解説・報告

食品の安全性確保に向けた取組 |||
農林水産省関係法律の整備について

小野寺 聖(農林水産省生産局畜産部衛生課課長補佐)


 我が国初のBSE感染牛の発生や無登録農薬問題等食品の安全性を脅かす様々な問題に対処するため,昨年政府内に設置された「食品安全行政に関する関係閣僚会議」において,食品安全委員会の設置及び消費者の保護を基本とした食品安全基本法の制定とともに食品の安全性に係わる関連法について所要の改正を行うこととされた.
 これを受け,農林水産省においては,食の安全・安心のための政策を推進するため,「農林水産省設置法の一部を改正する法律案」,「食品の安全性の確保のための農林水産省関係法律の整備に関する法律案」,「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律の一部を改正する法律案」,「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法案」及び「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法の一部を改正する法律案」を食品安全関連法案として国会に提出し,農畜水産物の生産段階における食品の安全性の確保等の施策を強化することとしている.
 本稿では,これら法案の概要について説明したい.
 
|.「農林水産省設置法の一部を改正する法律案」について
 消費者保護を一層重視した新たな食品安全行政を確立するため,農林水産省の所掌事務について,農林水産物の生産過程における食品としての安全性の確保に関する事務を明確化するとともに,全国7カ所の地方農政局に農林水産物の食品としての安全性の確保に関する事務及び主要食糧に関する事務を追加することとしている.また,都道府県段階に地方農政事務所及び北海道農政事務所を設置する等地方支分部局の組織等を整備し,事業者の取り組み状況,農薬の使用状況,食品の表示などの監視体制を強化することとしている.
 また,管理体制の強化を図るため,生産局等の産業振興を担う部門から農薬等資材の安全性と適正使用を図る規制措置などの食品の安全性の確保を図る部門を分離して,省の所掌に係る食品安全行政の担当部局を一元化するとともに,食品安全行政への消費者の参加を確保するための消費者との情報・意見の交換,望ましい食生活の普及・定着などの消費者行政を食品安全行政と一体的に担う「消費・安全局」を新設することとしている.消費安全局は,総務課,消費・安全政策課,表示・規格課,農産安全管理課,衛生管理課,植物防疫課,消費者情報官から編成され,それぞれ以下の事務を所掌することとし,法律案の制定と併せて農林水産組織令等の改正を行うこととしている.
(1) 総務課:消費・安全局の所掌事務の総合調整及び食品安全に係る緊急事態の収拾等の対処に関する事務
(2) 消費・安全政策課:消費者の利益の保護,物価対策,食品安全分野等に係る総合的な政策の企画・立案
(3) 表示・規格課:JAS法に基づく農林物資の規格や表示の基準の設定及び監視等
(4) 農産安全管理課:農薬及び肥料の安全性に係る規制措置を行うとともに,農薬及び肥料の生産・流通対策,肥飼料検査所,農業資材審議会の庶務等
(5) 衛生管理課:飼料及び動物用医薬品等の安全性に係る規制や飼養衛生管理基準の遵守等の事務を行うとともに,家畜及び養殖水産動植物の衛生・輸出入動物検疫,獣医師・獣医療行政,飼料・動物用医薬品等の生産・流通対策に関する事務
(6) 植物防疫課:病害虫の防除,輸出入植物検疫等
(7) 食品安全情報官:消費者との情報・意見の交換に関する事務
 
||.「食品の安全性の確保のための農林水産省関係法律の整備に関する法律」について
 人畜に被害を生じるおそれがある農畜水産物の生産を防止するため,生産資材の安全性の確保及び使用の適正化の徹底,事故発生時における対応措置の拡充,厚生労働省等との連携の強化等を図るため,肥料取締法,薬事法,農薬取締法及び家畜伝染病予防法の一部改正を行うこととしている.
 
