会報タイトル画像


解説・報告(最近の動物医療)

<手術術式>
 術野を剃毛消毒し,ドレープで覆い,滅菌粘着ドレープを貼り,皮膚を開創し骨折部にアプローチした.多くの場合,緩んだり破損したプレートなどがあり,骨折部には瘢痕組織が存在し,遠近骨髄は閉鎖している(図9).不要な瘢痕組織などを除去し,電動ピンドライバーとネジ付きスタインマンピンとエポキシパテ金属用[16]を使用し,創外固定法によって整復と固定をおこなった.次に,あらかじめ骨ドリルにて窓を開けておいた他の部位(たとえば上腕骨近位)から,鋭匙を用いて海綿骨を採取し,骨折部に入れた.最後に細胞増殖因子であるb-FGFをブタコラーゲン由来のゼラチンハイドロゲルに含浸して[18, 22],骨折部位に注入した(図10).
図3
図9 当院に運び込まれる骨癒合不全の典型.プレートやスクリューが緩み,骨が壊死し吸収され,骨髄も閉じている.
 
図4
図10 当院の骨再生手術の1型.Debrideし,b-FGFとゼラチンを注入し,海綿骨を移植し,創外固定法を実施する.
 
<症 例>
 シーズー,6歳,体重6.3kg,避妊済み雌,骨折部位は脛骨骨幹部であった.
 近医にて,髄内ピンとワイヤーによる手術を受けたが,術後37日後に,ピンの破損が起こった.ふたたび近医にて,骨プレートによる再手術を行った.術後67日後に,固定の破綻と骨吸収が起こった.初めの骨折から77日後,当院にてdebridement及びb-FGFとDDSの操作を行い,創外固定法にて手術した.以下,この手術をTE(Tissue Engineering)手術とする.ネジ付きスタインマンピンとエポキシパテ金属用を用いて創外固定法を行った.TE手術63日後骨折部の尾側に広範囲の仮骨が明瞭に観察される.TE手術139日後(はじめの骨折から216日後)仮骨は完全に骨折部を架橋し,骨癒合を果たした.(図11)
 もうひとつの方法は,幹細胞培養とPRP(Platelet Rich Plasma:血小板に富む血漿)ゲルを用いる方法である.TE手術の1週間前に骨折癒合不全患者の骨髄液を採取し,CO2インキュベーターにて自己幹細胞を培養し,自己PRPゲルとともに骨折部に入れるというものである.
 
<症 例>
 雑種猫,3歳,体重4.1kg,雄,上腕骨粉砕骨折.
 他院からの紹介で,当院にて創外固定法を実施したが,72日目に抜ピン治癒後,2階から落下して再骨折.ふたたび当院にて自己幹細胞培養増殖とPRPによるTE手術を実施した.その61日後,仮骨による架橋に成功した.仮骨の画像上のデンシティは十分である.TE手術後62日でピンを抜去した.(図12)
 当院へ紹介されてきた症例数は,2005年1月現在で30症例を超え,b-FGFとDDSの組み合わせ,または幹細胞とPRPゲル法でTissue Engineering手術を実施した.すべての症例において新しい骨が再生され,強い骨癒合を果たした.
 Tissue Engineering手術を実施してから,創外固定ピンを抜去するまでの期間を各症例で比較した.
 骨組織再生は多くの小動物(マウス・ラットなど)で実験され,その成果が証明されている[2, 11, 21].しかし,本研究に用いた症例群は,実験によって作り出された新鮮骨折ではなく,複数回の手術を経た骨癒合不全症例であり,骨折部の生物学的活性は非常に低い.もしも骨組織の再生,つまり組織工学的手法によって,長期間経過した重症の骨折癒合不全症の一旦完全に収束した骨癒合システムを,もう一度開始させることが可能であるならば,生理的な仮骨の増生による強い骨癒合が果たせるのではないかと推察した.

