解説・報告

展示動物の飼養及び保管に関する基準の見直し

山口安夫(日本動物保護管理協会事務局長)

 環境省はこのほど「展示動物の飼養及び保管に関する基準」の大幅な見直し改正を行い,新たに動物の福祉の向上という視点を加えた新基準を,平成16年4月30日に告示した.

 1.動物の飼養保管基準とは
 動物の飼養保管基準とは,動物の愛護及び管理に関する法律(以下,動愛法という)に基づき定められているもので,動物の飼い主等がその責務を果たすうえで守るべき動物の適正な飼養・保管に関し,守るべき標準・めやすを示すいわばガイドラインともいうべきものである.
 動愛法に基づき定められている基準ならびにこれに準ずるものには,現在次に示すものが定められている.
(1) 法第5条第4項の規定に基づく基準
  「環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,動物の飼養及び保管に関しよるべき基準を定めることができる.(法第5条第4項)」
家庭動物等の飼養及び保管に関する基準
平成14年改正
(平成14年5月28日・環境省告示第37号)
展示動物の飼養及び保管に関する基準
平成16年改正
(平成16年4月30日・総理府告示第33号)
実験動物の飼養及び保管に関する基準
(昭和55年3月27日・総理府告示第6号)
産業動物の飼養及び保管に関する基準
(昭和62年10月9日・総理府告示第22号)
(2) 法第11条第1項の規定に基づく基準
  「動物取扱業者は,動物の健康及び安全を保持するために飼養施設の構造,その取扱う動物の管理の方法等に関し,環境省令で定める基準を遵守しなければならない.(法第11条第1項)」
動物取扱業者に係る飼養施設の構造及び動物の管理の方法等に関する基準
(平成12年6月30日・総理府令第73号)
(3) 法第23条第2項の規定に基づく基準
  「環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,前項の方法(動物を殺す場合の方法に関し必要な事項を定めることができる.(法第23条第2項)」
動物の処分方法に関する指針
(平成7年7月4日・総理府告示第40号)
  基準は法の規定に基づき定められるものであり,法条文に義務・罰則等を課することができる旨の特別な規定がないかぎり強制規定は設けることはできないこととなっている.
 今回の展示基準の見直に際してのパブリックコメントのなかで,この基準の遵守事項について義務規定化や罰則規定等の強制力のある規定を盛り込んで欲しいとの意見・要望が多く寄せられたと聞いているが,家庭動物の飼養保管に関する基準等の法5条第4項に基づき定められている4つの基準は,動物の飼い主などが動物を飼養保管するうえで飼い主責任を全うするための果たすべき努力義務を定めたもので,義務・罰則等の規定は設けることはできないものになっている.
注) 動物の展示,販売を営む,動物取扱業者が守らなければならない関係深い基準には,法第5条第4項の規定に基づく「家庭動物の飼養保管基準」と「展示動物の飼養保管基準」の2基準のほかに,法第11条第1項の規定に基づく「動物取扱業者に係る飼養施設の構造・動物の管理の方法等に関する基準」があり,法第11条第1項に基づく基準については法第12条により,営業者に遵守義務が定められており,これを守らないときは,都道府県知事等は,その改善命令や措置命令を出すことができることとなっている.

