解説・報告

食品の安全性確保に向けた取組 |

食品安全基本法の概要等について


大石弘司(内閣官房食品安全委員会(仮称)設立等準備室参事官補佐)

| .は じ め に
 21世紀の幕開けの年,2001年にはわが国の安全を揺るがす大事件が同時期に起こった.一つは,9月10日に日本で初めて牛海綿状脳症(以下「BSE」という.)に罹患した牛が確認されたこと.もう一つは,9月11日に米国で起こった同時多発テロである.この二つの事件はまったく性格の異なる出来事であるが,国民を不安にした出来事であった.
 本稿では一つ目の出来事の結果,現在推進されている食品の安全の確保に向けた取り組み,具体的には,食品安全基本法,食品安全委員会の設置及び食品安全関連法改正案の概要について説明したい.

|| .BSEの発生から食品安全基本法案の提出まで
 1.BSE問題に関する調査検討委員会
 BSE発生後,農林水産省と厚生労働省は次々と対策を講じ,食用となる牛の全頭検査を実施し,市場に出回る牛肉の安全性を確保する体制を整えたが,消費者の安心を得るまでにはいたらず,牛肉消費は低迷し続けた.このような背景の下で,2001年11月6日,農林水産大臣及び厚生労働大臣の私的諮問機関として「BSE問題に関する調査検討委員会」が設置され,5カ月間で延べ11回の会議を経て,平成14年4月2日,
第1部: BSE問題にかかわるこれまでの行政対応,
第2部: BSE問題にかかわる行政対応の問題点・改善すべき点
第3部: 今後の食品安全行政のあり方
  という構成で「BSE問題に関する調査検討委員会報告書」(以下報告書という)が取りまとめられた.
 特に第2部では,
[1] 危機意識の欠如と危機管理体制の欠落
[2] 生産者優先・消費者保護軽視の行政
[3] 施策決定過程の不透明な行政機構
[4] 農林水産省と厚生労働省の連携不足
[5] 専門家の意見を適切に反映しない行政
[6] 情報公開の不徹底と消費者の理解不足
[7] 法律と制度の問題点及び改革の必要性
の7点にわたり問題点・改善点が指摘された.
これを踏まえて第3部では,今後の食品行政のあり方について,次のような提言がなされている.
[1] 食品の安全性の確保に関する基本原則の確立
 食品の安全性に関わる関係法において,消費者の健康保護を最優先にした抜本的な改正見直しが必要であること,及び,食品安全の確保のためのシステムとして,リスク分析手法を導入すべきことが提言されている.
[2] 食品の安全性の確保に係る組織体制の基本的考え方
 リスク分析に関する基本指針を確立するとともに,リスク分析をベースとした組織体制を整備すること.具体的には,リスク評価の実施は,一貫性,独立性の観点から関係省庁から独立した行政機関で行うべきであること,リスク評価を実施する機関が総合的なリスクコミュニケーションを行うこと等が提言されている.
その他,行政機関の連携,政策調整のあり方,国際的な情報収集能力の向上等についても言及している.
[3] 新しい消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法律の制定ならびに新しい行政組織の構築
 [1]及び[2]に掲げた事項を実現するためには,新しい法律の制定と行政組織の構築が必要であると締めくくっている.
  報告書の詳細については,農林水産省ホームページ(http://www.maff.go.jp/)を参照されたい.
 
2.食品安全関係閣僚会議とりまとめ
 1の報告書の提言を受けて,政府は「食品安全行政に関する関係閣僚会議」を開催し,平成14年6月11日,「今後の食品安全行政のあり方について」とりまとめが行われた.
同とりまとめにおいては,
食品の安全に関するリスク評価を行う食品安全委員会(仮称)を新たに内閣府に設置する
緊急時に内閣全体として対応する危機管理の仕組みを整備する
消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法律として食品安全基本法(仮称)を制定する
  とされており,これを踏まえて,食品安全委員会(仮称)等担当大臣が任命される(現在,谷垣国務大臣)とともに,内閣官房に食品安全委員会(仮称)設立等準備室が設置され,検討を行ってきた.
 同とりまとめの詳細については,官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/)を参照されたい.

