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Proceedings of the Slide-Seminar held by the Livestock Sanitation Study Group
in 2002*†, Part I
2002年度の家畜衛生研修会(病性鑑定病理部門)が農林水産省生産局衛生課の主催により,2002年11月19日から22日にかけて動物衛生研究所で開催された.今回は46都道府県から46題が提出された.本記録が読者の方々の日頃の家畜衛生業務や病気に対する理解の一助となれば幸いである. 以下に今回の提出事例を述べる. |
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事 例 報 告 |
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1.子牛の骨格筋における硝子様変性 | ||
〔高橋幸治(宮城県)〕 |
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黒毛和種,雌,25日齢,鑑定殺.生後7日目頃から水様性の下痢を呈し,その後15日間ほど治療を実施した.下痢は治癒したが,眼瞼浮腫,元気消沈,食欲廃絶および起立不能となり,さらに継続して2日間加療したが予後不良と判断し,病性鑑定を実施した.剖検時には子牛は起立不能を呈し,骨格筋は無力状態で,眼瞼は左右対称性に浮腫を認め,呼吸速拍と心拍数の増加がみられた.母牛は初産で,アカバネ病ワクチンを接種されていた. 剖検では,左心室全体,左心耳付近の心外膜面および心内膜面に表層性に白色線条病巣を認めた.四肢の骨格筋では,正常部との境界が明瞭な白色病巣が広範囲にみられた. 組織学的に,骨格筋では広範囲にわたり多数の筋線維が膨化,塊状崩壊および硝子様変性を呈し(図1),一部では好塩基性微小顆粒の沈着(石灰沈着)がみられた.硝子様変性部には,マクロファージおよびリンパ球の浸潤や変性筋線維の貪食像も認められたが,筋線維の再生像はあまりみられなかった.筋線維間は水腫性に拡張していた.心臓では,一部の筋線維で横紋構造の消失,膨化および硝子様変性がみられ,同部位ではときにマクロファージの浸潤・集簇および貪食像も認められた.また,横隔膜の筋線維にも同様の所見を軽度に認めた.その他,小腸絨毛の萎縮がみられた. 血液・生化学的検査では,GOT,CPKおよびLDHの顕著な増加を認め,血漿中ビタミンEは215.5μg/dl(ビタミンE・セレン製剤投与後の値,正常範囲内),血清中セレンは11.6ng/mlと欠乏値を示した. 以上の結果から,本症例は白筋症と診断された. |
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2.肉用鶏の深胸筋の変性・壊死 | ||
〔石本明宏(滋賀県)〕 |
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チャンキー種,雄,約60日齢,食鳥用に解体後約6時間で剖検.食鳥処理加工店経営農家において,肥育農家から導入後5日目の鶏20羽を処理したところ,1羽の胸筋に変色部が認められ廃棄された. 剖検では,左深胸筋が広範に緑黄色を呈し,軽度に硬化していた.左浅胸筋との境界部では,フィブリン析出と筋膜の点状出血を認めた. 組織学的には,深胸筋では変色部は周囲との境界が比較的明瞭で,筋線維の変性・壊死,消失および軽度の細胞浸潤と線維化を認めた(図2).同病変の境界部では,筋線維の硝子様変性,塊状崩壊,マクロファージと少数の偽好酸球浸潤および血管の変性・壊死がみられた.変色部以外にも散在性に筋線維の膨化,硝子様変性,消失および間質血管の変性・壊死が認められ,筋上膜付近では弱好塩基性で鎖核を有する小型の再生筋線維がみられた.浅胸筋では,深胸筋との境界部で筋膜の出血,フィブリン析出,軽度の線維化および筋線維の変性を認めた. 本症例は,深胸筋に限局した筋の変色と筋線維の変性・壊死が認められたことから,深胸筋変性症と診断された. |
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3.牛のHaemophilus somnusによる血栓塞栓性化膿性心筋炎 | ||
〔荒井眞弓(神奈川県)〕 |
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ホルスタイン種,雌,9カ月齢,斃死例(死後約6時間で剖検).本症例は,県内の育成牧場で朝方放牧地に横臥している状態で発見された.体温は41.2℃で呼吸速拍および心音微弱を呈し,対症療法として補液,強心剤および抗生物質を投与したが,昼過ぎに斃死した. 剖検では,心嚢水貯留,心嚢の肥厚および心嚢と胸壁の軽度癒着がみられた.心外膜には著しい暗赤色斑と左心室壁に径1cm大の出血斑を認めた.肺は暗赤色で水腫様を呈していた. 組織学的に心臓には,巣状ないし広範な好中球を主体とした炎症細胞の浸潤,出血およびフィブリンの析出が認められ,心筋線維は変性・壊死し,一部で短桿菌(グラム陰性)の増殖がみられた(図3).また,小血管にはフィブリン血栓も認められた.心外膜下には出血,好中球の浸潤および静脈のフィブリノイド変性がみられた.大脳,小脳,閂および脊髄では,血栓形成とフィブリンの析出をともなった化膿性髄膜炎,実質の微小膿瘍,血栓形成,出血および軟化病巣が認められた.肺では血栓形成,うっ血および水腫がみられた.抗Haemophilus somnus兎血清(動物衛生研究所)を用いたSAB法では,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,腸間膜リンパ節,大脳,小脳および脊髄の細菌塊やマクロファージで陽性反応が認められた. 病原検索では,心臓・肝臓・腎臓・脾臓・肺および大脳よりHaemophilus somnusが分離された. 以上により,本症例はヘモフィルス・ソムナス感染症と診断された. |
