会議報告

日本獣医師会専門委員会の答申・報告について(I)

 本会の定款及び定款施行細則の定めるところにより,事業の円滑な運営を図るため,本会組織の中に,専門委員会を置くこととされ,専門委員会としては[1]組織財政委員会,[2]学術・教育・研究委員会,[3]産業動物委員会,[4]小動物委員会,[5]公衆衛生委員会の常設委員会をはじめ,野生動物対策委員会,卒後臨床研修制度検討委員会,専門医制度検討委員会,動物愛護・福祉対策委員会が設置されている.これら委員会においては,会長諮問事項について平成13年10月以降,検討・審議が行われ答申・報告が順次提出された.
 本会においては,これらの答申・報告を受け,15年度以降の組織・事業運営に資するとともに,関係省庁,関係機関に対する要請活動を行っているところであるが,本号から数次に分けて答申・報告を掲載する.
 なお,今回掲載する組織財政委員会答申であるが,本件についての対処方針については,既に本誌第56巻第5号284頁〜289頁に掲載したので参照願いたい.
 
平成15年1月29日

社団法人 日本獣医師会
会 長 五十嵐幸男 様
日本獣医師会組織財政委員会
委員長 林 良博

組織財政委員会答申について

 
 貴職から組織財政委員会に対し,平成14年2月7日付で諮問された下記の事項については,本委員会において,これまで,平成14年2月7日,4月24日,7月26日,10月9日及び平成15年1月29日のあわせて5回にわたり検討を行った.
 平成14年11月19日にはそれまでの検討の経過を踏まえ「中間とりまとめ」を行ったところであるが,今般,別添のとおり答申をとりまとめたので提出する.
 日本獣医師会においては,答申の趣旨を踏まえ,今後,地方獣医師会とともに所要の対応を図る一方,新たな検討課題とした事項については,引き続き検討を重ね,方向性を明らかにされるよう要請する.
 
1.諮問事項第I
  当面の課題及び中長期的展望に基づく具体的な施策について(獣医師の需給問題を含む.)
2.諮問事項第II
  現状の財政面の問題点について


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【別 紙】

答  申

 
 ま え が き
 今日,わが国の動物医療を巡る情勢をみると,BSEに代表される食の安全確保や海外からの動物の感染症の進入防止,人と動物の共通感染症の診断・予防等の危機管理対策の整備が喫緊の課題とされる一方,国民生活の質の向上が図られるとともに,人と動物の共生が志向される中,さらには,動物愛護・福祉や野生動物保護をはじめとする自然環境保全対策を推進する上において,獣医師及び動物医療に対する需要と期待が従来にも増して高まってきている.
 このような事情を背景に,日本獣医師会は,全国の都道府県・政令市に所在する55の地方獣医師会を会員に擁する社団法人として公益活動を通じての社会貢献を担うとともに,公共性の高い任務を担う獣医師の職能集団として,動物医療の一層の質の向上をはじめとする動物医療提供体制の整備,さらには,動物愛護,福祉対策等幅広い分野で機能を発揮することが求められている.
 一方,日本獣医師会が,このような多様な要請に応えるための事業運営の基盤となる財政については,現下の経済・金融情勢の下で一層の適正,かつ,安定的な運営の確保が課題とされている.
 組織財政委員会は,日本獣医師会長からの諮問を受け,事業活動の当面の課題,財政面での問題点等を検討したが,日本獣医師会に対する前記に示した社会及び獣医師からの期待等を踏まえ,日本獣医師会を中心とした獣医師活動のより一層の発展を通じ,わが国動物医療提供の体制の整備が着実に進展することを念願し,以下のとおり答申する.

 

I.当面の課題及び中長期的展望に基づく具体的な施策について(獣医師の需給問題を含む.)


