会議報告


II.現状の財政面の問題点について


1. 日本獣医師会の財政規模は各種の公益事業の推進に伴い順次拡大し,この10年間で見ても約2倍にまで伸びてきたが,社団法人の公益事業活動や管理運営の基盤となる会費の水準は,諸物価が上昇する中においても昭和63年以降据え置かれたまま今日にいたっている.
2. このような運営を可能としたのは,日本獣医師会が保有する特定預金を管理する基金会計や事業収益を管理する事業会計から一般会計への繰り入れによる資金手当が行い得たことに加え,これまで,組織及び事務執行体制の整備・合理化や資金の効率的運用をはじめ諸経費の節減等に努力が払われてきた結果であり,日本獣医師会の財政運営は高く評価できる.
3. このよう中で,日本獣医師会の財政運営については,平成11年に組織された前回の組織財政委員会に対し,日本獣医師会長から「会費値上げを含む財政の在り方」が諮問され,検討の結果,「経費節減等の努力にも限度があり,さらに,基金会計の運用資金も13年度までにほぼ底をつくことが予想されることから,14年度からの会費の値上げが必要となるが,会費の値上げについて会員である地方獣医師会の対応が困難な場合は,緊急避難的措置として,期限を定め基金の取り崩しによる一般会計財源の確保はやむを得ない.」旨の答申が平成12年3月になされた経緯がある.しかしながら,これまで,前記 IIの2に示したとおり,一般会計の財源不足部分については,他会計との間での収支バランスを図る等の運営を図る中で,基金会計からの繰り入れについては基金運用に伴う果実相当分の範囲で対処し得たこと等から,会費の値上げ及び基金本体の取り崩しは行われていない.
4. しかしながら,日本獣医師会の財政運営は,見かけ上は収支均衡が図られてきているが,現下の経済・金融情勢の下において基金会計の運用益収入は順次減少することが見込まれるところである.組織財政委員会においては,日本獣医師会の一般会計等の財政基盤について今後とも現状のままでよいのか等の問題点を検討し,基金会計の財政上の位置づけ及び管理運営に当たっての留意事項とともに,会費の在り方等を整理し,次のとおりとりまとめた.今後,これらの事項に配慮し財政運営に当たる必要がある.
(1) 一般会計等の財政運営
ア. 社団法人における財政運営の基礎は,会員からの会費収入である.日本獣医師会の会費は,すべての会員に共通する均等割会費と会員を構成する構成獣医師の数に応じ設定する構成獣医師割会費により構成されているが,これらの会費は,ここ10数年据え置かれてきたこともあり,現状で一般会計のみで見ても6割水準のカバー率となっており,1人当たりの構成獣医師割会費の額で見ても低い水準にある.
イ. しかしながら,会費について一律の値上げを行うとしたとした場合,地方獣医師会は,基本的にはこれらの値上げ分を地方獣医師会の会費の値上げで対応することとなるが,地方獣医師会を組織する獣医師の職域が公務員,団体,民間会社,産業動物開業者,小動物開業者と多岐にわたる中ですべての職域の構成獣医師に共通する会費を今ただちに一斉に値上げすることは地方獣医師会によっては困難が伴うと考える.
ウ. したがって,一般会計等の財政運営については,当面は,基金会計等から資金の繰り入れを図ることで対応せざるを得ないと判断される.日本獣医師会は,地方獣医師会とともに,社団法人の財政運営の基本に立ち返り,今後,構成獣医師の各職域の特性に応じた獣医師会活動の一層の活性化を図る中で会費算定の在り方等について,現実的な対応方策を検討する必要がある.
 なお,会費算定の在り方等の検討に当たっては,たとえば,[1]会費のうち,1人当たりの構成獣医師割会費を構成獣医師が共通して負担する部分と,職域等に応じて追加負担を求める部分に分けること.[2]会費とは別に,日本獣医師会の特定の事業活動等に参加する構成獣医師に直接求める受益者負担の扱い等について,次に掲げた事項に配慮する必要がある.
[1] 構成獣医師割会費の種別設定の必要性
a. 日本獣医師会の会費の算定要素である構成獣医師数割会費のうち1人当たりの金額は,現在,原則,一律の水準に設定されている.また,地方獣医師会においても1人当たりの会費の額を一律に設定しているケースがあるが,多岐にわたる職域に所属する獣医師の会費の水準がすべての職域で一律で設定されていること自体会員の獣医師会活動に対する意識の高揚を減殺することにつながりかねない.
b. 構成獣医師割会費については,今後,地方獣医師会における会費納入の実情等を見極めつつ,前記 Iの2の(3)のウに示した組織の在り方等を検討する中で,年齢のみならず,新たに勤務形態,職域等の事に配慮すること.
 なお,検討に当たっては,日本獣医師会の構成獣医師組織率が高い水準にあることに留意すること.