骨折時から0日後 2日後 37日後 41日後 67日後
骨折時から
0日後
2日後 37日後 41日後 67日後
 
手術 I から0日後 13日後 26日後 40日後 (抜ピン)72日後
手術 I から
0日後
13日後 26日後 40日後 (抜ピン)
72日後
     
骨折時から77日後 当手術から0日後 85日後  8日後 99日後 22日後 114日後  37日後 140日後  63日後
骨折時から
77日後
当手術から
 0日後
85日後
 
 8日後
99日後
 
22日後
114日後
 
 37日後
140日後
 
 63日後
 
手術 I から92日後再骨折 93日後手術 II 105日後 12日後 117日後 24日後
手術 I から
92日後
再骨折
93日後
手術 II
105日後
 12日後
117日後
 24日後
     
骨折時から169日後 当手術から92日後 199日後 122日後 216日後 139日後 (抜ピン) 216日後 139日後
骨折時から
169日後
当手術から
 92日後
199日後
 
122日後
216日後
 
139日後
(抜ピン) 
216日後
 
139日後
 
手術 I から131日後 手術 II から38日後 141日後 48日後 154日後 61日後 155日後 62日後
手術 I から
131日後
手術 II から
 38日後
141日後
 48日後
154日後
 61日後
155日後
 62日後
図11 他院にて髄内ピンとプレート法を受け,骨癒合不全を起こした症例に対し,b-FGFを用いて骨再生をおこなった.旺盛な仮骨が観察される.   図12 当院の骨折手術後,2階から落下して再骨折した症例に対し,幹細胞の培養増殖とPRPゲルを実施した.骨折部の間隙が新生骨によって埋まっている.

||| 脱  臼
1 動的な創外固定法の工夫
 脱臼を治療するとき,関節を動かないように固定すると関節包や周囲の軟部組織が修復し,その結果として脱臼が治癒するという考え方がある.関節を固定するために創外固定法を実施することも提唱されている.もともと動くという機能を持った関節に対し,固定して動きを止めようとすると,力学的にどうしても無理が掛かる.動きを止めようとしても,動物はそれでも動こうとする.結果,固定ピンが破損したり,ピンが緩んだり,ピンが骨を破壊していったりする.たとえば大腿骨近位外側から骨頸部・骨頭を通り,寛骨臼まで貫通したピンによって脱臼を治療しようという方法があった.そのピンはもちろん後肢の動きに伴っていろんな角度に振られながら変位する.結果として,寛骨臼のピン孔は徐々に大きくなり,寛骨臼を破壊していく可能性が大である.場合によってはピンが腸を穿孔し,感染を起こす恐れがある.そういった無理や痛みの起こる治療法ではなく,筆者の考え方は「動くところは自由に動かしながら,脱臼はさせない固定をする」ということである.これを称して動的創外固定(Dynamic External Fixation : DEF)と名付けた.股関節にはDEFH(Dynamic External Fixation for Hip)であり,膝蓋骨にはDEFK(Dynamic External Fixation for Knee)である.
<DEFH>
 股関節脱臼を起こした犬の1.腸骨中央 2.大腿骨近位 3.坐骨結節,合計3カ所に穴あきのスクリューを挿入する.坐骨結節がしっかりしている中型犬・大型犬に向く方法である.以上の3カ所をロープで連結するが,大腿骨のスクリューの孔はロープを貫通し,滑るようにしておく.あとの2カ所はロープをスクリュー孔に結紮し留める.このDEFHを装着された患者は,骨頭部分が寛骨臼内へ押しつけられ,大腿骨を前後方向に自由に動かすことができる.外反も自由にできる.しかし,内反だけはすることができない.再脱臼は大腿骨の内反によって起こるので,この内反を防ぐことによって再脱臼を防止することができるのである.初めの数日はロープを短く結紮することによって外反ぎみとし,厳しく内反を禁じるが,徐々にロープのテンションを緩めていき,1週間で通常歩行とし,3週間後にはロープ無しで様子を見,脱臼が起こらなければ1カ月後にスクリューを抜く[4].
S

 


† 連絡責任者: 岸上義弘(岸上獣医科病院)
〒545-0042 大阪市阿倍野区丸山通1-6-1
TEL 06-6661-5407


戻る