 2.改正の背景と経緯
(1) 背  景
  法第5条第4項に基づく,いわゆる動物の適正飼養保管基準には,上述のように現在4つの基準があるが,このなかでその制定が,最も古い「犬及びねこの飼養及び保管に関する基準」についてはすでに平成14年に見直しが行われ,「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」の名称の下に衣替えして改正告示されている.
  環境省の諮問機関である中央環境審議会動物愛護部会では,次の見直し対象の基準について審議を行った結果,「展示動物の飼養及び保管に関する基準」を取り上げることにした.これは,「展示動物の飼養及び保管に関する基準」は,昭和51年に制定後,約28年が経過しているとともに,この基準の基となっている平成11年12月の動愛法の改正により動物の展示や販売を業とする動物取扱業の規制制度が導入されたことや,また家庭動物等の基準の制定により,展示動物の基準に包含されていたペット販売店の動物に係る部分が移行したこと,このほかこれまでの展示動物の基準はおもに動物園を対象としていたが,最近は不特定多数の人に動物を見せる施設が多様化しているなど展示動物を取巻く環境が大きく変化し,展示動物の飼養保管について内外の動物愛護団体から批判や要望が強まっていることなどが勘案されたことによるものと考えられる.
(2) 経  緯
  基準の見直し案の策定について環境省は,「展示動物の飼育保管に関する基準検討会(アドバイザリーグループ)」を設置し,平成15年6月をスタートに計5回の検討会を開催した.この間鋭意検討を行うとともに,(社)日本実験動物協会,動物との共生を考える連絡会,(財)日本動物愛護協会,地球生物会議,市民Zooネットワーク,全国ペット小売業協会等の,関係団体から意見聴取を行った.
  また,ここで策定された案に対して,環境省は1月26日から2月25日の間,Eメール,FAX等によるパブリックコメント(市民からの意見募集)を実施し,広く関係者,一般市民等からの意見を求めるなどして意見を反映させた基準とするための努力がなされた.
  このようにして作成された答申案は16年3月29日開催の中央環境審議会で,了承され,16年4月30日告示となり,5月1日付で適用されることとなった.
  なお,パブリックコメントでは基準の各項目に亘って延べ1,254件の意見が寄せられたが,特に意見の多かったのは販売動物に関するもの(364件),動物園などにおける展示に関するもの(185件)で,このように多数の意見があったことは,動物愛護に対する関心の高さを示すものといえよう.


解説・報告

展示動物の飼養及び保管に関する基準の見直し

山口安夫(日本動物保護管理協会事務局長)

 環境省はこのほど「展示動物の飼養及び保管に関する基準」の大幅な見直し改正を行い,新たに動物の福祉の向上という視点を加えた新基準を,平成16年4月30日に告示した.

 1.動物の飼養保管基準とは
 動物の飼養保管基準とは,動物の愛護及び管理に関する法律(以下,動愛法という)に基づき定められているもので,動物の飼い主等がその責務を果たすうえで守るべき動物の適正な飼養・保管に関し,守るべき標準・めやすを示すいわばガイドラインともいうべきものである.
 動愛法に基づき定められている基準ならびにこれに準ずるものには,現在次に示すものが定められている.
(1) 法第5条第4項の規定に基づく基準
  「環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,動物の飼養及び保管に関しよるべき基準を定めることができる.(法第5条第4項)」
家庭動物等の飼養及び保管に関する基準
平成14年改正
(平成14年5月28日・環境省告示第37号)
展示動物の飼養及び保管に関する基準
平成16年改正
(平成16年4月30日・総理府告示第33号)
実験動物の飼養及び保管に関する基準
(昭和55年3月27日・総理府告示第6号)
産業動物の飼養及び保管に関する基準
(昭和62年10月9日・総理府告示第22号)
(2) 法第11条第1項の規定に基づく基準
  「動物取扱業者は,動物の健康及び安全を保持するために飼養施設の構造,その取扱う動物の管理の方法等に関し,環境省令で定める基準を遵守しなければならない.(法第11条第1項)」
動物取扱業者に係る飼養施設の構造及び動物の管理の方法等に関する基準
(平成12年6月30日・総理府令第73号)
(3) 法第23条第2項の規定に基づく基準
  「環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,前項の方法(動物を殺す場合の方法に関し必要な事項を定めることができる.(法第23条第2項)」
動物の処分方法に関する指針
(平成7年7月4日・総理府告示第40号)
  基準は法の規定に基づき定められるものであり,法条文に義務・罰則等を課することができる旨の特別な規定がないかぎり強制規定は設けることはできないこととなっている.
 今回の展示基準の見直に際してのパブリックコメントのなかで,この基準の遵守事項について義務規定化や罰則規定等の強制力のある規定を盛り込んで欲しいとの意見・要望が多く寄せられたと聞いているが,家庭動物の飼養保管に関する基準等の法5条第4項に基づき定められている4つの基準は,動物の飼い主などが動物を飼養保管するうえで飼い主責任を全うするための果たすべき努力義務を定めたもので,義務・罰則等の規定は設けることはできないものになっている.
注) 動物の展示,販売を営む,動物取扱業者が守らなければならない関係深い基準には,法第5条第4項の規定に基づく「家庭動物の飼養保管基準」と「展示動物の飼養保管基準」の2基準のほかに,法第11条第1項の規定に基づく「動物取扱業者に係る飼養施設の構造・動物の管理の方法等に関する基準」があり,法第11条第1項に基づく基準については法第12条により,営業者に遵守義務が定められており,これを守らないときは,都道府県知事等は,その改善命令や措置命令を出すことができることとなっている.

