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解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(II)
― フェレットの特徴と飼育に際しての留意点 ―

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門助教授)

1 系統分類学
 フェレットMustela putorius furo(英名ferret)は,いわゆるエキゾチックアニマルあるいはエキゾチックペットと称される動物の一種で,近年,本邦においても広く愛玩用に飼育されているものである[10, 12, 13, 16].
 フェレットは,動物の系統分類学上は,哺乳綱Mammalia,食肉目Carnivora,イタチ科Musteridaeに属する.食肉目は,哺乳綱を形成する一つの目(order)であり,裂肉歯あるいは切断歯といわれる歯を有するのが特徴である.これは,上顎の第4前臼歯と下顎の第1後臼歯で,左右に上下1対ずつ,合計4本が存在する.上下の裂肉歯の遊離縁に認められる錐状の突起は非常によく噛み合い,肉を切り裂くのに適した構造になっている(図1).食肉目の動物が裂肉歯を有することは,このグループが共通の祖先から生じたことを示している[15].
 裂肉歯は,上述のように肉を切り裂くのに適した形態であり,したがって食肉目の動物は,基本的には肉食性であることが推察される.しかし,肉食性であることをもって食肉目を規定することはできない.肉食という点に関しては,食肉目以外にも肉食性の動物は数多く存在し,一方,食肉目の動物の種分化において食性はさまざまに変化し,ジャイアントパンダAiluropoda melanoleucaのように完全に草食性の食肉目動物も誕生している.なお,こうした草食性の食肉目動物の裂肉歯は,本来の形態から変化し,臼状となっている.
 食肉目には通常,イタチ科とアライグマ科Procyonidae,クマ科Ursidae,イヌ科Canidae,ジャコウネコ科Viverridae,ハイエナ科Hyaenidae,ネコ科Felidaeの7つの科(family)が設けられている.なお,アライグマ科からジャイアントパンダ1種あるいはジャイアントパンダとレッサーパンダAilurus fulgensの2種を独立させ,食肉目のなかに別途にパンダ科Ailuropodidaeを設けることもある.また,海棲の哺乳類であるアシカ科Otariidaeとアザラシ科Phocidae,セイウチ科Odobenidaeの動物を食肉目に含めることがあるが,これらは鰭脚目Pinnipediaとして独立させるのが一般的である.
上顎第4前臼歯
上顎第4前臼歯
下顎第1後臼歯
下顎第1後臼歯

図1 食肉目動物の裂肉歯

 

