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1.ウイルス分離
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広東省のH5ウイルス:広東省の珠江デルタ地域から香港に輸入されてくるガチョウ・アヒルから,H5ウイルスが1999,2000,2001,2002年に分離されている(表3).2000年の場合,輸入ガチョウの7%,アヒルの0.7%からH5ウイルス抗体が検出され,20株以上のH5ウイルスが分離された[2,
8, 26].これらは,H5ウイルス(Gd/96株)と未知のウイルスが遺伝子交雑して生まれたものであった[2, 8, 26](図1).H5ウイルスの中でも,これらのウイルスはガチョウに対する病原性が高い特徴があり,その肝,腎,肺,脳を含む全身で増殖し,死亡率は約50%である[26].一方,アヒルには無症状であった[26].
ウズラはこのH5ウイルスに対して鶏より感受性が高く,少量のウイルスでも感染する[2, 8, 26].また,空気伝播は,鶏では起こりにくいがウズラでは起こる.鶏の50%感染量および50%致死量はそれぞれ103.8および104.0であるのに対して,ウズラのそれらは101.7および102.5である.また,ウズラは哺乳類に親和性のH6,H9ウイルスにすでに汚染されていることから[3,
5-7, 11],1997年に香港で人に病原性のあるH5ウイルスが誕生したように,南中国でふたたびこのウイルスが誕生する可能性がある. |
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上海のH5ウイルス:2001年,上海で生産・処理されてから韓国に輸入されたアヒル肉からH5ウイルスが分離された(表3)[25].このH5ウイルスはGd/96株と近縁なH5遺伝子を持つ高病原性ウイルスで,1997〜2001年に香港の鶏から分離されたものと比べて,アヒル病原性が高い特徴があり,その筋肉と脳でよく増殖する.上海にもGd/96株の仲間があることがわかった. |
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2.養鶏実態調査の必要性
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香港および韓国に持ち込まれた中国本土産の水禽類からH5ウイルスが分離されており(表3)[25],また福建省でもH5ウイルスの人感染が報告された.これらのことから,中国本土が高病原性鳥インフルエンザの汚染国である可能性があるが,その実態は不明である.
香港における高病原性鳥インフルエンザの発生は,生鳥の生産・流通・販売体制と密接に関係している.したがって,中国本土における鳥インフルエンザ事情を知るには,先ず,家禽類の生産・流通・販売の実態を明らかにする必要がある.すでに農林水産省は,日本輸出向けの養鶏場や食鳥処理場について調査をしており,ある程度その実態を把握している.しかし,大多数を占める中国国内向け家禽についての情報はない.特に,鶏・ウズラ・水禽類の生産・流通・販売の実態,鶏とウズラ・水禽類の接触の可能性,卸売市場・生鳥マーケット・食鳥処理場の存在,日本向けの養鶏場と中国国内向け養鶏場の接点などは,重要な情報と思われる.
また,本病を防止するには感染鶏を摘発する検査,流通段階における消毒,卸売市場・生鳥マーケットにおける鶏とウズラ・水禽類の分離,卸売市場・生鳥マーケットの消毒日の設定などが効果的であることから,これらの実態を把握する必要があろう.
さらに,適切な防疫対策の確立には,ウイルスの定期的疫学調査と分離ウイルスの性状解明が欠かせない.それらの整備状況を調べたい. |
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