|||.食品安全基本法の概要について
 食品安全基本法案の提出は,平成15年2月7日に閣議決定され,現在,第156回国会(通常国会)において審議の結果5月16日に成立,5月23日に公布されたところであり,その概要は以下に示すとおりである.
 1.総     則
(1) 目 的
 この法律は,科学技術の発展,国際化の進展,その他の国民の食生活を取り巻く環境の変化に適確に対応することの緊要性にかんがみ,食品の安全性の確保に関し,基本理念を定め,ならびに国,地方公共団体及び食品関連事業者の責務ならびに消費者の役割を明らかにするとともに,施策の策定に係る基本的な方針を定めることにより,食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進することを目的とすること.
(2) 定 義
 この法律において「食品」とは,すべての飲食物(薬事法に規定する医薬品及び医薬部外品を除く.)をいうものとすること.
(3) 基本理念
[1] 食品の安全性の確保は,このために必要な措置が「国民の健康の保護が最も重要である」という基本的認識の下に講じられることにより,行われなければならないものとすること.
[2] 食品の安全性の確保は,このために必要な措置が農林水産物の生産から食品の販売に至る一連の国の内外における食品供給の行程(以下「食品供給行程」という.)の各段階において適切に講じられることにより,行われなければならないものとすること.
[3] 食品の安全性の確保は,このために必要な措置が食品の安全性の確保に関する国際的動向及び国民の意見に十分配慮しつつ科学的知見に基づいて講じられることによって,「食品を摂取することによる国民の健康への悪影響が未然に防止されるようにすること」を旨として,行われなければならないものとすること.
(4) 責務及び役割
[1] 国の責務
 国は,(3)に定める食品の安全性の確保についての基本理念(以下「基本理念」という.)にのっとり,食品の安全性の確保に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有するものとすること.
[2] 地方公共団体の責務
 地方公共団体は,基本理念にのっとり,食品の安全性の確保に関し,国との適切な役割分担を踏まえて,その地方公共団体の区域の自然的・経済的・社会的諸条件に応じた施策を策定し,及び実施する責務を有するものとすること.
[3] 食品関連事業者の責務
ア. 肥料,農薬,飼料,飼料添加物,動物用の医薬品その他食品の安全性に影響を及ぼすおそれがある農林漁業の生産資材,食品(その原料又は材料として使用される農林水産物を含む.)若しくは添加物又は器具若しくは容器包装の生産,輸入又は販売その他の事業活動を行う事業者(以下「食品関連事業者」という.)は,基本理念にのっとり,その事業活動を行うに当たって,自らが食品の安全性の確保について第一義的責任を有していることを認識して,食品の安全性を確保するために必要な措置を食品供給行程の各段階において適切に講ずる責務を有するものとすること.
イ. アに定めるもののほか,食品関連事業者は,基本理念にのっとり,その事業活動を行うに当たっては,その事業活動に係る食品,その他の物に関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならないものとすること.
ウ. ア及びイに定めるもののほか,食品関連事業者は,基本理念にのっとり,その事業活動に関し,国又は地方公共団体が実施する食品の安全性の確保に関する施策に協力する責務を有するものとすること.
[4] 消費者の役割
 消費者は,食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに,食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって,食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとすること.
(5) 法制上の措置等
 政府は,食品の安全性の確保に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置,その他の措置を講じなければならないものとすること.
 
 2.施策の策定に係る基本的な方針
(1) 食品健康影響評価の実施
[1] 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,[2]に掲げるとき等を除き,人の健康に悪影響を及ぼすおそれがある生物学的,化学的,若しくは物理的な要因又は状態であって,食品に含まれ,又は食品が置かれるおそれがあるものが当該食品が摂取されることにより人の健康に及ぼす影響についての評価(以下「食品健康影響評価」という.)が施策ごとに行われなければならないものとすること.
[2] 人の健康に悪影響が及ぶことを防止し,又は抑制するため緊急を要する場合で,あらかじめ食品健康影響評価を行ういとまがないときにおいては,事後において,遅滞なく,食品健康影響評価が行われなければならないものとすること.
(2) 国民の食生活の状況等を考慮し,食品健康影響評価の結果に基づいた施策の策定
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,国民の食生活の状況,その他の事情を考慮するとともに,(1)の規定により食品健康影響評価が行われたときは,その結果に基づいて,これが行われなければならないものとすること.
(3) 情報及び意見の交換の促進
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,当該施策に関する情報の提供,当該施策について意見を述べる機会の付与,その他の関係者相互間の情報及び意見の交換の促進を図るために必要な措置が講じられなければならないものとすること.
(4) 緊急の事態への対処等に関する体制の整備等
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,食品を摂取することにより人の健康に係る重大な被害が生じ,又は生じるおそれがある緊急の事態への対処及び当該事態の発生の防止に関する体制の整備,その他の必要な措置が講じられなければならないものとすること.
(5) 関係行政機関相互の密接な連携
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,関係行政機関の相互の密接な連携の下に,これが行われなければならないものとすること.
(6) 試験研究の体制の整備等
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,試験研究の体制の整備,研究開発の推進及びその成果の普及,研究者の養成,その他の必要な措置が講じられなければならないものとすること.
(7) 国の内外の情報の収集,整理及び活用等
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,食品の安全性の確保に関する国の内外の情報の収集,整理及び活用,その他の必要な措置が講じられなければならないものとすること.
(8) 表示制度の適切な運用の確保等
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,食品の表示の制度の適切な運用の確保,その他食品に関する情報を正確に伝達するために必要な措置が講じられなければならないものとすること.
(9) 食品の安全性の確保に関する教育,学習等
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,食品の安全性の確保に関する教育及び学習の振興ならびに食品の安全性の確保に関する広報活動の充実により,国民が食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるために必要な措置が講じられなければならないものとすること.
(10) 環境に及ぼす影響の配慮
 食品の安全性の確保に関する施策の策定に当たっては,当該施策が環境に及ぼす影響について配慮して,これが行われなければならないものとすること.
(11) 措置の実施に関する基本的事項の決定及び公表
[1] 政府は,(1)から(10)までの規定により講じられる措置につき,それらの実施に関する基本的事項(以下「基本的事項」という.)を定めなければならないものとすること.
[2] 内閣総理大臣は,食品安全委員会の意見を聴いて,基本的事項の案を作成し,閣議の決定を求めなければならないものとすること.
[3] 内閣総理大臣は,2の規定による閣議の決定があったときは,遅滞なく,基本的事項を公表しなければならないものとすること.