調の悪化が起こりやすくなる.温度管理に加え,湿度にも注意を払うべきであり,特に夏期には,必要に応じてエアコンを使用するのが無難である.
6 繁  殖
 ペット用に販売されているフェレットのほとんどは,すでに生殖腺及び肛門腺の摘出手術が行われたものである.したがって,フェレットの繁殖を経験する機会は少ないが,ときには生殖腺を摘出していないフェレットが飼育されていることもあり,避妊手術や去勢手術を実施したり,あるいは生殖器系の疾病に遭遇することもある[17].
 フェレットは,生後6カ月ないしは8カ月から12カ月ほどで性成熟をする[6, 7].なお,雌のほうが雄よりも早く性成熟する傾向がある.
 自然の光周期の下では雌の発情期は3月〜8月に認められる[7].しかし,ペットとしての一般的な飼育条件下では,通年にわたって繁殖が行われることがしばしばある.
 発情した雌のフェレットは,外陰部の腫脹を示す(図3).
 フェレットは,交尾を行うまで発情が持続することが多い[26].このため,避妊手術を施していない雌のフェレットの場合,交尾を行わないと長期間にわたって発情が持続し[24],これにともなって体内に高濃度のエストロジェンが存在しつづけ,その結果,骨髄の造血機能が低下して貧血を発することがある[1, 23].これを一般にエストロジェン誘発性貧血といい[9],フェレットに特徴的に認められる疾病の一つである.
 排卵様式は交尾排卵で,交尾後30〜40時間で排卵が行われる[7].
 妊娠期間はおよそ42日で,1回の出産の産子数は1〜18(平均8)個体である[6, 7].
 新生子は非常に小さく,体重は6〜12gにすぎない(図4).しかし,その発育は早く,生後3週目頃から固形飼料の摂取が可能となる.眼が開くのはそれよりも遅く,生後34日目頃である.哺乳期間は通常,6〜8週間にわたる[6, 7].
 フェレットの寿命は5〜6年といわれる.ただし,ペットとして飼育している場合には,これよりも長くなることが多く,8〜11年にわたって生存する個体もある[7].

図3
発情期の雌のフェレットに認められた外陰部の腫大

図4
フェレットの新生子
7 フェレット以外のペットとしての食肉目動物
 食肉目の動物でペットとしてもっとも多く飼育されているのは,いうまでもなく犬と猫である.犬,猫以外の食肉目動物は,一般にエキゾチックアニマルと称されるが,そのなかで飼育頭数が多いのはフェレットであろう.フェレットを除いては,食肉目の動物は,それほど多くがペットとして飼育されているわけではないが,以下にあげる種は比較的多くが飼育されている.

(1)シマスカンク
 シマスカンクMephitis mephitis は,フェレットと同じく,イタチ科の動物である.野生の個体は,北米大陸に生息している.
 成体は,頭胴長30〜40cm,尾長20〜40cmとなり,尾が長い.体重は1〜2kgほどになる.
 食性は雑食性で,飼育する場合には肉類や鶏卵(生卵),昆虫類,野菜類,果物類を給与する.また,ドッグフードやキャットフードを与えてもよい.シマスカンクは水浴びを好むので,飼育ケージ内に水を入れた容器を設置することが望ましい.
 なお,シマスカンクは,著しい悪臭を発する物質を肛門腺から分泌する.そのため,販売されている個体のすべては,すでに肛門嚢摘出手術が施されたものである.
 シマスカンクは,成長にともない,凶暴になる個体がある.飼育は決して容易ではない[11].

(2)アライグマ
 アライグマProcyon lotor は,アライグマ科に属する.北米及び南米大陸に分布するが,ヨーロッパやアジアの一部に移入されている.日本においても,北海道などで,移入動物として定着し,大きな被害を発生させている.
 タヌキに似た外貌を示し,成体は頭胴長40〜60cm,尾長20〜40cmとなる.体重は,大型の個体では10kg以上に達する.
 犬や猫と同様の方法で飼育でき,飼料には肉類やドッグフードなどを給与する[14].
 しかし,アライグマも凶暴な個体が多く,ペットには不適である.そのため,成長した個体が遺棄されることが多く,上述のように移入種となり,問題が生じている[20, 21].

