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6.結果ならびに考察 (1)発酵飼料の成分の変化 発酵飼料の発酵前後の栄養成分について表3に示した.
RUPについてはRDPの上昇に伴う減少がセミコンプリートを発酵飼料の事例では1.6%,TMR発酵飼料では11.4%であった. 乳酸発酵により蛋白質のルーメン内の分解率が多くなることが牛のためによい,悪いではなく,蛋白質の消化性状の変化とみて給与設計時にその事を十分に配慮することが大事なこととなる.RDP値の上昇はルーメン内にてアンモニア化の上昇ととらえ,それに対するNFCの十分な配慮が必要になる.
したがって発酵飼料の給与設計を発酵前の分析値による場合はADF,NDF値の減少を考慮することが賢明と思われる.
いずれにしろCP値の上昇が推定される前提に立った給与設計が必要となるかも知れない.小生は常に考慮した設計を行うことにしている.その結果は,摂取蛋白質に左右される血中尿素窒素量(BUN),乳汁中尿素窒素量(MUN),乳蛋白質値は正常の範囲にあった(このことは後日報告予定). |
(2)可消化性 TMR発酵飼料の実際給与において顕著に現われる事項として可消化性の向上である.消化試験等を行っていないので数値的には示せないが,現場的な仕方で明らかである.発酵飼料を1日20kg以上の主体給与事例では,糞便の悪臭軽減,粘張性の減少,未消化物,特に穀物類の減少,軟便の解消,排糞量の減少等々である. 従来のサイレージとの対比により高濃度に産生された乳酸菌ならびに乳酸菌生産物質による整腸作用によるものと思われる. 発酵飼料給与牧場からの情報によると採食量が増加するのに糞及び尿の排泄量が2割前後減少したという報告が多い. |
(3)生 産 性 最新の栄養学に基づいた給与設計による給与事例においては,泌乳量の増加,産後の良好な発情回帰,泌乳最盛期後の体力の維持等が観察される.表4は牛群検定成績や出荷伝表等による搾乳牛平均日乳量を示したものである. 発酵飼料の給与開始により泌乳量が顕著に増加その後においても高位に推移されている.開始後の季節などによる影響もあるが予想を上回る結果である.この理由として想定される主な事項を下記する(図1). |
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(4)抗 病 力 発酵飼料の継続かつ十分量の給与により消化器系の疾患や乳房炎等が減少,牛が健康になったと良くいわれる. 牧場現場による観察では乳房が赤色味を帯びた泌乳最盛期の牛が可消化糞を排泄している事や慢性の下痢便の牛が治ったなど発酵飼料中の乳酸菌及び乳酸菌生産物質による整腸効果によるものと思われる.人が乳酸菌製剤の摂取による整腸効果と同じく判断される. 乳房炎発症の低減については,初発症例は非常に少ないことが観察されるが,過搾乳等による乳頭口部の肥厚,損傷した牛や常習,慢性的な牛には防止的な効果は発揮されないようである. 図2は乳酸菌発酵飼料の給与と牛の健康について推論も含めて図式化したものである. 泌乳牛にとって多量の乳酸菌発酵飼料の摂取により,乳酸菌及び乳酸菌生産物質による整腸効果が期待されると同時に腸管免疫系の刺激などからの白血球の活性化は自然治癒力の回復に貢献,抗病力の充実,抗体の生産に連動するものと思われる. 整腸効果により腸管内消化の充実とルーメン内発酵の充実は肝臓への負担軽減となり,さらに必要栄養量の供給は肝への必要栄養素の蓄積となり肝機能の充実となると考えられる. 泌乳最盛期に必要栄養量を充足させることは多量な摂取となる.しかし排糞量の減少や未消化物の排泄が減少することは可消化性を示すことで理解される. 排糞に悪臭も無く下痢,軟便,粘張性,可消化性等々の正常化は腸内が乳酸菌優勢の正常フローラとなり真の善玉菌の支配下と考えられる.乳酸菌優勢の腸内フローラは肝機能の充実とともに生体防御に有効に働くと考えられる. |
(5)病原体と発酵飼料 発酵飼料は乳酸発酵により乳酸8%前後,PH4.1前後となるため酸に弱い病原菌に対して感染防止的な働きがあると考えられる. |
(6)発酵飼料の注意点 (製造工場等における注意点)
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(7)発酵飼料の経済性 これまでに発酵飼料を取り入れた百数十戸の平均的な傾向による比較を表5に示した. ルーメン発酵の安定から牛は健康に管理され,病気が少なく,分娩間隔の短縮等がさらに利益をもたらすものと思われる.もちろんミキサーも必要なく,作る手間もいらない事なども大変な経済効果となる.さらに食品残渣などの未利用資源の活用は飼料コストの低減となり,最近開発された発酵飼料ではkg当たり25円前後まで追求されつつある. 発酵飼料は人工的なサイレージともいえることから特別な考えは禁物である.未利用資源の活用によりトータル栄養バランスの確保は飼料コストの低減や牛の健康,生産性の向上が期待される. |
7.さ い ご に 発酵飼料はまだ始まったばかりの飼料である.微生物を相手に,しかも野外での無殺菌培養による製法である.季節の変化にどのように対応するか,また給与面についても飼料成分の変化をどのように利用してゆくか,分析結果をみながら,牛の状態をみながら対応することが必要である. 食品残渣という厄介な物を牛の栄養源として利用,結果が[1]健康,[2]泌乳,[3]受胎,[4]生産コスト等々に貢献されている手応は十分に感じられる.本件に関心をお持ちの方の指導,アドバイス,協同研究等をいただきたいと思う.今後,さらに稔り多き大樹としたい.また,国内酪農家への活力としたい. |
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† 連絡責任者: | 平井洋次(平井動物病院) 〒375-0011 藤岡市岡之郷662-6 TEL 0274-42-0864 FAX 0274-42-1348 |