4.今後の動物介在教育の展開 2001年に開催された「第9回人と動物との関係に関する国際会議」で,IAHAIOは「The IAHAIO Rio Declaration on pets in schools」として,学校教育における動物についてのリオ宣言を発表した.その中で強調されているポイントは,「動物福祉の充実」と「具体的な教育目標の設定」である.子供達と接する動物は,安全で,健康で,教育現場に十分適応しており,動物福祉に則った適切な飼育管理が行われていなければならない.さらに,具体的な教育目標には,1)動物に限らず学校のさまざまな教育カリキュラム全般において知識及び学習意欲を向上させること,2)人間以外の生命に対する尊敬の念と責任感を高めることの二つが必ず含まれていなければならず,「それぞれの子供の感情表現能力と参加状況を考慮して教育目標を立てること」が求められている. 一方,わが国の幼稚園で動物介在教育(必ずしも動物介在教育という認識はないかもしれないが)が求められている背景として,1)政府が定めた「幼稚園教育要領」に基づいて,自然との関わりや生き物飼育を古くから奨励する教育的歴史があること,2)その歴史的背景から,幼稚園における動物飼育率が非常に高く,ハード面が確立していること,3)急激な国土開発と工業化の中で失われた自然や生き物との関わりをふたたび子供達に体験させる環境教育の必要性があること,4)殺人を含む凶悪犯罪の低年齢化などから,子供達の心の教育がクローズアップされていること,5)食の安全性に対する関心から家畜飼育を含む食農教育が見直されていること,6)欧米に比べると,家庭で動物を飼育できる住環境の確立が遅れていること等があげられる. 以上のように,文部科学省の教育方針とも合致し,社会的ニーズも高く,ほとんどの幼稚園で動物飼育施設(ハード)が備わっているのだが,わが国における幼児を対象とした動物介在教育をIAHAIOのリオ宣言の基準に沿って高めてゆくためには,「幼稚園の動物飼育に関わる動物福祉プログラム」と「幼児を対象とした動物教育プログラム」の開発というソフト面の整備が必要になる.さらに,これらのプログラム教育を担う幼稚園教員や,動物介在教育を専門とするスタッフの養成が急がれる.特に,動物福祉プログラムに関しては,地域の獣医師との協力と連携が必至である. 動物介在教育プログラムを子供達とともに保護者が同伴で受講することで,幼稚園に飼育されている動物だけでなく,家庭で飼育されているペット動物の福祉の向上にもつながり,本当の意味でのコンパニオンアニマルがわが国にも育つのではないだろうか. |
引 用 文 献 | ||||||||||||||||||||||||||
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† 連絡責任者: | 谷田 創 (広島大学大学院生物圏科学研究科附属瀬戸内圏フィールド科学教育研究センター) 〒739-8528 東広島市鏡山1-4-4 TEL・FAX 082-424-7974 |
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