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未利用資源の活用によるセミコン&TMR発酵飼料
(現場からの情報)
平井洋次†(群馬県獣医師会会員) |
昨今,急速に利用されつつある乳牛への「TMR(Total Mixed Rations)発酵飼料」について会員からの問合せ等感心がもたれている.実践者の1人としてこれまでの経過を報告する. |
1.実践の意義 食品残渣が年ごとに増加してきているが,その処分は消却処理が主体と聞く.これを飼料化することにより乳肉の生産に貢献しながら糞尿の堆肥化による土への還元は理想とする循環型農業の実践となる. |
2.開発の意図 乳牛の消化生理,泌乳生理に最も適合した飼料及び飼料給与法は,TMR飼料の不断給餌(飽食)と理解する.しかしこの最良とされるTMR飼料もフレッシュの場合問題点はある.それは夏期間の気温の上昇による品質の劣化である.TMR飼料の飽食時に牛は選り喰いをするため加水により30〜50%の水分量とする.そのためTMR飼料は夏期では朝の製造の物は午後には劣化(腐敗)が始まり乾物摂取量(DMI)の減少になる.酸剤などによる防腐的な処理の対応にも嗜好性等に難点があるなど問題は解決されていない. TMR発酵飼料は,TMR飼料の水分量を40〜45%にし乳酸発酵させることにより夏期間の劣化,腐敗が防止され約1週間開放状態において品質が保持される. このことから従来のフレッシュなTMR飼料の夏期間の品質劣化の問題解決となる. 牛の消化生理に最も適応したTMR飼料が夏期の高温時でも乳酸発酵により品質の劣化が防止される処に牛の健康管理の上から意義がある. |
3.製 法 一般的に利用されている自給飼料,流通飼料等を乳酸発酵させることにより飼料化したものである.乳酸菌の増繁殖に必要な水分含量までの水分を必要とするため,多汁質性の未利用資源,おもに食品残渣の利用が可能となる.多汁質性の食品残渣としては豆腐粕に代表されるように夏期間の気温の上昇により素早く腐敗する物が多く,これらも乳酸発酵感作により品質が保持されることより多汁質性の食品残渣の利用が容易となり安価な飼料の開発となる. 粗飼料又は粗飼料の一部及び濃厚飼料,ミネラル等を混合,水分含量を40〜45%としトランスバックの内袋に厚目のビニール袋を使用,混合飼料(TMR又セミコンプリート)を充填,抜気,密閉する. 約1カ月間を乳酸発酵の熟成期間とし乳酸発酵飼料の完成となる. 一般的な発酵飼料の原材料として利用されている物を下記する.
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4.給 与 方 法 発酵飼料には泌乳用として「TMR発酵飼料」と「セミコンプリート発酵飼料」があり,泌乳用に対しては「乾乳用発酵飼料」がある.乾乳用の必要性はPH:4の酸性飼料が産前後を通して給与されることがルーメン微生物への配慮からである. 給与方法は,TMR発酵飼料についてはフレッシュなTMR飼料と同様に不断給餌(飽食)とする.泌乳量別の牛群分けとするか,高泌乳牛についての泌乳量に対応した処の濃厚飼料のトップドレッシングが理想である. セミコンプリート発酵飼料については,牧乾草,ヘイレージ,サイレージ等の併用により必要栄養量の充足とし,高泌乳牛に対しては濃厚飼料のトップドレスを行うか,牛群別けの給与管理とする. 不断給餌の場合は低泌乳牛の過肥に注意されるなど個体管理が必要となる. セミコンプリートを発酵飼料とした理由は[1]自給飼料の十分な活用,[2]乾草等の同時給与によるルーメンマット形成の充実にある.[1]については言及の必要はないが,[2]については,大食,多食が要求される泌乳牛にとってルーメン消化の重要性に配慮したものである.つまりルーメン消化におけるルーメンマット効果としてルーメン壁への有効繊維質による刺激的感作による蠕動運動の充実や血行促進による筋層の充実,さらには濃厚飼料等の微細粒子のルーメン内滞留時間の延長化による微生物感作の充実,反芻活動の充実等々が考えられる.外貌的にはルーメンマット充実による上部の張りの充実,ルーメンマット形成不全では下部の膨隆,俗にいう垂れ腹となりルーメン消化により結果とならない. 健康保持,生産性の向上を期待する乳牛にあってルーメンマット形成の充実は必要な事項であり,これが充実には連日の給与において一定量の乾草が必要になることからセミコンプリート発酵飼料を必要とした. しかしTMR発酵飼料では自給飼料等は使用不可ということではない.TMR発酵飼料の利用による牧乾草,ヘイレージなどの自給飼料を利用する際は平行した濃厚飼料の加給により必要栄養量を摂取させればよいこととなる.また発酵飼料中への混入利用も行える. TMR発酵飼料の単独給与ということは,すべてサイレージ化された飼料の継続給与となりルーメンマット効果が弱い飼料給与となることからセミコンプリートを発酵飼料に牧乾草の平行利用とした. |
5.給 与 事 例 国内各地で小生の設計に基づき製造されているTMR発酵飼料及びセミコンプリート発酵飼料の一般的な給与例を表1に示した. 設計に当たっては表2の指標に基づいた給与量とした.発酵飼料が何のような給与によるかの事例であって実際の給与に当たっては,各飼料成分の分析結果に基づいた設計給与となる. |
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