(3)フェネックギツネ
 フェネックギツネVulpes zerda は,イヌ科の動物で,北アフリカに生息している.
 頭胴長20〜40cm,尾長15〜30cm,体重1〜1.5kgと,小型のキツネである.また,耳介が非常に大きいのが特徴で,その長さは15cmにも達する.
 飼料としては,野菜類や果物類,昆虫類,ドッグフード,キャットフードなどを与える[18].

(4)ハクビシン
 ハクビシンPaguma larvata は,ジャコウネコ科に属する.アジアに広く分布し,日本にも生息している.日本の在来の動物であるともいわれるが,現在では移入種であると考えるのがふつうである.ただし,移入種としての歴史は古く,江戸時代にはすでにハクビシンが生息していたことが知られている[20, 21].
 成体は,頭胴長50〜70cm,体重は2〜3.5kgほどになるが,冬期には皮下脂肪を蓄え,体重が5kgを超える個体もある.
 飼育にあたっては,果物類やドッグフード,キャットフードを給与する[19].
 数年前まではペットショップでハクビシンが販売されているのをみることがあったが,これは輸入個体であったという.ハクビシンも,アライグマと同様に非常に凶暴な個体が多く,ペットとしての飼育には適さない.そのためであろうが,最近ではハクビシンが販売されているのをみることはない.また,飼育しきれなくなった個体を遺棄した例も多いと思われ,こうした個体が新たな移入個体として野外に定着している可能性は高い[20, 21].

 

参 考 文 献
[1] Bernard SL, Leathers CW, Brobst DF, Gorham JR : Am J Vet Res, 44, 657-661 (1983)
[2] Bleavins MR, Aulerich RJ : Lab Anim Sci, 31, 268-269 (1981)
[3] Evans HE, An NQ : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 19-69, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[4] Fox JG : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 3-18, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[5] Fox JG : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 173-181, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[6] Fox JG : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 183-210, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[7] Fox JG, Bell JA : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 211-227, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[8] Fox JG, McLain, DE : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 149-172, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[9] Fox JG, Pearson, RC Bell JA : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 247-272, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[10] 深瀬 徹:獣畜新報,49,496-500(1996)
[11] 深瀬 徹:獣畜新報,49,845-846(1996)
[12] 深瀬 徹:獣畜新報,50,425-426(1997)
[13] 深瀬 徹:獣畜新報,50,508-510(1997)
[14] 深瀬 徹:獣畜新報,50,931-932(1997)
[15] 深瀬 徹:獣畜新報,52,310-312(1999)
[16] 深瀬 徹:日小獣会誌,41,97-107(2001)
[17] 深瀬 徹:獣畜新報,54,648-651(2001)
[18] 深瀬 徹:獣畜新報,55,288-289(2002)
[19] 深瀬 徹:獣畜新報,56,159-160(2003)
[20] 深瀬 徹:獣畜新報,56,551-553(2003)
[21] 深瀬 徹:明治薬大紀要,34,1-20(2005)
[22] Kaufman LW : Physiol Behav, 25, 139-141 (1980)
[23] Kociba G, Caputo CA : J Am Vet Med Assoc, 178, 1293-1294 (1981)
[24] Marini RP, Fox JG : Biology and Diseases of the Ferrets, Fox JG ed, 2nd ed, 449-484, Williams and Wilkins, Baltimore (1998)
[25] Poddar S, Murgatroyd L : Acta Anat, 96, 321-334 (1976)
[26] Ryland LM, Gorham JR : J Am Vet Med Assoc, 173, 1154-1158 (1978)

(以降,次号につづく)


† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
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