解説・報告

 4.身体障害者補助犬法における獣医師との連携等
 本法における獣医師との連携等については,身体障害者補助犬の訓練事業者は医師,獣医師等との連携を確保すること(第3条),訓練事業者及び使用者は犬の保健衛生に関し獣医師の指導を受けるとともに,犬を苦しめることなく愛情をもって接すること(第21条),身体障害者補助犬を使用する身体障害者は,その身体障害者補助犬について,体を清潔に保つとともに,予防接種及び検診を受けさせることにより,公衆衛生上の危害を生じさせないよう努めること(第22条)について規定されているところであり,さらに,身体障害者補助犬法施行規則においては,厚生労働大臣が指定する法人が介助犬及び聴導犬の認定を行うに際し,医師,獣医師,理学療法士,作業療法士,身体障害者補助犬の訓練を行う者等により構成される審査委員会を設けること(第9条)等とされている.
 具体的に介助犬の例についてみると,その訓練基準により,訓練事業者は,医師,獣医師,作業療法士,理学療法士,社会福祉士等の専門的知識を有する者の協力体制を確保しておくこととされており,次のような評価等については,訓練事業者のみによって行われるのではなく,その内容に応じ,専門的知識を有する者とともに行われることとされている.

ア. 候補犬導入段階における犬の身体面及び性質面の適性評価
イ. 使用者の適正・適応評価
ウ. 使用者のニーズ評価と介助訓練計画の作成
エ. 使用者と候補犬との適合評価
オ. 合同訓練終了後の総合評価・判定
  なお,候補犬の身体面及び性質面についての適性評価については,あわせて以下のとおり示されている.
ア. 身  体
・体高や体重は,使用者のニーズに対して適正なものであること.
・健康で体力があり,遺伝性疾患及び慢性疾患を有していないこと.
・被毛の手入れが容易なこと.
イ. 性  質
・健全で陽気な性格であり,動物や人間に対して友好的で臆病でないこと.
・人間と一緒にいることを好むこと.
・他の動物に対して強い興味を示さず,挑発的な行動をしないこと.
・攻撃的でなく,過剰な支配的性質を有していないこと.
・大きな音や環境の変化に神経質でなく,落ち着いていられること.
・平均的な触覚,聴覚及び感受性を有していること.
・集中力と積極性及び環境への順応力があること.
・乗り物酔いがないこと.
  上記のとおり,身体障害者補助犬の訓練に際しては,その後の育成のための労力等が無効になることや当該犬に対する使用による苦痛を防止するためにも,候補犬としての選択時において身体面,性質面における適性が必要となるところであり,特に身体面における適性においては遺伝性疾患及び慢性疾患を有していないことが求められるところである.このことから,厚生労働省に設置された「身体障害者補助犬の遺伝性疾患に関する検討会」により,本年6月,考慮すべき身体障害者補助犬についての遺伝性疾患の選定とそれらの診断適期,診断法等を内容とする報告がとりまとめられた.

検討の対象とした遺伝性疾患
 検討会においては,発症時に身体障害者補助犬としての機能が失われ,その使用者に危険が生じる可能性がある遺伝性疾患であり,補助犬として使用されることが多いレトリバー等の大型犬種に多発する疾病として,特に骨間接疾患(股関節形成異常,肘関節形成異常)及び眼疾患(白内障,網膜症)を検討の対象とした.
遺伝性疾患検査の適期及びその診断検討の対象とした遺伝性疾患のうち,骨関節疾患(股関節形成異常,肘関節形成異常)に関しては,生後1年未満において何らかの症状が認められた場合はその時点で,症状が認められない場合は生後1年〜1年6カ月に検査を行うことを推奨する.
  眼疾患(白内障,網膜症)に関しては,1回目の検査を生後2カ月〜3カ月に,2回目の検査を生後1年〜1年6カ月に,3回目の検査を生後3年前後に実施し,これ以降は1年に1回の検査を実施することを推奨する.
  また,骨関節疾患(股関節形成異常,肘関節形成異常)及び眼疾患(白内障,網膜症)についての診断方法等に関する指針及び審査様式を提示した.
(身体障害者補助犬の遺伝性疾患に関する検討会報告書より)

 また,身体障害者補助犬の使用に際して,当該犬の健康を維持し,その生活の質の向上を図るとともに,公衆衛生上の危害の発生防止のため,犬を清潔に保ち,他者に不快感を与えないこと,及び人と動物の共通の感染症を予防することを目的として,「身体障害者補助犬の衛生確保のための健康管理ガイドライン」が平成13年度厚生科学特別研究事業により示されている.
 なお,訓練を終了した育成犬の認定申請を行う場合,訓練事業者は,使用者,介助犬及び訓練に関する事項として,以下のような書類を提出することとされている.
 これらの書類に基づき,補助犬の認定を行う指定法人は書面審査を行うとともに,育成された犬が使用者の指示により基本動作を確実に行えることを実地検証し,介助動作についても使用者のニーズに応じた動作が行えることを,前述した獣医師等により構成される審査委員会において確認することとされている.
 このように,獣医師との連携は身体障害者補助犬の訓練及び認定等を行ううえで非常に重要なものとなっているところであり,本制度を円滑に実施していくうえで,今後とも特段のご理解とご協力をお願いいたしたい.
ア. 使用者に関する事項
・氏名,住所,年齢及び性別
・身体障害の状況及び身体障害者手帳の写し
・必要とする介助犬の介助動作
イ. 介助犬に関する事項
・狂犬病予防法に基づく登録番号,名前,性別及び犬種
・獣医師による予防接種及び健康診断の記録(避妊・去勢手術証明書を含む)
ウ. 訓練に関する事項
・訓練者名及び当人の訓練経歴
・使用者の障害とニーズ評価に基づいて作成された訓練計画
・当該犬及び使用者の訓練に関する記録
・訓練者ならびに医師,獣医師,作業療法士,理学療法士,社会福祉士等専門的知識を有する者による総合評価・判定書
・当該犬との適合状況についての使用者の意見書

 5.身体障害者補助犬の普及について
 前述のとおり,訓練事業者による訓練終了後,指定法人による認定を受けて初めて身体障害者補助犬である旨の表示がされ,身体障害者が補助犬を使用するに当たっては,さらに,使用者に対し身体障害者補助犬の行動の管理,衛生の確保等の責務が課されているところである.
 また,国・地方公共団体は,教育活動,広報活動等を通じて国民の理解を深めるよう努めることとされている.
 このような状況の下で,「不特定かつ多数の者が利用する施設」,具体的には,不特定かつ多数の者が自由に出入りし,利用することができるホテル,デパート,レストラン等を身体障害者が利用する際に,身体障害者補助犬の使用者が責務を果たしていない場合などやむを得ない理由がある場合を除き身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならないこととされている.
 身体障害者の自立と社会参加に寄与する身体障害者補助犬が,今後,確実に普及していくためには,その使用についての国民の理解と協力が必要不可欠なものとなっている.
 なお,平成16年10月末現在の身体障害者補助犬にかかる訓練事業者及び指定法人等の状況については,別表のとおりであり,今後とも身体障害者の社会参加施策としてその理解の促進を図るとともに一層の普及に努めることとしている.




† 連絡責任者: 竹垣 守(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部社会参加推進室)
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