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4.牛の線維化をともなった心筋線維の変性,壊死 | ||
〔山田みちる(徳島県)〕 |
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ホルスタイン種,雌,4歳8カ月齢,斃死例(死後約3時間で剖検).当該牛は2002年3月28日に疝痛および軟便を呈し,4月1日に黒色便を排し起立不能となった.治療を行ったが改善はみられず,4月5日に斃死した.2月24日から4月5日にかけて,当該牛を含め同様の症状を呈した3頭が斃死した.飼養農家は2001年12月1日から2002年4月8日まで,大根を1頭当たり1日に40〜50kg給与していた. 剖検では,心臓左心室漿膜面および右心耳内膜に点状〜斑状の出血が散見された.肝臓では辺縁部に広範囲な白色斑がみられた.第四胃は粘膜が暗赤色を呈し,胃内容には多量の小石や砂が含まれていた.十二指腸および回腸は粘膜が暗赤色を呈して菲薄化し,腸内容は暗赤色水様であった.また,空腸上部に重積がみられ,重積部は著しく出血しており,腸管内に血餅を容れていた. 組織学的には,心筋線維の変性・壊死と間質の巣状ないしびまん性の線維化がみられた(図4).巣状の線維化巣では残存する心筋線維が変性し,形質細胞やマクロファージなどの細胞浸潤が認められた.心内膜下および心外膜下には出血巣が散在性に認められた.空腸上部の重積部では,粘膜から漿膜にかけて広範囲に壊死し,出血や血栓形成がみられた.肝臓では,小葉中心性に肝細胞の空胞変性および局所で大型の変性・壊死巣がみられた.また,脾臓では赤脾髄に高度のヘモジデリン沈着が,肺では間質にびまん性の平滑筋増生がみられた. 病原検索では,主要臓器から病原細菌は分離されなかった.斃死4日前の血液検査では,グルコース(307mg/dl)とBUN(52mg/dl)の上昇が認められた.アブラナ科植物の中毒で上昇する血中イソチオシアネート濃度は0.51μMであり,正常牛との差はわずかであった. 以上の所見から,本症例はアブラナ科植物である大根の長期大量給与による中毒が疑われたが,確定にはいたらず,直接の死因は腸重積によるものと考えられた. |
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5.豚のPCV2による多発性非化膿性心筋炎 | ||||||
〔中嶋宏明(山形県)〕 |
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LW種,性別不明,8日齢,斃死例.母豚数177頭の一貫経営農場において,2001年6月から8月にかけて黒子(ミイラ変性胎子),白子(死産胎子)および虚弱子が娩出される異常産が発生した. 剖検では,体表リンパ節の腫大が認められたほかは,著変は認められなかった. 組織学的には,心臓で心筋線維の変性・壊死が巣状ないし層状に多発し,同部にはリンパ球およびマクロファージの浸潤と線維化が観察された(図5A).層状の病変はおもに中層に,巣状の病変は心内膜下および心外膜下に観察された.変性した心筋は細胞質が弱好酸性を呈し,核濃縮が認められた.下顎リンパ節および胸腺では,ラングハンス型巨細胞が散見された.ビオチン化抗PCV2豚血清を用いた免疫染色を実施した結果,心臓では変性した心筋の細胞質に(図5B),リンパ節ではマクロファージおよび細網細胞の細胞質に陽性反応が認められた. 病原検索では,脳および肝臓よりPCV2が分離され,PCRでもPCV2陽性であった.豚パルボウイルス,日本脳炎ウイルス,PRRSウイルスおよびPCV1はいずれもPCRで陰性であった. 本症例は,虚弱子豚にみられたPCV2による心筋炎と診断された.同腹の黒子においても心筋炎ならびに同様の病原検索結果が得られ,PCV2による異常産が示唆された. |
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6.牛の大脳皮質の層状壊死 | ||
〔中谷英嗣(山口県)〕 |
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交雑種,雌,94日齢,鑑定殺.2001年7月20日生まれの子牛が9月28日から水様性下痢便を排出したため,サルファ剤を数日間投薬した.10月13日に起立不能および神経症状を呈したため,抗生剤と整腸剤の投与および補液を行った.しかし,翌日に四肢伸張および後弓反張を示したため,予後不良と判断して鑑定殺を実施した. 剖検では,脳脊髄は充血して水腫様を示し,大脳は腫脹して帯黄色を呈していた.大脳割面への紫外線(365nm)照射で,皮質領域の広範囲に黄白色の自家蛍光を確認した.また,肺の気腫と肝変化,第一胃の菲薄化および腸間膜リンパ節の軽度腫大を認めた. 組織学的には,大脳で皮質領域が層状に壊死し,神経細胞の乏血性変化や神経網の空胞化を認めた(図6).病変部の血管周囲や髄膜にはマクロファージ,形質細胞およびリンパ球の浸潤がみられた.神経網の空胞化は皮髄境界部にも多数認められた.肺は化膿性気管支肺炎像を呈し,病変内には細菌塊が散見された.気管支リンパ節では,リンパ洞に好中球およびマクロファージの軽度ないし中等度浸潤を認めた. 生化学的検査で,チアミン濃度は血液7.8ng/ml,大脳皮質0.52μg/g,肝臓0.51μg/g,および心臓1.80μg/gであり,正常牛の値に比べて低値であった. 以上の結果から,本症例はチアミン欠乏による大脳皮質壊死症と診断された. |
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