7.医薬品の使用等 |
(1)劇毒薬等の処方および管理
ア. |
劇毒薬,要指示医薬品等;
劇毒薬,ワクチン等の生物学的製剤,その他要指示医薬品等の農林水産省令で定められている医薬品については,獣医師が自ら診察しないで投与し,処方することは禁じられており,獣医師はこのことに十分留意しなければならない.
また,劇毒薬については,ほかの医薬品と区別して保管するとともに,毒薬の保管場所は,施錠しなければならない.
なお,獣医師が診療の範囲を超えて医薬品を交付等することは,医薬品の無許可販売や製造に該当し,薬事法に抵触する. |
イ. |
麻薬及び覚せい剤;
獣医師による麻薬の使用は,都道府県知事から麻薬施用者の免許を受けた獣医師が,同様に都道府県知事から麻薬管理者の免許を受けた獣医師の管理のもと,疾病の治療目的で,麻薬施用者である獣医師が診療に従事する麻薬診療施設においてのみ使用する場合に限定されている.また,覚せい剤については,医薬品である覚せい剤原料についてのみ,診療業務のための所持等が許されていることに十分留意する必要がある.
なお,麻薬および医薬品原料である覚せい剤は,いずれも毒薬と同様,ほかの医薬品と区別して保管するとともに,その保管場所は,施錠しなければならない. |
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(2)医薬品の適用外使用及び未承認医薬品の使用
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獣医師が,動物用医薬品を承認の範囲を超えて使用したり(適用外使用),動物用医薬品として承認されていない人用医薬品等を使用すること(未承認医薬品の使用)は,承認されている動物用医薬品では治療の効果が期待できない等,診療上の必要がある場合に許される.
しかし,適用外使用や未承認医薬品の使用により副作用等の事故が発生した場合の責任は,獣医師にあることに十分留意する必要がある. |
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(3)治験薬の使用
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治験のための薬物の使用及び管理は,薬事法に基づく「動物用医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」により厳しく規制されている.医薬品の開発業者等から薬剤の治験を依頼された場合,獣医師は,治験依頼者との間で締結する治験に関する契約に基づき,適切に実施しなければならない. |
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8.診療簿の記載・保存及び診断書の交付 |
獣医師は,診療を行った場合は,診療に関する事項を診療簿に記載するとともに,これを3年間保存しなければならない.
また,獣医師の責任を明らかにし,その適正を期するため,獣医師は,自らの診察によって疾病を確認することなしに診断書を交付してはならない.
なお,飼育者から診療簿の開示を求められた場合には,積極的にこれに応じるよう努めなければならない. |
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9.診 療 料 金
(1) |
診療料金の算定
診療料金は,たとえば,償却費を含む検査機械等の備品・消耗品・医薬品等の経費,診療等に要する時間と労力の経費,技術の提供等に対する対価(技術研鑚に要する経費を含む技術料)等に基づき算定し,決定する.
一方,小動物医療は,いわゆる自由診療制とされていることから,獣医師会や獣医師相互間で診療料金の協定を取り決めることや,標準料金の設定を行うことは,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる独占禁止法)で許されていないことを必要に応じて飼育者に十分に説明し,理解を得るよう努めなければならない.
なお,日本獣医師会が全国調査して公表している「小動物診療料金の実態調査結果」は,診療料金の算定上参考となる. |
(2) |
診療料金の透明性の確保
獣医師は,飼育者の不信を招かないよう,診療料金表(診療項目によっては,その目安の金額)を待合室に掲示するとともに,診療明細書を発行する等,診療料金の透明性を確保しなければならない. |
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10.飼育者等に対する指導
(1) |
動物の保健衛生指導
獣医師は,飼育者に対して,動物の健康維持に必要な事項について保健衛生指導を行わなければならない.
また,獣医師は,診療対象動物が人と動物の共通感染症に罹患している疑いがあると認めたときは,飼育者に対して,感染防止上必要かつ適正な方法等について指導しなければならない. |
(2) |
動物愛護に関する指導
獣医師は,動物の愛護及び管理に関する法律の基本原則すなわち「動物が命あるものであることにかんがみ,何人も,動物をみだりに殺し,傷つけ,又は苦しめることのないようにするのみでなく,人と動物の共生に配慮しつつ,その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない」ことを十分に理解し,飼育者に対し,動物の愛護と適正な飼養・管理の重要性等に関する指導を行い,その知識の普及・啓発に努めなければならない. |
(3) |
学校飼育動物・身体障害者補助犬等に関する対応
獣医師は,動物を活用した情操教育や身体障害者の補助,あるいは動物介在療法の公益性,重要性を十分認識し,飼育者等から飼育相談や診療等の依頼を受けたときは,専門的な知識をもって積極的にこれに対応しなければならない. |
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11.小動物医療における動物愛護と福祉
(1) |
断尾・断耳等
飼育者の都合等で行われる断尾,断耳等の美容整形あるいは声帯除去術,爪除去術は,動物愛護・福祉の観点から好ましいことではない.
