会報タイトル画像


論 説

3 野生動物救護活動における獣医師の役割とは
  1. 専門職として傷病野生動物の診断と治療,個体の診療行為と管理(日常業務の一環)
  2. 診療におけるデータ集計から,疾病や疾病の流行傾向の把握と予防対策等による集団や種の管理(ツル,ガン,ワシなど)
  3. 診療から事故原因を究明し,事故防止対策の提案と実行(人工物激突症候群など)
  4. 傷病野生動物から人と動物の共通感染症の早期発見と流行防止対策(西ナイル,鳥インフルエンザ,エキノコックス,E型肝炎など)
  5. 疾病から環境汚染状況の調査,研究とその対策(鉛,油,ダイオキシン,農薬など)
  6. 有害駆除鳥獣を,各種の正常値,感染症や汚染状況,自然環境の変化などの調査,研究等に科学的活用する(カラス,ウ,ドバトなど)
  7. 希少種等の増殖,繁殖に協力(コウノトリ,ヤンバルクイナ,カラスバト,ヤマネコなど)
  8. 傷病野生鳥獣の診療を通じて,自然保護,野生動物保護管理等の重要性を普及啓発をする(環境教育,理科教育など)
 これらを長期的,総合的に実施するには,野生鳥獣保護管理研究センター(仮称)を,各都道府県には1箇所以上の公共機関として設置し,業務を民間の関連機関等に委託する.ここには数名の専門知識を持った獣医師等を配置し,各行政機関と連携して早期対応が可能となる体制を構築するとともに,これにより獣医師の社会貢献の場を増やし,社会的地位の向上にもつながると思われる.
 
4 今後の傷病野生動物の救護は
  1. 多くの傷病野生動物は,動物病院に保護収容されるが,多くの獣医師はその取り扱いになれていない.獣医師や動物看護士などに野生動物救護法などを教育し,野生動物を診療できる獣医師及び動物病院を増やす必要がある.また,獣医学教育の中に野生動物診療を盛込む必要がある.野生動物は動物愛護,福祉面だけでなく,種の保存,生物多様性の継続的な保全などの面も考慮し,飼育動物との違いを明確にする教育が必要である.(教育方針等は,WRV等で基本をつくり,教本を作成,セミナーを開催し,認定等を考えている.)
  2. 動物病院では,特殊な野生動物の入院などのための保管施設を有しておらず,緊急等の一時診療は可能であるが,二次診療は公共機関の野生動物救護センターへ搬入することとし(図・傷病鳥獣の救護対策例参照),その一方で里親制度を構築する必要がある.WRVでも教本を作り,里親ボランティア用のセミナーも考えている.今まで数県より救護ボランティア養成の講師を受けたこともあり,里親ボランティアの連携ができればいいと感じている.
  3. 油汚染救護については,WRVはすでに環境省からの委託を受け,行政や獣医師向けの講習会を開催している.また,市民ボランティアを養成するセミナーも開催したい.
  4. 都道府県における救護センターの設置は,環境省の第9次鳥獣保護事業計画にも鳥獣保護センターについての記載があるので,地方獣医師会等は早期の実現のため積極的に働きかけていく必要がある.
  5. WRVは,数県の地方獣医師会と地方で積極的に活動している獣医師から共通のカルテを提出していただき,10年以上にわたり傷病鳥獣の診療データを毎年集計し,学会で発表している.より多くの協力が得られれば,さらに有効な資料になると思われる.
  6. 獣医師は,獣医療のみならず獣医学を通じて,科学者として野生動物の保護管理等から自然保護へと活動の場を増やしてゆける能力を持っている.そのような獣医師は少しづつ増加し,各方面で活躍している.

 人の経済活動と自然は対峙し,自然は地球から失われつつあり,野生動物も急激に減少している種が多い.一方,生息地を追われ,都市部に生活の場を求める動物もおり,社会問題化している.人間社会は自然との対立から共存共栄の時代に変わりつつある.
 獣医師は獣医学を通じて,野生動物や自然環境にもっと興味を持ち,その能力を環境と社会のために働かせることが今後は大切なことである思われる.
 
参 考 文 献
[1] 野生鳥獣保護管理ハンドブック:日本林業調査会(2001年)
[2] 福島県鳥獣保護センターレポート:(財)ふくしまフォレスト・エコライフ財団(2002)
[3] 野生動物救護獣医師協会:カルテ集計(2004)
[4] 野生動物と環境保護:須田沖夫,第23回動物臨床医学会野生動物フォーラム(2002)
[5] 野生動物法概観:鳥居敏男,ペット六法法全篇,誠文堂光社(2002)
[6] 野生動物救護のあり方(野生動物救護対策の現状と活動のあり方):日本獣医師会(2005)




図 傷病鳥獣の救護対策例

 

戻る


† 連絡責任者: 須田沖夫(須田動物病院)
〒191-0041 日野市南平4-45-2
TEL 042-592-2029 FAX 042-592-2064