1. 日本獣医師会は,[1]全国各地域・職域の獣医師を会員とする地方獣医師会により組織される獣医師の全国団体として,[2]動物に関する保健衛生の向上,畜産の振興,公衆衛生の向上及び動物の福祉の増進に寄与することを目的に,[3]獣医師道の高揚,獣医学術の振興・普及,獣医学教育の充実,獣医師の研修,獣医事の向上,獣医事情報の提供,獣医師の福祉のための共済に関する事業をはじめ,前記[2]の目的達成のために必要な活動を推進するとされている.
2. 今日,動物医療については,国民生活における需要や期待の高まりを背景にその提供体制の一層の整備が求められている.日本獣医師会が「まえがき」において示した獣医師及び動物医療を巡る情勢を踏まえ,今後とも公益法人として,その責務と社会貢献を果たしていくためには,別記に示した「事業運営の当面の課題及び事業推進に当たり留意すべき事項」(略,日本獣医師会雑誌第56巻第5号287頁から289頁参照)に配慮しつつ,事業展開を図ることが必要である.
 なお,組織財政委員会においては,当面の課題等を検討する中で,獣医師の需給問題をはじめ,日本獣医師会の果たすべき役割,組織の在り方等についても議論し,次のとおりとりまとめた.今後,これらの事項にも配慮し,組織及び事業運営に当たる必要がある.
(1) 日本獣医師会の役割等
ア. 日本獣医師会は,全国的視点に立ち動物医療がより社会から信頼を得るための質の向上や広く社会への均てん・浸透を図るため,前記Iの1に掲げた活動を推進するとされている.これらの活動は,日本獣医師会が獣医師により構成される公益法人の全国組織であるが故に対応が可能となるものであり,個々の獣医師では対応が困難な課題について獣医師会という組織の力で,しかも,全国レベルでの活動を展開する.このような場を提供するのが獣医師会である旨の理解と認識を会員及び会員を構成する獣医師(以下「構成獣医師」という.)の双方で共有することが重要である.
 なお,日本獣医師会が,[1]不特定多数の者の利益を目的に動物医療の向上を図るための公益活動を推進することと,[2]職能集団として構成獣医師の自己研鑽の支援やその福祉の向上を図ることを通じて間接的な社会還元を図ること.これらは,会員及び構成獣医師の立場から見た場合,無形のメリット及び有形のメリットとして位置づけられるものであるが,組織強化の観点から見ても日本獣医師会の機能をどちらか一方のみで発揮させればよいというものではなく,両者のバランスが重要である.
イ. 一方,日本獣医師会及びその会員である地方獣医師会(以下「地方獣医師会」という.)は,それぞれ公益法人として担うべき役割があるが,全国的視点に立ち広域的に推進すべき課題,制度的な整備を要する課題,指導的立場で取り組むべき課題.これらに対処するのが日本獣医師会の役割である.他方,地方獣医師会は,個々の獣医師を直接会員とする組織であり,しかも,その活動には地域性を有することから地方の実情に応じた事業の推進を図る.これが地方獣医師会の立場である.
 なお,今後,規制の緩和が進むと考えられる中で全国各職域の獣医師が社会からの要請に応え,信頼を得ていくためには,動物医療の質の一層の向上を図ることが最大の課題となる.このことに日本獣医師会が全国的,広域的,制度的,また,指導的立場で取り組むことが必要である.
(2) 日本獣医師会と構成獣医師の関係
ア. 日本獣医師会の直接の会員は地方獣医師会であるが,地方獣医師会は地方獣医師会の区域に所在する各職域の獣医師により構成されるという関係にある.
イ. 日本獣医師会は,会員を構成する獣医師を日本獣医師会の構成獣医師として位置づけ,構成獣医師を,[1]日本獣医師会の役員及び特定の常設委員会の委員選任対象要件,[2]日本獣医師会からの褒賞の対象要件や[3]総会における会員の議決権行使数及び会費の額の算定要素とするとともに,[4]全国獣医師会長会議への出席及び発言資格,[5]日本獣医師会三学会各会の正会員資格とする一方,[6]日本獣医師会雑誌の直接配布及び獣医師損害賠償保険等の福祉共済事業の直接加入要件としているが,地方獣医師会の会員獣医師は,日本獣医師会の構成獣医師であるとされても構成獣医師としての自覚が希薄となっていることも否めない.また,会員が擁する構成獣医師の数を日本獣医師会の会費の算定基礎としていることからしても構成獣医師が日本獣医師会においてどのように位置づけられているのかを規程で明確化する必要がある.一方,地方獣医師会においても会員である獣医師と日本獣医師会との関係を明確化し,地方獣医師会を構成する獣医師のすべてが,地方獣医師会の会員であると同時に日本獣医師会の構成獣医師として日本獣医師会の事業活動に参画していることを理解させることが必要である.