[2] 事業活動と受益者負担の関係
 現在,日本獣医師会において,事業活動等に係る受益者負担を求めているものは,獣医師生涯研修事業における認定等の事務手数料,獣医師福祉共済事業の保険料,三学会登録料等があげられる.今後,これらに加え,日本獣医師会が全職域を通じた,また,各職域別の事業活動を推進する中において,構成獣医師を直接的に対象とする事業活動等への参加に伴う経費については,受益者負担の原則の適用を検討すること.
 なお,検討に当たっては,構成獣医師の獣医師会活動への参加意識を高める方向で対応するよう留意すること.
エ. また,福祉共済事業会計については,本会計で対応すべき本来事業の収支均衡等の健全運営の観点に立ち,福祉共済事業等に係る事務手数料の配分や構成獣医師に対する一方的な給付となる弔慰金等の扱いの見直しを検討する必要がある.
(2) 基金会計の財政上の位置づけ及び会費の在り方等
ア. 日本獣医師会の公益事業及び会務の運営を経理する一般会計の今後の収支について,会費収入の水準を現状に固定して見通した場合,これまでと同様に基金会計からの資金の繰入れを要することとなるが,基金会計で管理する特定預金は,基本的には,公益法人として所有する引き当て資産や負債相当額に充てる他は,物価水準や金利等の社会経済情勢,会員の異動等避けがたい,若しくは,予期せざる法人の運営環境の変化に対応し,公益事業を継続的に対応するための内部留保として機能するよう管理すべきものである.
イ. したがって,基金会計については,日本獣医師会の経営環境等の諸情勢の大きな変化に対応した会務運営に対する備えとしての機能が発揮できるよう,管理する資金の他の会計への繰り入れは,必要最小限度に止め,効率かつ適正な運用に努めるとともに,基金として最低限保有しておくべき金額について,あらかじめ限度額を設定することが必要である.
ウ. 基金会計が管理する資金のうち最低限確保しておくべき金額(以下「限度額」という.)は,基金会計が基本的には,緊急又は予期せざる不測の事態に備えるための内部留保としての性格を有するものであること.また,基金が設置された経緯等を勘案して設定する必要があるが,限度額は,[1]今後見込まれる財政支出規模を勘案した公益法人としての基本的運営経費,建物減価償却引当預金所要額及び事業会計の賃貸借契約に係る預かり保証金相当額をあわせた額と,[2]基金会計の原資とされる額.その双方をクリアする水準,すなわち11億円(建物減価償却引当預金所要額を含む.)を目安とすべきである.
エ. 日本獣医師会の財政運営において,現状において会費収入により不足する分の財源については,前記IIの4の(1)のウに示したとおり,当面は,基金会計をはじめ他の会計からの繰り入れに求めることはやむを得ないが,基金会計に限度額を定めることとする以上,基金会計に限度額が到達する前の段階において会費値上げが不可欠となる.会費値上げについては,先送りすることなく基金会計からの繰り入れに限度が来る前の段階において厳正に対処する必要がある.
 なお,日本獣医師会は,これまでも組織及び事務執行の整備,合理化等を進めてきたところであるが,今後とも経費の節減をはじめ,事務・事業執行の効率化・合理化に留意するとともに,全国各職域の獣医師により構成される公益法人の全国団体として,会員及び構成獣医師,さらに社会の期待に応えるため,前記 I の2の別記に掲げた事項に十分配慮し各種公益事業を積極的に展開することが求められる.
 また,地方獣医師会は,今後,前記 I の2の(3)のウに示した日本獣医師会の組織の在り方や前記 IIの4の(1)のウに示した会費算定の在り方等が検討される中で,必要に応じ財政面での対応を検討する必要がある.

(参考資料)
1.日本獣医師会におけるこれまでの組織及び事務執行等の整備・合理化等の状況(略)
2.日本医師会等の会員組織率及び中央団体に納入する会費の額等(略)

 

【組織財政委員会委員】
  安保佳一(宮城県獣医師会会長)
  金子秀夫(税理士,東京税理士会会長)
  栗原 貯(元群馬県獣医師会副会長)
  小島秀俊(兵庫県獣医師会会長)
  島田寿子(弁護士,東京都獣医師会会員)
  菅沢吉登(長野県獣医師会会長)
高橋三男(埼玉県獣医師会会長)
  高良忠清(沖縄県獣医師会会長)
  瀧口次郎(広島県獣医師会会長)
  田村誠朗(北海道獣医師会副会長)
林 良博(東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長)
  村中志朗(東京都獣医師会理事)
  森 康行(前愛媛県獣医師会会長)
  山根義久(東京農工大学農学部教授)
  【◎:委員長,○:副委員長】