平成15年3月12日
日本獣医師会卒後臨床研修制度検討委員会
 
獣医師の卒後臨床研修のあり方について(報告)
 
 卒後臨床研修制度検討委員会は,日本獣医師会長から平成13年12月に諮問された「獣医師の卒後臨床研修のあり方」について,検討を行ってきましたが,検討結果を踏まえ,委員会としての意見ならびに要望事項を以下のとおりとりまとめました.
 日本獣医師会におかれましては,当委員会の意見,要望等の趣旨をお汲み取りいただき,今後は,関係機関等への要請活動,実現に向けて対策を講じる等の対応にあたられますよう要望いたします.

1. 背  景
(1) 獣医学教育6年制が導入されておおよそ20年が経過したが,獣医師をめぐる社会・経済情勢の変化は著しく,獣医師が多様化する社会の要請に的確に応えていけるよう,平成4年5月に獣医師法の一部が改正され,第16条の2において「診療を業務とする獣医師は,免許を受けた後も,…(中略)…,臨床研修を行うよう努めるものとする.」ことが明定された.
(2) 獣医師法の一部改正後,農林水産省の指導の下に,産業動物診療獣医師を対象に一部の臨床研修が実施されているものの,小動物を含む診療獣医師全般を対象とする組織的な臨床研修は実施されていない.
(3) 現行の獣医師法の下では獣医学生の実践的な臨床教育は容認されておらず,学部教育下での臨床教育は不十分とされており,臨床研修は,新卒獣医師に対する社会の最小限の要求水準と考えられる日常遭遇する疾患等に対する十分な知識・技術と,それに対応できる獣医師を育成することにある.
(4) 一方,日本獣医師会が平成10年に実施した「生涯教育(卒後臨床研修,継続教育及び専門医養成教育)に関する獣医師意向調査」によると,《1》卒後臨床研修への参加を希望する割合は89 %,《2》研修の実施機関は大学附属家畜病院を希望する割合は63%,《3》研修修了獣医師の雇用を希望する割合は74%であり,新卒獣医師に対する臨床研修体制の導入に対する要望,必要性の高いことが示唆された.
(5) 近年,獣医臨床分野における高度技術・知識の修得が求められている中で,社会の要請に見合った適切な獣医療の提供をめざして,信頼される獣医師が輩出することが求められているところであり,また単に大学や個人の努力ではなく,国立大学の再編整備という変革の時期にあたり,教育機関の組織的な実施体制の下で卒後臨床研修が行われるよう体制を整備する必要がある.
2. 委員会意見のとりまとめ
   卒後臨床研修制度検討委員会では,上記の卒後教育・臨床研修の実情に鑑み,今後,早期に獣医界に導入,実施されるべき「獣医師の卒後臨床研修」を提言するため,臨床研修のあり方を検討した結果,当委員会の意見を次のとおりとりまとめた.
(1) 卒後臨床研修の対象は,本来であれば希望者全員を対象とすべきであるが,現状は受け入れられる員数に限界があり,当面は可能なかぎり収容可能な枠内の選抜された希望者の研修を受け入れること.
(2) 卒後臨床研修の内容は,将来的にはかなり高度な《1》研修の到達目標,《2》研修プログラム,《3》研修カリキュラム等を提示する必要があるが,早期実現を可能とするために教育現場の実情を踏まえ,「内科」,「外科」等いずれの大学にも設定されている主要診療科のローテイション方式による研修内容とするとともに,それらを十分に身につけさせるため,必ず複数の指導獣医師を交えての症例デイスカッションを実施することをミニマムリクイアメントとした研修基本方式とすること.
(3) 卒後臨床研修の実施機関としては,大学附属家畜病院等で実施することがすでに獣医師法関連で明記されているが,現状では大学の研修受け入れ可能な収容員数は多くても全国で年間100名程度と予測されることから,研修希望者がこれを上回る場合には,大学同等の研修条件と機能を備える民間診療施設を指定する必要があること.
なお,農林水産省が民間診療施設を指定する際の指定基準については,前項の大学での研修内容のミニマムリクイアメントが十分に満たされるよう,指定基準を見直す必要があること.
(4) 卒後臨床研修の実施期間は,獣医師法では努力規定による6カ月以上とされているが,社会の要請に見合った十分な研修を実施し,定着させるためには研修期間を2年とすることが望ましいものの,最低限1年以上の研修が必要であること.
(5) 卒後臨床研修の成果は「信頼される獣医師の育成」にあり,研修の評価は「研修修了獣医師の高い雇用率」にあることから,研修の適切な評価を受けた人材を確保する観点から,研修獣医師の処遇は有給であることが望ましく,大学・関係機関等においては,研修受け入れ施設のそれぞれの環境,情況等もあるものの,適正な労働条件とともに応分の処遇をもって研修獣医師を受け入れること.


卒後臨床研修制度検討委員会委員
大橋文人(大阪府立大学大学院農学生命科学研究科教授)
  織間博光(日本獣医畜産大学獣医畜産学部教授)
  小谷忠生(酪農学園大学獣医学部教授)
  酒井淳一(山形県農業共済組合連合会第二事業部診療技術課長)
中馬精二(北九州市獣医師会会長)
  中市統三(山口大学農学部助教授)
  西村亮平(東京大学大学院農学生命科学研究科助教授)
  山村欣三(東京都獣医師会副会長)
  亘 敏広(日本大学生物資源科学部助教授)
 
【◎:委員長,○:副委員長】