2 由来と飼育の歴史
 フェレットは,野生の動物ではない.ニュージーランドのように,飼育されていた個体が野生化し,移入種となっている地域もあるが,本来は家畜化された飼育動物である.これはイノシシからブタが作出されたのと同様であり,フェレットは,ヨーロッパケナガイタチM. putorius(ヨーロッパからウラル山脈にかけて分布)を原種とするといわれている.ただし,一部には,ステップケナガイタチM. eversmanni(オーストリアから中国にかけて分布)に由来するという説もあり,その起原は必ずしも明確ではない[4].
 フェレットの家畜化の歴史は古く,紀元前にすでにそれらしい動物の記録がある.最初に家畜化された地域は北アフリカであるという.当時の家畜化の目的は,穀物をネズミ類から守るためであったと考えられている[4].
 その後,フェレットはヨーロッパに導入され,主としてウサギ狩りのために使用されてきた.そして,さらにアメリカ合衆国へ渡り,ペットとしての地位を確立した[4].
現在では,フェレットは,アメリカ合衆国やヨーロッパ,オーストラリア,そして日本など,世界の各国でペットとして飼育されるようになっている.このほか,フェレットは実験用動物としても使用されている.
 日本においては,フェレットはペットとして飼育されているものがほとんどである.ペットショップ等で販売されているフェレットは,国内で繁殖された個体も少数はあるが,多くはアメリカ合衆国あるいはその他の国における繁殖個体である.これらは,輸入時にすでに避妊手術または去勢手術,さらに肛門嚢摘出手術が行われている.こうした手術済みのフェレットは,スーパーフェレットあるいはニューターフェレットなどの名称で販売されていることがある.
3 外  貌
 フェレットは,イタチに類似の外貌を呈する(図2).
雌成体は,頭胴長20〜40cm,尾長7〜15cm,体重0.6〜0.9kg(大型の個体は1.5kg)となる.また,雄成体は,雌よりも大きく,頭胴長30〜45cm,尾長10〜20cm,体重1〜2kg(大型の個体は2.5kg)ほどになる.
 毛色は,黒褐色を基本とし,顔面の一部などが部分的に白色を呈するものが一般的である.個体により毛色には濃淡が認められるが,このような毛色をセーブル(sable)という.sableとは,クロテンMartes zibelinaの英名である.クロテンに類似の毛色を示すために,こうした名称がつけられたのであろう.また,セーブルのバリエーションとされるが,通常のセーブルよりも頭胴部の毛色が淡色のものをバタースコッチ(butterscoch)と称する.このほか,四肢の先端が白色を呈するシルバーミット(silver mitt, white-footed)や,全身が白色の被毛に被われて眼が赤色を呈するアルビノ(albino, red-eyed white),同じく全身の被毛が白色であるが,眼が黒色のホワイトファー・ブラックアイ(black-eyed white)などがよく知られている.また,最近は,このほかにも多様な毛色の個体がペットとして飼育されるようになっており,さらに長毛の個体も固定されている.
図2 フェレット
図2 フェレット
4 食性と飼料
 フェレットの先祖とされるヨーロッパケナガイタチあるいはステップケナガイタチは,小型の哺乳類や鳥類,爬虫類,両生類,昆虫類などを捕食し,きわめて肉食の傾向が強い.しかし,家畜されたフェレットは,肉食を基本とはするが,ある程度の雑食性を示すようになっている[15].
 フェレットをペットとして飼育する場合,この動物が雑食性で,さまざまなものを採食するとはいえ,供与する飼料の種類は限定される.ペットに与えるべき飼料は,安定して供給される必要があり,また,給与の簡便性や経済性も考慮しなければならず,動物が本来の状態で摂取するものとは大きく異ならざるをえないからである.たとえば,フェレットに対して他種の動物を飼料として与えるのは現実的ではない.かつてマウスやラットを飼料としてフェレットを良好に飼育した例もあるようだが,通常は固形の配合飼料を給与するのが一般的である.すなわち,フェレット用に販売されている固形配合飼料や,場合によっては,犬用または猫用の固形配合飼料を与えるようにする[15].
 なお,犬用や猫用の飼料を給与する場合,猫用のほうがフェレットに適するといわれることが多いが,フェレットの飼料としての適否は,個々の飼料の組成あるいは品質によると思われる.また,フェレット用に販売されている飼料であっても,そのすべてが犬用または猫用の飼料に比べてフェレットに適しているとは限らないようである[15].
 イタチ科の動物の消化管は食肉目動物のなかでも特に短く,フェレットもその例外ではない.フェレットの小腸の長さは1.8〜2mほどで,大腸は,盲腸を欠き,長さは約10cmである[3, 25].そのため,フェレットの消化管内における食物の滞留時間は非常に短く,採食から糞便として排泄されるまでの時間は,成体であってもおよそ3時間にすぎないという[2, 5].
 このようなフェレットの消化器系の特性にもとづき,その飼料としては高蛋白質,高脂肪のものが好ましいとされている[5].したがって,フェレット用に開発されている飼料は,蛋白質含有量と脂肪含有量が多くなっているのがふつうである[5, 8].
 また,消化管が短いことによるのであろうが,フェレットは1日の摂餌回数が多く,通常,1日に9〜10回の飼料の摂取を行う[22].そのため,フェレットへの飼料の給与に際しては,不断に摂餌が可能なようにするか,1日に数回(理想的には5回以上)の給餌を行うようにする.このほか,水も自由に摂取できるように不断に与えておくことが必要である[15].

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