解説・報告

4.モニタリング検査
 命令検査の対象食品は,違反の蓋然性の高いものであることから,食品衛生法に違反するものでないことが確認されるまで,その輸入を認めないものである.しかしながら,命令検査の対象食品以外の食品がすべて食品衛生法に違反しないとは言い切れない.このため,これらの食品についても違反の蓋然性を調査するため,モニタリング検査が実施されている.
 このモニタリング検査は食品群の種類ごとに輸入量,違反率,衛生上の問題が生じた場合の危害度等を勘案しその計画が定められている.
(1) 統計学的な考え方
  食品の安全検査を目的としたモニタリング計画の策定に際し,必要な検査項目に対する検体数は,当該食品群が一定レベル以上の違反率を有する食品群であることを確実に発見するために十分な数でなければならない.この検体数については,統計学的に設定される必要があり,FAO/WHO国際食品規格計画の分析・サンプリング部会において,そのための国際的な考え方が示されている.
  たとえば,1%以上の違反率がある食品群から少なくとも1件の違反を95%の信頼度で発見するためには,299件サンプリングする必要がある.ここで留意しなければならないのは,サンプリング数は輸入件数の母数に関わらず設定されるということである.すなわち,1000件の輸入届出がある食品群であっても,100,000件の輸入届出がある食品群でも299件サンプリングして検査を行い,すべてが違反でなければ95%の信頼度でこの食品群の違反率が1%以下であることが統計学的にいえるということである.ちなみに,同じ95%の信頼度で違反率を5%以下であることを証明するためには,59件のサンプリングでよく,違反率が0.1%以下であることを証明するためには2,995件のサンプリングを行わなければならない(表1参照).
(2) 具体的な策定方法
 わが国の輸入食品のモニタリング検査計画を策定するにあたっては,対象とする食品群を分類(平成15年度計画では122品目群に分類)した上で,過去の違反率のみでなく,違反になった場合の危害の程度(その違反品を摂食した場合の個々人の健康の危害の程度のみならず,公衆全体に対する影響を推測するため輸入数重量等も考慮する)も勘案したスコアリングを行い必要な検査件数を定めている.
 具体的には,食品群ごとに
[1] 違反率については,表2のとおり,違反率を0〜10に点数化し,違反率が高いものほど点数を高くし,
[2] 輸入重量については,表3のとおり,輸入重量を0〜5に点数化し,量の多いものほど点数を高くし,
[3] 輸入件数については,表4のとおり,輸入件数を0〜5に点数化し,件数の多いものほど点数を高くし,
[4] 重要度については,表5のとおり,過去に危害の高い違反があるもの等を勘案の上,1,5,10の3段階の点数をつけ,
  これらの合計点数により,危害度を設定し,表6のとおり検査すべき検体数を定めている.なお,信頼度は先進諸国が採用している95%としている.
(3) モニタリング検査の実施
  平成15年度におけるモニタリング検査は次のとおり計画されている.
[1] 対象食品
  表7に掲げる食品を対象とし,次に掲げる食品については,食品衛生法違反の蓋然性が高いとして除外した.
ア. 食品衛生法第15条第3項に基づく検査が行われている食品
イ. 事故品
ウ. 積み戻り品
エ. 税関職員から食品衛生上の問題があるとして連絡のあった食品
オ. 初めて本邦に輸入される食品
  なお,上記にかかわらず,厚生労働大臣の指定検査機関及び輸出国公的検査機関の検査成績書の提出があったものならびに同一食品の継続的輸入として,過去の検査成績書の提出のあるものについても,検査機関の精度管理等の観点から対象としている.さらに,[1]に該当する食品であっても,食品衛生法第15条第3項に基づく検査項目と異なる検査項目についても対象となる.
[2] 試験項目
  表7に掲げる食品について,食品,添加物等の規格基準において定められている成分規格等の項目,病原微生物,カビ毒等を試験項目としている.
[3] 検査検体数
  4(2)において記載した方法に基づき定められたサンプリング検体数68,489検体に,中国産野菜のように危険情報に基づき集中的に検査を実施する検査強化分4,500検体を加えた72,989検体を全国の検疫所においてサンプリングし年間を通じて検査することとなっている.
(4) モニタリング検査の結果
  モニタリング検査において,違反が発見されたものについては,ただちにモニタリング検査率を50%(2件に1件)に引き上げて監視強化し,引き続き,再度違反が発見されるものについては,100%命令検査の対象としている.
  なお,輸入食品の違反事例については,すべて厚生労働省のホームページに掲載され,2週間ごとに更新されている.(http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1.html

   
   
   


