4.獣医師専門医制度確立に向けた提言―委員会における検討案―
   以上のように,当委員会としては,社会からも一般開業獣医師からも適正と評価される獣医師専門医制度をわが国に確立・定着・普及させることが,日本の獣医界にとってもきわめて重要であるとの結論に至った.その実現のために,どのようなステップで,どのような組織,制度を立ち上げ,またその組織でどのような活動が実施されるべきか,についても検討した.以下は,当委員会としての案であるが,当委員会としては,以下のステップで日本における専門医制度が確立されることを強く望むものである.
(1) 「獣医師専門医機構」設立準備協議会の設置
 前述したように,獣医師専門医が社会から適正に評価されるためには,各専門医会が認定する専門医制度の目的,その選考法等が適切であるか否かなどについて第三者による評価が必要であり,このような評価を実施するのが獣医師専門医機構である.この機構は,各専門医会の活動を公平に評価すると同時に,日本社会あるいは国外に向けて,それぞれの分野の専門医制度に関する社会的役割,意義等について広くアピールする役割を負う.
 そこで,当委員会としては,獣医師専門医機構設立準備協議会を早急に立ち上げ,そこで獣医師専門医機構の詳細を決定することが第一のステップと考え,現在,専門医制度を設けている学協会,並びに将来その設置を検討している学会・研究会に獣医師専門医機構の設立に関してアンケート調査を行った.アンケート中に示した獣医師専門医機構設立準備協議会の目的ないし活動の(案)は,以下のとおりである.

 (1)本機構の規約,目的,組織,会計等の詳細の決定
 (2)わが国における専門医制度の基準の決定
 (3)すでに専門医資格を取得した者に対する認定方法
 (4)現在の各専門医制度の問題点,今後改善すべき点に関する検討
 (5)欧米諸国の当該分野における専門医会との交流方法
 (6)その他


 その結果,多くの団体からこの趣旨に賛成し,獣医師専門医機構が設立された場合,参画する旨の回答を得た.したがって,早急にこの設立準備協議会を立ち上げ,上記の各項目について検討し,獣医師専門医機構を正式に発足させることが望まれる.
(2) 「獣医師専門医機構」の設立
 当委員会で検討した獣医師専門医機構に関する内容は,以下のとおりである.実際には上記の設立準備委員会で詳細を決めるべきであるが,当委員会としての提言をまとめたものである.
 「獣医師専門医機構」を日本獣医師会と協議して設立する.機構は,日本獣医師会内に事務取扱を行う事務局を置き,機構の運営に必要な活動経費はそれに参画する専門医会(各学協会)が負担する.
 機構の構成メンバーは,機構からの認定を希望し,なおかつ現在すでに専門医制度を確立,運用している専門医会の代表者,日本獣医師会代表者,大学代表者,有識者等とする(専門医制度を有していても,機構の認定を希望しない専門医会については参加を強制しない).
 以下は,機構が行うべき内容(案)である.

 (1)すでに各専門医会の専門医資格を取得した者に対する機構としての認定
 (2)各年度あるいは5年毎の各専門医会の活動内容並びにそれに対する評価
 (3)新しく獣医師専門医制度を立ち上げる分野に関し,その必要性等の評価,専門医の呼称及び獣医師専門医資格選考基準に関する評価
 (4)社会に対する獣医師専門医制度の広報並びに海外の機構との交流
 (5)獣医師専門医育成のための研修制度(レジデントプログラム等)の評価
 (6)その他

5.今後の展望
   現在,日本においてすでに設立されている獣医師専門医制度の分野は,応用獣医学の分野であり,一つの側面として社会からの強い要請に基づくものと考えられる.これらの分野の獣医師専門医が社会に果たす役割は,日本社会の現状や国際交流を考えるときわめて重要である.
 一方,臨床獣医学分野でもその必要性が認識されながら,現在までに専門医制度を確立することができなかった最も大きな理由は,わが国の獣医学教育体制の現状から困難であったことであろう.その点を考えると,おそらく,わが国における臨床系の獣医師専門医制度は,外科,内科,といった各大学に講座/研究室のある領域から始めるべきであろう.最近研修医制度もしくはそれに近い制度を持つ大学が増加しており,また,各大学の診療が講座/研究室単位で実施されていることから,この制度を一種のレジデントとして扱い,その修了者について,症例数,論文報告数の条件をクリアーすれば,獣医師専門医受験資格者として扱うことも可能になるものと考えられる.
 これらの臨床分野にはすでにいくつかの学会が存在するため,そこでまず「獣医師専門医制度(専門医育成)委員会」等をおき,専門医会を立ち上げ,創立専門医(Charter Diplomate)を決定し,試験方法,合格基準などを決めた上で,前述した日本獣医師会と協力した「獣医師専門医機構」に応募する.
 機構では,応募のあった専門医会に対し,その必要性,獣医師専門医受験者の資格基準,試験,選考内容等を審査し,それらが妥当であれば,獣医師専門医として認定する,という形でこの制度が徐々に進展することを期待する.
 当委員会としては,獣医師専門医機構の設置に向けて,先ず,早急な獣医師専門医機構設立準備協議会を立ち上げることを希望しており,このような検討の機会を与えていただいた日本獣医師会に感謝すると同時に,日本獣医師会として早急にこの問題に積極的に取り組まれるよう要望したい.


専門医制度検討委員会委員
桑島  功(千葉県獣医師会会長)
  北川  均(岐阜大学農学部教授)
佐々木伸雄(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
  菅沼 常徳(麻布大学獣医学部教授)
  辻本  元(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
  藤永  徹(北海道大学大学院獣医学研究科教授)
  福井 正信(元国立予防衛生研究所獣疫部長)
  水谷  渉(神奈川県獣医師会会長)
 
【◎:委員長,○:副委員長】