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Proceedings of the Slide-Seminar held by the Livestock Sanitation Study Group
in 2002*†, PartII
〈事例報告No. 1〜14(前号)から続く〉 | ||
事 例 報 告 |
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15.ハトの大脳の原虫様構造物をともなう非化膿性髄膜脳炎 | ||
〔松本浩二(静岡県)〕 |
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ジュズカケバト,雄,年齢不明,斃死例.県内の動物園において,2002年2月6日,重度の斜頸が認められ4日後に斃死した.さらに同居していた2羽に同様の症状がみられ,他にも2羽の斃死が確認された. 剖検では,諸臓器に明らかな肉眼病変は認められなかった. 組織学的に,大脳では皮質から髄質の広範囲にわたりグリア細胞の増生および囲管性細胞浸潤が顕著に認められた(図15A).グリア細胞の増生部位では神経網が疎性化していた.髄膜には一部にリンパ球の浸潤が認められた.視葉および小脳ではグリア細胞の増生および神経網の疎性化が認められた.大脳の神経網に原虫様の構造物が散見された(図15B).直径は10〜15μmでシスト壁と考えられる構造は認められなかった.また一部にメロゾイト様の放射状に配列する構造物が認められた.PAS染色では一部の原虫様構造物に陽性反応が認められたが,免疫組織化学的検査では,強い非特異反応が認められ同定にはいたらなかった.その他臓器では,腺胃深固有胃腺部に少数の線虫寄生が認められた以外に著変は認められなかった. 病原検索として,同様の症状を呈した2羽についてNDVの分離およびPCRによる検出を実施したが,ともに陰性であった. 本症例は組織学的に非化膿性髄膜脳炎と診断され,大脳に認められた原虫様構造物による可能性が疑われた.認められた原虫様構造物はその形態から,Sarcocystis のシゾントが考えられたが,特定にはいたらなかった. |
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16.豚のリンパ節に認められた悪性黒色腫 | ||
〔内藤和美(山梨県)〕 |
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デュロック種,雌,8カ月齢,鑑定殺.農家で飼養中の肥育豚において,2カ月齢頃から乳房付近の腹部の膨満に気づき,10〜20日後に左臀部で腫瘤が確認された.その後,腹部および左臀部の腫瘤は垂れ下がるようにして成長し,雄の陰嚢ヘルニアのような外観を呈した. 剖検では,腹部の皮下組織に人頭大から米粒大の黒色腫瘤が存在した.人頭大腫瘤の割面は黒色で,辺縁部は硬結感を認めたが,中心部は空洞化し,墨汁様液体が充満していた.左臀部の腫瘤はハンドボール大で黒色を呈し,大理石様で硬化していた.骨盤内の各リンパ節や膝窩リンパ節も軽度から中等度に腫大し,黒色を呈していた.肺でも小豆から大豆大の黒色結節が認められた. 組織学的に,腹部腫瘤は重度の濃褐色顆粒状の色素沈着をともなう腫瘍細胞の渦巻き状,シート状および胞巣状配列によって構成されていた.増殖している腫瘍細胞には明るい類円形の核と豊富な細胞質をもつ類上皮様の細胞と,クロマチンに富む核をもつ紡錘形細胞が認められ,どちらの細胞も褐色顆粒の沈着をともなっていた(図16).腫瘤辺縁部にはリンパ節構造が残存し,リンパ洞内に細胞質に薄茶顆粒を含む類円形細胞がび慢性に浸潤していた.リンパ小節は薄茶や濃褐色顆粒を含む大小不同の多角形の細胞や紡錘形の細胞によってほとんど置換されていた.同色顆粒を含む大小不同の細胞の脈管内,リンパ管内転移像も顕著に認められた.褐色顆粒色素は過マンガン酸カリウム処理で漂白され,増殖している細胞はS-100蛋白およびビメンチンに対する抗体を用いた免疫染色で陽性を示した.臀部腫瘤では,腹部腫瘤と同様の細胞が皮下組織に連続して浸潤増殖しており,中心部は紡錘形の腫瘍細胞がシート状に増殖していた. 本症例は一見ヘルニアと間違えるような特徴的な外観をもっており,臀部の皮下組織が原発で,巨大な腹部腫瘤は,リンパ節への転移病巣が大きくなったものと考えられた. |
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17.鶏のニューカッスル病ウイルス感染による壊死性脾炎 | ||
〔佐藤尚人(青森県)〕 |
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採卵鶏,雌,400日齢,鑑定殺.422羽を飼養する採卵農家において,2002年3月26日頃から緑色・白色下痢便を排泄し,呼吸器症状を呈して4月5日までに119羽が斃死したため,異常鶏9羽について病性鑑定を実施した. 剖検では,心臓,筋胃周囲および骨格筋の脂肪組織に点状出血が認められ,気管では粘液の増量と粘膜の充出血が認められた.十二指腸粘膜と空回腸粘膜では潰瘍の形成が認められた.盲腸扁桃では出血が認められた. 組織学的には,白脾髄にリンパ球の消失および壊死が散見され,マクロファージの増殖と線維素の滲出が認められた(図17).十二指腸と盲腸扁桃の粘膜固有層ではリンパ組織の壊死が認められ,マクロファージと偽好酸球の浸潤および線維素の析出が認められた.気管粘膜では,出血と水腫をともなった肥厚が認められ,粘膜上皮細胞は腫大・変性を呈していた.ニューカッスル病ウイルス(NDV)に対するDIG標識DNAプローブを使用してin situ hybridization法を実施した結果,気管上皮に陽性反応が認められた. 病原検索では,肝臓,脾臓,気管および直腸(内容含む)の10%組織乳剤からNDVが分離され,PCRにより同上臓器からNDVの遺伝子が確認された. 本症例は,鶏のニューカッスル病と診断された.組織学的には壊死性脾炎と診断されたが,壊死性変化は軽度との指摘があった. |