 2.改正の背景と経緯
(1) 背  景
  法第5条第4項に基づく,いわゆる動物の適正飼養保管基準には,上述のように現在4つの基準があるが,このなかでその制定が,最も古い「犬及びねこの飼養及び保管に関する基準」についてはすでに平成14年に見直しが行われ,「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」の名称の下に衣替えして改正告示されている.
  環境省の諮問機関である中央環境審議会動物愛護部会では,次の見直し対象の基準について審議を行った結果,「展示動物の飼養及び保管に関する基準」を取り上げることにした.これは,「展示動物の飼養及び保管に関する基準」は,昭和51年に制定後,約28年が経過しているとともに,この基準の基となっている平成11年12月の動愛法の改正により動物の展示や販売を業とする動物取扱業の規制制度が導入されたことや,また家庭動物等の基準の制定により,展示動物の基準に包含されていたペット販売店の動物に係る部分が移行したこと,このほかこれまでの展示動物の基準はおもに動物園を対象としていたが,最近は不特定多数の人に動物を見せる施設が多様化しているなど展示動物を取巻く環境が大きく変化し,展示動物の飼養保管について内外の動物愛護団体から批判や要望が強まっていることなどが勘案されたことによるものと考えられる.
(2) 経  緯
  基準の見直し案の策定について環境省は,「展示動物の飼育保管に関する基準検討会(アドバイザリーグループ)」を設置し,平成15年6月をスタートに計5回の検討会を開催した.この間鋭意検討を行うとともに,(社)日本実験動物協会,動物との共生を考える連絡会,(財)日本動物愛護協会,地球生物会議,市民Zooネットワーク,全国ペット小売業協会等の,関係団体から意見聴取を行った.
  また,ここで策定された案に対して,環境省は1月26日から2月25日の間,Eメール,FAX等によるパブリックコメント(市民からの意見募集)を実施し,広く関係者,一般市民等からの意見を求めるなどして意見を反映させた基準とするための努力がなされた.
  このようにして作成された答申案は16年3月29日開催の中央環境審議会で,了承され,16年4月30日告示となり,5月1日付で適用されることとなった.
  なお,パブリックコメントでは基準の各項目に亘って延べ1,254件の意見が寄せられたが,特に意見の多かったのは販売動物に関するもの(364件),動物園などにおける展示に関するもの(185件)で,このように多数の意見があったことは,動物愛護に対する関心の高さを示すものといえよう.


解説・報告

展示動物の飼養及び保管に関する基準の見直し

山口安夫(日本動物保護管理協会事務局長)

 環境省はこのほど「展示動物の飼養及び保管に関する基準」の大幅な見直し改正を行い,新たに動物の福祉の向上という視点を加えた新基準を,平成16年4月30日に告示した.