5.そ  の  他
(1) 包括的輸入禁止規定の創設
 平成14年3月,民間団体が中国産冷凍ほうれん草から食品衛生法第7条に基づく生鮮ほうれん草の基準値を超える残留農薬(クロルピリホス(殺虫剤))を検出したことから,検疫所におけるモニタリング検査の頻度を増加(10%→100%)させるとともに,同一ロットからサンプリングする検体数を増加(1検体→2検体→4検体→8検体→16検体)するなど,検査を強化したにもかかわらず,高い頻度で基準違反が発見されたことに加え,検疫所の検査で違反が発見されず国内流通段階でこれが判明したものがでるなど,国民への健康影響が懸念されることとなった.
 この事例のように,残留農薬など分布の不均一な危害物質を含むものについては,命令検査等によりすべての貨物を検査対象としても,検体については抽出に依らざるを得ない検査制度のみでは自ずと限界があることが認識された.
 このため,平成14年8月,食品衛生法の一部が改正され,特定の国もしくは地域において製造等がなされた特定の食品等について,検査を要せずに販売,輸入等を禁止できる仕組みが創設された(食品衛生法第4条の3).
(2) 食品衛生法改正
 BSE問題をはじめとする食品の安全に対する国民の不安や不信の高まりをうけ,食の安全対策に政府全体として取り組むべく,食品安全基本法案が第156回国会に提出され可決成立した.この食品安全基本法には,食の安全確保のための基本理念の他,リスク評価(食品健康影響評価)を実施する食品安全委員会の設置などが盛り込まれている.いっぽう,食の安全に係るリスク管理の大所の法律である食品衛生法も抜本改正すべくその改正法案が同国会に提出され,平成15年5月23日参議院本会議で可決成立した.本改正は多岐にわたっており,本稿においてすべてを解説することはできないが,輸入食品に係るの改正内容についてのみ概略説明する.
[1] 命令検査の対象食品の政令指定の廃止
 3で述べたように,命令検査は,食品衛生法違反の蓋然性の高い食品について,指定検査機関の検査を受けるべきことを命じ,その結果,基準に合致することが確認されたもののみ輸入が認められるものであるが,この命令検査の対象となる食品については,あらかじめ政令で指定されている範囲のものから検疫所に対し指示する必要があった.
 昨年の中国産冷凍ほうれん草問題の際に,当時,野菜加工品が政令指定されておらず,このため,ただちに命令検査の対象食品として指示することができなかったことを踏まえ,今後,命令検査の対象食品については,違反の蓋然性に応じて機動的に対応できるよう,政令による限定列挙を廃止することとした.
[2] 輸入食品監視指導計画の策定・公表
 輸入食品のモニタリング検査については,これまでも,年度ごとに年間計画を策定し検疫所に指示していたところであるが,今後はこのような輸入食品の検査等の監視指導に関する計画を,法律に基づき,しかも,あらかじめ国民の意見を聴いた上で策定・公表し,当該計画に従い,監視指導を行うこととしたほか,監視指導の結果についても公表することとした.
[3] 営業者の責務規定と厚生労働大臣による輸入業者に対する営業禁停止処分規定の創設
 輸入食品の安全性確保を図る上で,輸入業者の責任は重大なものがある.このため,改正食品衛生法では,輸入業者を含む営業者の責務規定として自主検査の実施,その他販売食品の安全性を確保するため,自らの責任において必要な措置を講じるよう努めなければならないとされている.
 また,これまで営業者に対する営業禁停止処分については,都道府県知事等に限られていたが,食品の輸入業者については,検疫所における監視指導等が行われていることに鑑み,厚生労働大臣も営業の禁停止処分を下すことができることとされた.
[4] 定検査機関の登録制への移行
 命令検査の実施機関としては,これまで,公益法人である指定検査機関のみに限定されていた.この厚生労働大臣による指定制度が,中立性や公正性等法律で定める一定の要件を満たす機関であれば,民間であっても登録が可能となる登録検査機関制度に改められ,命令検査の実施機関として民間の検査機関の参入が可能となった.
[5] モニタリング検査のアウトソーシング
 モニタリング検査については,現在,すべて検疫所において実施されているところであるが,昨年の中国産冷凍ほうれん草のような問題が勃発し,一時期に検査が集中する等,不測の事態に対応するため,モニタリング検査を民間の登録検査機関に委託することができるとした.ただし,委託できるのは,分析に係る事務のみとしており,検体のサンプリングはこれまでどおり検疫所自らが実施することとなっている.

6.お わ り に
 今,食品の安全性は,多くの国民が関心を寄せるところとなっている.そもそも安全な食品を消費者に提供する責務は,食品を取り扱うそれぞれの営業者が負うべきものであるが,国としても輸入食品の安全性確保の取り組みにおいて,民間等の活力も生かしながら,必要な体制の整備に努めていくこととしている.

 


† 連絡責任者: 滝本浩司(厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所業務管理室)
〒100-8916 千代田区霞が関1-2-2
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