(3) 日本獣医師会の会員制度及び組織の在り方
ア. 日本獣医師会は,社団法人である全国55の都道府県・政令市獣医師会を会員とする団体会員制をとっている.日本獣医師会の組織を日本医師会等においてみられるように個人会員制を基本とした地方団体及び中央団体の双方への二重加入制とすべきかについては,医師会等の会員はその多くが,診療等の現業の職域の者で占められ,いわば単一的集団であるのに対し,獣医師会については職域が公務員,団体,民間会社,教育機関,開業者等多岐にわたること.また,個々の会員が負担する会費の額も,現状において医師会等の会費水準とでは大きな格差があること等の事情に配慮する必要がある.
イ. 二重会員制や中央団体への直接加入制への移行については,医師会等の組織率の現状(日本医師会61%,日本歯科医師会70%,日本薬剤師会44%)を見た場合,かえって日本獣医師会,地方獣医師会ともに組織率が低下する等組織の弱体化につながることが懸念される.また,韓国獣医師会のように全国組織に一本化した上で,地方の組織を全国組織の支部とすることは,現在,日本獣医師会を含め全国56の社団法人の組織により成り立っている獣医師組織の活力を低下させることにもなりかねない.日本獣医師会の構成獣医師組織率91%は誇れるものである.また,日本獣医師会を含む全国56の社団法人としての組織は貴重な財産として大切にすべきであり,これまで築き上げた組織の弱体化を来すような急激なシステムの変更は避けるべきである.
ウ. 一方,構成獣医師の職域が公務員,団体・民間会社,開業者と大きく3分割されている中で,公務員や団体・民間会社等に勤務する構成獣医師については,地方獣医師会における地域的活動の他,その多くが勤務先の組織をカバーする職域を通じて全国横断的な活動への参加が可能であるのに対し,開業者である構成獣医師については,その多くが独立して獣医業を営むものであること等から,全国横断的な獣医師活動の場を日本獣医師会に求めている事情にある.日本獣医師会は,これらの事情に配慮し,今後,開業者,中でも小動物診療に従事する構成獣医師が,地方獣医師会の会員獣医師として,[1]地域的な獣医師活動を行う一方,[2]日本獣医師会の行う全国的な獣医師活動への参加を含め,これら構成獣医師の意見が日本獣医師会の事業運営により反映し得るよう組織の在り方を含めた体制整備を検討する必要がある.
(4) 獣医師の需給問題等
ア. 動物医療提供体制の整備を図る上で必要となる獣医師の確保目標等の獣医師需給に関する事項は,国及び都道府県が獣医療法に基づきそれぞれ基本方針又は都道府県計画において定めるとされている.日本獣医師会が組織財政委員会に獣医師需給問題の検討を諮問した契機は,特に小動物診療分野において,獣医師数の過密状態が生じた場合,動物医療の質の低下を来すような事態が懸念されるが,このことにどう対処すべきかとの問題意識によるものである.
イ. 獣医師需給を概観した場合,これまで特定の職域について短期的な過剰や不足感があっても診療分野はもとより動物医療に対する多様な需要が拡大基調にある中で必然的に就業分野の多角化が進み,最近時点における獣医師の職域分布は,[1]公務員獣医師が31%,[2]診療業務従事獣医師46%(うち産業動物診療35%,小動物診療65%),[3]民間会社等勤務獣医師11%,[4]獣医事非従事者13%となっている.このような中で,小動物診療分野については,新規開業者の増加から地域によっては過密感が生じている状況があるものの,獣医大学卒業者の小動物診療分野への就業状況をみると,過去継続して就業人員が伸びた時期が続いたが,最近における状況をみると横ばいないし低下の兆しがないわけではなく,また,これに加え,診療の形態的に見ても個人診療施設等における勤務獣医師の数が伸びている状況にある.
ウ. 本件については,今後ともこれらの需給動向に注視する必要があるが,現時点では,需給バランスが大きく崩れている状況にはないと判断される.なお,動物医療の質の向上が課題とされる中で,現状を超える診療獣医師の需給の緩和は回避すべきであり,このためにも獣医学教育課程の大学入学定員を現状維持とする政策的配慮は,医師及び歯科医師の場合と同様,継続することが必要である.
エ. 一方,小動物診療については,過密感からくる過当競争により獣医師倫理を逸脱する行為が行われることのないよう倫理面での対応や今後引き続き増加が見込まれる勤務獣医師に対する労働福祉面での対応の検討が必要となるが,小動物医療に係る倫理対応に関連して,獣医師道委員会が昨年12月に策定した「小動物医療の指針」については地方獣医師会を通じ構成獣医師に対する周知・徹底を図るとともに,今後,「産業動物医療の指針」を検討する必要がある.