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18.羊のブルータングウイルス感染による食道の出血と横紋筋の変性 | ||
〔高橋孝志(栃木県)〕 |
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サフォーク種,雄,7カ月齢,斃死例(死後約12時間で剖検).県内の羊を飼養する農場で,2001年10月24日に嚥下障害および耳介浮腫を呈した羊が,翌日斃死した.この農場では,他に数頭の羊が嚥下障害と蹄葉炎を呈していた. 剖検では,食道周囲結合組織における重度の膠様浸潤と出血が観察され,舌両側および上唇内側に潰瘍数個が確認された.各リンパ節は硬結感を増し腫大していた.気管,肺,心臓,空腸下部,盲腸および直腸は充うっ血を呈し,第四胃幽門部漿膜面には出血が認められた. 組織学的には,食道で散在性に横紋筋線維の膨化,硝子化,断裂および融解がみられた(図18).これら変性した筋線維の横紋は消失していた.また,筋層と漿膜に重度の出血が観察された.いっぽう,炎症細胞の浸潤はきわめて軽度であった.肺では誤嚥性肺炎が,胸腺および咽頭後リンパ節ではび漫性かつ重度な出血が認められた. 病原検索では,PCRにより脾臓乳剤からブルータングウイルスの特異遺伝子が検出され,心残血を用いた寒天ゲル内沈降反応によりブルータングウイルスの抗体が検出された.さらに同農場の同居羊14頭中3頭の洗浄血球からブルータングウイルスが分離された. 以上の所見から,本症例は羊のブルータングと診断された.食道横紋筋の病変は比較的軽度であったが,誤嚥性肺炎を併発して斃死したものと考えられた. |
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19.牛の巣状壊死をともなった空腸炎 | ||
〔尾崎裕昭(鳥取県)〕 |
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ホルスタイン種,雌,5歳,斃死例.搾乳牛25頭を飼養する酪農家で,2002年4月,成牛の流行性の下痢の発生があり,3頭が斃死し,うち2頭が病性鑑定された.脱水,水様性下痢および発熱等がみられていた. 剖検では,第四胃〜結腸の粘膜面は充血し,第四胃内容は水様で,腸内容は血液および偽膜様物を含んでいた. 組織学的には,主病変は小腸と大腸に認められた.病変の特徴は,壁全層で巣状壊死が散見されたことであり,壊死巣では単核系細胞浸潤が観察された(図19).その他,粘膜下織の水腫と単核系細胞浸潤,小血管とリンパ管における線維素血栓の形成が観察された.腸間膜リンパ節では,辺縁洞に線維素が重度に析出していた.肝臓では巣状壊死と小葉間静脈における血栓形成が認められた. 病原検索では,肝臓,腎臓および腸間膜リンパ節からの菌分離ならびに糞便からのサルモネラ分離は陰性であった.同居牛の糞便検査ではサルモネラとロタウイルスは陰性であり,ペア血清を用いた抗体検査ではおもに牛コロナウイルスおよび牛アデノウイルス7型のHI抗体価の上昇が認められた. 本症例では,絨毛の萎縮が認められず,空腸および腸間膜リンパ節について牛アデノウイルス3,同7型,牛コロナウイルス,クラミジア,大腸菌(以上の抗血清の由来は動衛研)およびBVDV抗体(Trop Bio社)を用い免疫染色を実施したが,壊死巣に一致した陽性所見は得られなかった.このことから,原因の特定困難な成牛の下痢症と診断された. |
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20.子豚の豚ロタウイルスによる小腸絨毛の萎縮と粘膜上皮の空胞化 | ||
〔青野逸志(愛媛県)〕 |
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LWD種,雌,6日齢,鑑定殺.2001年に新規経営開始したSPF豚一貫経営農場で,2002年3月に哺乳豚(生後1〜12日齢頃)の集団下痢(発症率48.5%)が発生した.発症豚は軟便〜水様性下痢を呈したが,抗生剤や栄養剤投与により3〜4日で回復した.斃死豚はなかったが,初期治療が遅れた豚では削痩が認められた.下痢発症前に嘔吐が散見された. 剖検では,小腸は部分的に菲薄化し,内容は黄色水様性ないし粘稠性であった. 組織学的には,小腸の絨毛は1/2〜1/3に萎縮していた.絨毛の中層部から先端部では,上皮細胞が扁平ないし立方化し,その細胞質は空胞化していた(図20). 病原検索では,小腸絨毛上皮細胞を透過型電子顕微鏡で観察したところ,細胞質内にロタウイルス粒子が確認された.TGEとPEDの関与については,小腸内容のPCR検査および同居子豚のペア血清(発症時およびその20日後)を用いた中和抗体検査により否定された.細菌学的検査では,細菌は分離されなかった.小腸内容の大腸菌数は106CFU/gであったが,付着因子や毒素産生能はみとめられなかった. 以上の結果より,本症例は豚ロタウイルス感染症と診断された.SPF母豚を導入した直後で,母豚の免疫レベルが低かったことが,集団発生の原因と考えられた. |
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