3.新しい基準のあらましと改正の主な点
 改正された新しい基準のあらましは別表の一覧に示すような骨子となっている.この中で今回の改正又は新しく付加された主な点を紹介する.
(1) 基準の対象と構成
[1] 対  象
 基準の対象施設ならびに動物については,これまでの基準と同様に,動物園,水族館,動物サーカス等の興業・客寄せ施設,動物とのふれあい施設,ペットの販売・繁殖施設,動物対象の撮影施設などで人とのふれ合い,展示等を目的として飼養保管している哺乳類,鳥類,爬虫類に属する動物を対象としている.
[2] 構  成
 構成についてはこれまでの基準は各展示動物(施設)ごとに整理されていなかったため,分かりにくい構成になっていたことから,新基準ではさらにこれを各展示施設の共通基準と動物園等,販売施設,撮影施設それぞれの施設ごとの個別基準の2つに大別した構成とした.
(2) 改正の主な内容
 これまでの基準は動物園が主な対象で,ペットショップに関する部分は殆んどなかったが,今回の改正では,これを含めたものとするとともに,その内容もこれまでの虐待防止,健康・安全の確保からさらに一歩進めた動物福祉の視点を取り入れたものとするとともに,社会変化をふまえた基準の整備を行っている.以下その主なものを示す.
[1] 展示動物の福祉の向上
 展示動物の飼養保管環境,健康,安全の確保だけでなくさらに快適,豊かなものとし,動物の生活の質をより高めようとするもので次のような事項,内容が盛り込まれた.
i) 豊かな環境づくり
 動物園等における展示動物の飼育環境は,動物本来の棲息環境に比べるとどうしても単純で,変化のないものとなり,また,野生時の本来の行動の多様性が発揮されにくく,動物福祉に反するとの声があることから,新基準では展示動物の飼養に際して動物本来の習性に近い行動様式等の発現を図るよう努めることとして環境エンリッチメントの推進をはかるよう努めることとし,種類及び習性に応じた給餌,給水方法を工夫すること.
群れ等を形成する動物については,その規模,年齢構成,性比等を考慮し,できるだけ複数で飼養保管すること.
十分な広さと余裕,隠れ場,遊び場,排泄場,止まり木,水浴び場等を備えた豊かな飼養現場を構築するように努めることなどの新たな規定が設けられた.
ii) 過度のストレスの防止
 ストレッサーには音,光などの物理的要因をはじめとし化学的,生物学的,精神的原因など多種多様なものがあるが,特に長時間狭い檻の中に閉じ込められたり,不特定多数の人々の視線を浴びるなどしている展示動物は,日常生活の中でこれらの影響を強く受ける状態にある.
 苦痛には恐怖,過度のストレスも含まれるとの考え方のもとに,今回の改正では動物のストレス軽減のための配慮の規定として施設,設備の構造等において,湿度,通風,照明の確保や販売施設における展示時間,施設内の音響,照明等のほか撮影動物に対しては撮影時間,撮影環境等を適切にするなど,過度のストレスがかからないような配慮を求める規定が新設された.
iii) 安 楽 死
 展示基準は家庭動物等の飼養保管基準と同様に,一般原則において飼養動物の終生飼養に努めることを定めているが,展示動物が感染性の疾病にかかって,人又は他の動物に著しい被害を及ぼすおそれのある場合や疾病,不治の疾病等でやむを得ない場合はこのかぎりではないことを定めている.しかし,この場合であってもできるかぎり苦痛(恐怖及びストレスを含む)を与えない適切な方法を採るように努めることとしている.
iv) そ の 他
 このほか,福祉向上に関し盛り込まれた事項としては,
高齢,幼齢,妊娠中又は疾病動物等に対する適切な対応の推進
幼齢動物における社会性の確保・育成への配慮
計画的な繁殖及び繁殖制限措置の実施
などがある.

環境エンリッチメント(environment enrichment)
 環境エンリッチメントとは,動物福祉の立場から飼育動物の精神面に配慮し,飼育環境(施設,食物,遊具,社会など)を豊かにするように工夫を加えること.
 近年,わが国の動物園等においても,ピーナッツを寝藁の中に蒔いてその探索,採食に時間がかかるようにするなどして,ゴリラのひまと退屈を防止するといった給餌方法とか,ブランコやハンモック,梯子等を備え,環境を複雑にした熊舎,樹上生活するチンパンジーには鉄塔や植木,小川などにより生息環境の再現に努めている放飼場,コンクリート敷きをやめて地面に砂を敷いた象舎,集団生活をする動物は複数で飼うようにしているゴリラ舎など,さまざまな試みや取組がされるようになってきている.

[2] 危機管理対策
 人への危害防止対策としての基準は,逸走防止のための施設の構造,ならびに飼養保管の方法と点検,逸走時対策,有毒動物の飼養及び保管の場合の救急医薬品の備えと救急処置体制の整備,地震や火災などの災害に備えての危機管理対策等の旧規定の整備に新たに人と動物の共通感染症の予防対策を加えている.
 また,今回の見直しでは,展示動物の飼養及び保管の適正化ならびに逸走した動物の発見率の向上を図るため,マイクロチップ等による個体識別措置を講じるとともに,特徴,飼育履歴,病歴等に関する記録台帳を整備し,動物の記録管理を適正に行うように努めることとし,この実効性を高めている.
[3] 動物に関する正しい知識の普及啓発
 動物園や水族館の果す社会的な役割は,レクリエーション・教育・研究・自然保護等,多様化している.特にこのなかで教育面での特性はそれが実物教育,体験教育の場であることと楽しみながらできることにあり,大きな効果が期待できる.
 このことから,動物に関する正しい知識と動物愛護思想の普及啓発の一層の推進をはかるため,動物園などの施設等においての観覧者と動物との接触は,教育訓練され十分な知識等を有する飼養者の監督の下に適切に行われるようにすることとしている.
[4] 販売動物の選定
 家畜化されていない野生動物のペット化についてはその飼養,保管が困難であること,譲渡が難しいこと,このため飼養の中止が容易でないことや人に危害を加えるおそれのある種や希少種が存在すること,又,逸走した場合には人への危害及び環境保全上の問題が発生するおそれが大きいこと等を勘案する必要があることから,販売業者は野生動物等を家庭動物として販売するに当たっては,この点に十分留意し,販売動物として選定することについては慎重に行うよう求めている.
 なお,平成16年6月2日制定公布された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」は,生態系や人の生命身体又は農林水産業に係る被害の防止の目的のもとに,政令で定める特定外来動物については原則飼養禁止することとしている.
 
新しい基準の骨子一覧





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