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工藤莊六†(工藤動物病院院長・東京都獣医師会会員)
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1.は じ め に |
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図1 成熟白内障の前眼部とスリット像
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図2 核硬化症の前眼部とスリット像
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2.犬の白内障手術法 白内障手術法には水晶体前嚢を円形に切除し,水晶体内容のみを取り出す方法として,水晶体嚢外摘出法(Extracapsular Cataract Extraction : ECCE)と,超音波水晶体乳化吸引法(Phaco-Emulsification & Aspiration : PEA)がある.この他に人では水晶体を嚢ごとそっくり摘出する嚢内摘出法(Intracapsular Cataract Extraction : ICCE)が応用されることもあるが,犬ではキモトリプシンによるチン小帯の溶解が難しいことや,水晶体後嚢と硝子体膜の接着が強固で剥がせないなどの理由から,ICCEは水晶体脱臼にしか適用されない. 近年,犬の白内障手術のほとんどはPEAで行われている.しかし,PEA中にチン小帯断裂や嚢破損が生じると以後のPEA操作は不能となるため,その時点でECCEに変更しなければならず,ECCEは犬の白内障手術をする上で今なお重要な手術手技であることに変わりはない. ECCEは角膜を約180度切開し,水晶体嚢を円形に切開して白濁した水晶体内容物をまるごと取り出す手技である.PEAは,角膜に3mmの切開創を設け,この切開創から前嚢切開を行い,超音波チップで水晶体内容を破砕・吸引する.PEAは,眼球を虚脱させずに手術するクローズドアイサージェリー(closed eye surgery)であり,これにより眼内のダメージを最小限に留めることができる.犬の白内障手術にPEA導入が導入されたことで,従来5〜7割程度の成功率であった犬の白内障手術は9割を超える成功を収めるようになった.ECCEやPEAはいずれも水晶体嚢は残存させるので,嚢内には屈折矯正用の眼内レンズ挿入が可能となる. |
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3.眼内レンズ(intraocular lens : IOL) 白内障手術はいずれの方法にしろ,混濁した水晶体を取り除くことである.しかし,網膜に結像させる屈折能を持つ水晶体がなくなると強度遠視となり,光は取り戻すが視力はでない. 犬の白内障手術後にIOLを挿入した初めての報告は今から50年前にさかのぼる. 1956年SimpsonはECCEによる犬の白内障手術後に,全長11mmと14mmのIOLをそれぞれ後房に挿入した[6].その後,犬のIOL挿入報告や研究はしばらく途絶え,1990年前半になって,Davidson,Gaiddon,Peiffer,Nasisseらにより犬におけるIOLの再評価が行われた[3, 4].その結果,白内障手術後の視覚獲得にはIOL挿入が不可欠であることが指摘され,今日,欧米で行われる犬の白内障手術にはほぼすべての症例にIOLが挿入されている.わが国では1996に国産初の犬用IOLが発売され,現在では年間約300例の白内障手術眼にIOLが挿入されている. IOLは光学部(optic)とそれを支える支持部(haptic)から成っていて,opticの直径は6mm,全長は15〜16mmである(図3).ECCEは切開層が広いので白内障手術後のIOL挿入に支障はないが,PEAでは切開創が3mmであるため角膜切開創をさらに4mm切り広げ,7mmの切開創として水晶体嚢にIOLを挿入する.しかし,2004年末からはPEA手術に対応して3mmの切開創からIOLを折りたたんで眼内に挿入できる犬用のフォーダブル眼内レンズ(foldable intraocular lens)も国内発売され(図4),角膜切開創を切り広げずにIOLを挿入することが可能となった. |
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図3 犬用眼内レンズ(メニコン社)+40D, 15mmシングルピースイクイコンベックス型 |
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図4 犬のフォーダブル眼内レンズ(メニコン社) +41D,14mmシングルピース
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