1.肥料取締法の一部改正
(1)特定普通肥料制度の創設
  特定普通肥料(施用方法によっては,人畜に被害を生じるおそれのある農産物が生産されるものとして政令で定める普通肥料)について,施用する者が遵守すべき基準を定める等の措置を講ずる.
(2)事故発生時における対応
 肥料の品質が不良となったため,人畜に被害が生ずるおそれがある農産物が生産される場合には,その事態の発生を防止するため,当該肥料の譲渡,施用等の制限又は禁止できることとする.
(3)回収命令等
 譲渡,施用等の制限又は禁止されている肥料について,生産業者,販売業者等が当該規定に違反して,譲渡等を行った場合には,これらの者に対して,当該肥料の回収その他必要な措置をとるべきことを命ずることができることとする.
(4)厚生労働大臣及び環境大臣との連携の強化
 特定普通肥料の登録等の変更若しくは取り消し及び基準の設定に際しては,厚生労働大臣及び環境大臣に協議しなければならないこととする.
2.薬事法の一部改正
(1)許可業者以外の者による動物用医薬品の製造・輸入の禁止
 家畜の所有者の自主的な判断により製造・輸入した医薬品の使用によって,人の健康に悪影響を及ぼす畜産物が生産される事態を未然に防ぐため,動物用医薬品に関して,
[1] 製造業の許可を受けた者以外の者による製造
[2] 輸入販売業の許可を受けた者以外の者による輸入を禁止することとする.
  ただし,試験研究の目的で使用するために製造又は輸入する場合その他の農林水産省令で定める場合においては例外的に製造又は輸入の禁止措置の適用から除外することとする.
(2)未承認医薬品の使用の禁止
 安全性の確認されていない未承認医薬品の使用を防ぐため,何人も容器又は被包に製造業者名等が記載されている医薬品以外の医薬品を食用動物に使用することを禁止することとする.
 ただし,試験研究の目的で医薬品を使用する場合その他の農林水産省令で定める場合においては,例外的に使用禁止措置の適用から除外することとする.
(3)動物用医薬品の使用規制の対象の拡大
 食用動物へ使用される医薬品については食品の安全性を確保する観点から,その適正な使用を確保するため,使用者が遵守すべき使用基準を定めることができることとしているが,その対象として,現行の「専ら動物のために使用されることが目的とされている医薬品」のほか,人体用の医薬品等で食用動物のために使用される蓋然性の高いものも加えることとする.
(4)厚生労働大臣との連携の強化
 動物用医薬品の製造・輸入の承認に当たっては,その医薬品の残留性の程度から畜産物を介して人の健康を損なうおそれがある医薬品かどうかについて,厚生労働大臣の意見を聴かなければならないこととする.
 また,動物用医薬品の使用基準の策定・改廃に当たって,現行では厚生労働大臣が農林水産大臣に意見を述べることができることとしているが,これを農林水産大臣は厚生労働大臣に意見を聴かなければならないこととする.
3.農薬取締法の一部改正
(1)回収命令等
 販売が制限又は禁止されている農薬について,当該規定に違反してこれが販売された場合において,当該農薬の販売者に対し,回収その他必要な措置をとるべきことを命ずることができることとする.
(2)厚生労働大臣との連携の強化
 農薬の登録保留基準及び農薬を使用する者が遵守すべき基準の設定又は改廃に際しては,厚生労働大臣の公衆衛生の見地からの意見を聴かなければならないこととするほか,資料の提供等の協力を求めることができることとする.
4.家畜伝染病予防法の一部改正
(1)飼養衛生管理基準の策定
 家畜の飼養段階での衛生管理の徹底を図り,家畜の伝染性疾病の発生を抑制するため,政令で定める家畜について,農林水産大臣は飼養に係る衛生管理の方法に関し基準を策定し,家畜の所有者に当該基準の遵守を義務づけることとする.
(2)特定家畜伝染病防疫指針の策定
 特に総合的に発生の予防及びまん延の防止のための措置を講ずる必要があるものとして農林水産省令で定めるものについて,農林水産大臣は当該家畜伝染病に応じて必要となる措置を総合的に実施するための指針(防疫マニュアル)を作成し,公表することとする.
(3)厚生労働大臣との連携の強化
 届出伝染病の中には,人畜共通感染症も含まれることから,届出伝染病の指定・解除に当たり,農林水産大臣は厚生労働大臣の意見を聴かなければならないこととする.
(4)食料・農業・農村政策審議会への諮問
 家畜伝染病の対象家畜(政令)及び届出伝染病の指定,特定家畜伝染病防疫指針の策定,飼養衛生管理基準の策定等の最新の科学的知見及び専門的経験を踏まえて検討が必要な事項については,食料・農業・農村政策審議会の意見を聴かなければならないこととする.
(5)家畜伝染病の名称変更
 家畜伝染病の名称について,国際基準との整合性を踏まえ,不必要な誤解を与えないものとするという観点から,「家きんペスト」を「高病原性鳥インフルエンザ」に改めることとする.