 1.動物の飼養保管基準とは
 動物の飼養保管基準とは,動物の愛護及び管理に関する法律(以下,動愛法という)に基づき定められているもので,動物の飼い主等がその責務を果たすうえで守るべき動物の適正な飼養・保管に関し,守るべき標準・めやすを示すいわばガイドラインともいうべきものである.
 動愛法に基づき定められている基準ならびにこれに準ずるものには,現在次に示すものが定められている.
(1) 法第5条第4項の規定に基づく基準
  「環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,動物の飼養及び保管に関しよるべき基準を定めることができる.(法第5条第4項)」
家庭動物等の飼養及び保管に関する基準
平成14年改正
(平成14年5月28日・環境省告示第37号)
展示動物の飼養及び保管に関する基準
平成16年改正
(平成16年4月30日・総理府告示第33号)
実験動物の飼養及び保管に関する基準
(昭和55年3月27日・総理府告示第6号)
産業動物の飼養及び保管に関する基準
(昭和62年10月9日・総理府告示第22号)
(2) 法第11条第1項の規定に基づく基準
  「動物取扱業者は,動物の健康及び安全を保持するために飼養施設の構造,その取扱う動物の管理の方法等に関し,環境省令で定める基準を遵守しなければならない.(法第11条第1項)」
動物取扱業者に係る飼養施設の構造及び動物の管理の方法等に関する基準
(平成12年6月30日・総理府令第73号)
(3) 法第23条第2項の規定に基づく基準
  「環境大臣は,関係行政機関の長と協議して,前項の方法(動物を殺す場合の方法に関し必要な事項を定めることができる.(法第23条第2項)」
動物の処分方法に関する指針
(平成7年7月4日・総理府告示第40号)
  基準は法の規定に基づき定められるものであり,法条文に義務・罰則等を課することができる旨の特別な規定がないかぎり強制規定は設けることはできないこととなっている.
 今回の展示基準の見直に際してのパブリックコメントのなかで,この基準の遵守事項について義務規定化や罰則規定等の強制力のある規定を盛り込んで欲しいとの意見・要望が多く寄せられたと聞いているが,家庭動物の飼養保管に関する基準等の法5条第4項に基づき定められている4つの基準は,動物の飼い主などが動物を飼養保管するうえで飼い主責任を全うするための果たすべき努力義務を定めたもので,義務・罰則等の規定は設けることはできないものになっている.
注) 動物の展示,販売を営む,動物取扱業者が守らなければならない関係深い基準には,法第5条第4項の規定に基づく「家庭動物の飼養保管基準」と「展示動物の飼養保管基準」の2基準のほかに,法第11条第1項の規定に基づく「動物取扱業者に係る飼養施設の構造・動物の管理の方法等に関する基準」があり,法第11条第1項に基づく基準については法第12条により,営業者に遵守義務が定められており,これを守らないときは,都道府県知事等は,その改善命令や措置命令を出すことができることとなっている.

 2.改正の背景と経緯
(1) 背  景
  法第5条第4項に基づく,いわゆる動物の適正飼養保管基準には,上述のように現在4つの基準があるが,このなかでその制定が,最も古い「犬及びねこの飼養及び保管に関する基準」についてはすでに平成14年に見直しが行われ,「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」の名称の下に衣替えして改正告示されている.
  環境省の諮問機関である中央環境審議会動物愛護部会では,次の見直し対象の基準について審議を行った結果,「展示動物の飼養及び保管に関する基準」を取り上げることにした.これは,「展示動物の飼養及び保管に関する基準」は,昭和51年に制定後,約28年が経過しているとともに,この基準の基となっている平成11年12月の動愛法の改正により動物の展示や販売を業とする動物取扱業の規制制度が導入されたことや,また家庭動物等の基準の制定により,展示動物の基準に包含されていたペット販売店の動物に係る部分が移行したこと,このほかこれまでの展示動物の基準はおもに動物園を対象としていたが,最近は不特定多数の人に動物を見せる施設が多様化しているなど展示動物を取巻く環境が大きく変化し,展示動物の飼養保管について内外の動物愛護団体から批判や要望が強まっていることなどが勘案されたことによるものと考えられる.
(2) 経  緯
  基準の見直し案の策定について環境省は,「展示動物の飼育保管に関する基準検討会(アドバイザリーグループ)」を設置し,平成15年6月をスタートに計5回の検討会を開催した.この間鋭意検討を行うとともに,(社)日本実験動物協会,動物との共生を考える連絡会,(財)日本動物愛護協会,地球生物会議,市民Zooネットワーク,全国ペット小売業協会等の,関係団体から意見聴取を行った.
  また,ここで策定された案に対して,環境省は1月26日から2月25日の間,Eメール,FAX等によるパブリックコメント(市民からの意見募集)を実施し,広く関係者,一般市民等からの意見を求めるなどして意見を反映させた基準とするための努力がなされた.
  このようにして作成された答申案は16年3月29日開催の中央環境審議会で,了承され,16年4月30日告示となり,5月1日付で適用されることとなった.
  なお,パブリックコメントでは基準の各項目に亘って延べ1,254件の意見が寄せられたが,特に意見の多かったのは販売動物に関するもの(364件),動物園などにおける展示に関するもの(185件)で,このように多数の意見があったことは,動物愛護に対する関心の高さを示すものといえよう.