資 料


21.豚の小腸粘膜下組織および筋層にみられた多発性汎動脈炎
〔小川秀治(秋田県)〕
 交雑種,雌,30日齢,斃死例(死後約3時間で剖検).2001年6月に,繁殖豚25頭を飼養する一貫経営農場で30日齢の離乳豚3頭が突然死し,腸内容からVT2e産生大腸菌が分離された.2001年9月に再度斃死がみられるようになったため,離乳豚3頭を病性鑑定に供した.なお,当農家では,母豚のみにTGEおよび日本脳炎・豚パルボウイルスワクチンが接種されていた.
 豚はやや発育不良で,剖検では,眼瞼周囲の軽度浮腫と腸間膜リンパ節の軽度腫大がみられた.
 組織学的には,空回腸粘膜下組織および筋層内の中小動脈で,血管内皮細胞の腫大,中膜のフィブリノイド変性ないし線維芽細胞増生,血管周囲における形質細胞とリンパ球を主体とする細胞浸潤がみられた(図21).また,軽度の血管変性が腸間膜リンパ節,脾臓および脳でも観察されたが,脳血管周囲における好酸性滴状物の出現は明瞭ではなかった.
 細菌学的検査で,提出症例においては腸内容と脳を含む主要臓器からの菌分離は陰性であったが,PCRで腸内容からVT2e遺伝子が検出された.なお,他の個体の十二指腸および回腸内容から,VT2e陽性大腸菌(K88:K99:987P:陰性)が分離された.ウイルス学的検査では,豚コレラウイルス,オーエスキー病ウイルスおよびPRRSVの分離および抗体検査結果は陰性であった.
 本症例は菌分離は陰性であったが,病理組織所見とPCRの結果から,浮腫病と診断可能とされた.
図21
粘膜下組織の小動脈における中膜のフィブリノイド変性(HE染色 ×200).
 

22.ナゴヤコーチンの卵白腺癌
〔川鍋真里(福岡県)〕
 ナゴヤコーチン,雌,425日齢,斃死例(死後1日以内で剖検).愛玩鶏として飼養されていた.
 剖検では腹水の貯溜をともなって,腹腔漿膜に粟粒大から小豆大の白色腫瘤が多発しており,腫瘤を介する腹腔内諸臓器の癒着と腸管腔の狭窄が観察された.
 組織学的に腫瘤は腺癌で,おもに腸管,脾臓,膵臓および腺胃の漿膜にみられた.膵小葉周囲の結合組織,腸管の筋層や一部のリンパ管にも腫瘍細胞の浸潤がみられた(図22A).腫瘍は筋組織で大小に区切られており,腫瘍細胞には2種の細胞がみられた.一つは淡明でやや大きな核と細胞質に好酸性顆粒をもちおもに腺房状に配列する細胞,もう一つは好塩基性に濃染する小円形の核と好酸性の細胞質をもち腺管状に配列する細胞で顕著な自己融解を示していた.両者が混在する領域も認められた.腫瘍の周辺には偽好酸球を主体とする炎症細胞の浸潤がみられた.腺房状配列を示す腫瘍細胞および膵周囲と腸管筋層内の腫瘍細胞の細胞質内好酸性顆粒は,免疫組織化学的に鶏卵白アルブミン陽性(NORDIC社)を示した(図22B).
 この腫瘍の形態からは卵管の卵白分泌部腺上皮細胞由来か膵臓腺房細胞由来かの区別が困難であったが,卵白アルブミンの検出と転移度から卵白腺癌と診断された.
図22
A:膵臓(左)に接して好酸性顆粒をもつ細胞の腫瘍性増殖(中央から右にかけて)がある(HE染色 ×200).B:腫瘍細胞は卵白アルブミン陽性,膵腺房細胞は陰性である(免疫染色 ×200).
 

23.牛の肝細胞萎縮をともなう小葉辺縁性のアミロイド沈着
〔山下信雄(佐賀県)〕
 ホルスタイン種,雌,10歳10カ月齢,斃死例(死後6時間で剖検).成牛45頭,育成牛10頭を飼養する農家で,2000年12月に最終分娩した成牛が,2001年9月下旬から食欲減退と削痩が著しくなり,化膿をともなった後肢の関節炎を併発して起立困難となり,10月22日に斃死した.剖検では,胸垂の左右に拳大の化膿巣,左飛節にピンポン球大の化膿巣および左右の股関節周囲の化膿がみられた.
 組織学的には,肝小葉辺縁部のディッセ腔でび漫性,重度の好酸性均質物質の沈着が認められ,一部は類洞内にも漏出していた(図23).ディッセ腔の拡張による類洞の狭窄により,肝細胞には小葉の辺縁で重度,中心性に中等度の萎縮がみられた.ディッセ腔に充満した硝子様物質はコンゴ赤染色で橙色に染まり,電子顕微鏡的には電子密度の高い幅約8nmの直線状で分岐しない細線維の錯綜や集積で,フェルト状構造を呈していた.好酸性均質物質は腎糸球体,大脳,小脳,脊髄および腸管粘膜の毛細血管周囲にも沈着していた.股関節周囲の筋肉には細菌塊をともなった膿瘍形成がみられた.
 病原検索では,主要臓器と脳から細菌は分離されなかった.
 本症例は,全身性に硝子様物質の沈着とアミロイド線維に特徴的な電顕像が認められたことから,全身性アミロイドーシスと診断された.アミロイドの沈着部位から反応性(続発性)と思われるが,診断精度向上のためにはアミロイドタイプの同定が望ましい.
図23
ディッセ腔に重度のアミロイド沈着があり,肝細胞索は萎縮している(HE染色 ×100).
 
 
〈事例報告No. 24から次号へつづく〉



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