したがって,獣医師が飼育者から断尾・断耳等の実施を求められた場合には,動物愛護・福祉上の問題を含め,その意義について飼育者と十分に協議し,安易に行わないことが望ましい.
しかし,最終的にそれを実施するか否かは,飼育者と動物の置かれた立場を十分に勘案して判断しなければならない. |
(2) |
遺伝性疾患
飼育者から遺伝性疾患に罹患している動物の診療を求められた場合,獣医師は,飼育者に対してその疾病に関する十分な情報を提供し,繁殖に供さないよう飼育者を指導しなければならない.
また,遺伝的欠陥を隠蔽するための手術を依頼された場合には,これに応じてはならない.ただし,譲渡や繁殖に供しないという前提のもとに,生活の質を向上させる目的で行う手術等に関しては,飼育者と協議のうえ実施する. |
(3) |
安 楽 死
診療対象動物が治癒の見込みがなく,しかも苦痛を伴っている,あるいは重度の運動障害,機能障害に陥っている等,安楽死させることが動物福祉上適当であると見なされる場合には,獣医師は飼育者と十分に協議したうえで,飼育者自身の意志,決定のもとに当該動物を安楽死させることは,許容される.
一方,その他の理由で安楽死を余儀なくされる場合もあり得るが,いずれにしても,安楽死は,最終的な選択肢として,飼育者と獣医師が十分に協議して決定すべき重要な問題である. |
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12.診療トラブルの対応 |
小動物医療においては,飼育者が,疾病や治療法等に関する正確な情報の提供を求め,また,治癒することを強く期待している中で,動物を心配するあまり精神的に不安定な状態に置かれている場合もある.このため,獣医師やスタッフの不注意な言動がもとで獣医師,診療施設に対する飼育者の信頼が大きく損なわれることがあるので,この点に十分配慮しなければならない.
インフォームド・コンセントに関しても,それが形式的なものであれば,獣医師等に対する飼育者の信頼を得ることはできず,そのために適正な小動物医療の提供に支障を来たし,場合によってはトラブルの原因となることに留意すべきである.
万一,診療過誤を起こした場合は,獣医師は,誠意を持ってその解決に努力しなければならず,その解決にあたっては,事実を隠蔽することなく,早期に十分な情報提供,説明を行って,飼い主の理解を得るよう努力しなければならない. |
13.診療施設の管理・運営
(1) |
施設・設備の適正な維持
獣医師は,診療施設の管理を適正に行わなければならず,その管理に当たっては,当該診療施設において適正な小動物医療を実施することができるよう施設,設備を整備するとともに,適正に維持するよう努めなければならない. |
(2) |
感染性廃棄物等の処理
診療に伴い発生する使用済みの注射針,ガーゼ,バイアル瓶や血液等の廃棄物については,感染性廃棄物と非感染性廃棄物に分別し(分別できない場合は,感染性廃棄物として扱う),滅菌処理等を行って再利用する場合を除き,それぞれ専門の処理業者等に回収させ,処理しなければならない. |
(3) |
診療施設のスタッフ間の協調・連携
獣医師及びそのスタッフは,相互に十分な信頼関係を構築するよう努めるとともに,診療および診療施設の運営等に関する情報交換,事務引継ぎ等が円滑に行われるようにしなければならない.
また,診療施設を開設する獣医師は,診療施設の健全な運営に努めるとともに,勤務獣医師を含む従業員の就業条件,福利厚生等についても十分に配慮し,労働基準法その他関係法令を遵守しなければならない. |
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14.獣医師の連携と協力 |
獣医師は,動物及び飼育者の利益を損なうことがないようお互いに連携し,協力体制を構築する必要がある.
(1) |
他の獣医師への情報の提供
飼育者が診療動物を他の病院に転院させる場合あるいは飼育者及び転院先の獣医師から診療情報の提供を求められた場合は,適正に対応しなければならない.また,転院先の獣医師は,得られた情報を獣医学的な観点から客観的に評価して対応しなければならない.
診療情報については,研修会等を通じて他の診療施設の獣医師と交換することにより,獣医師相互の知識・技術を向上させるよう積極的に努めるとともに,飼育者の個人情報の保護にも十分に配慮しなければならない. |
(2) |
他の獣医師又は診療施設の紹介
対応困難な症例に遭遇し,飼育者の希望する医療が提供できない場合には,獣医師は,飼育者の希望等を聞いたうえで,対応可能な他の獣医師又は診療施設を紹介しなければならない. |
(3) |
法廷での証言
獣医師が他の獣医師の診療内容等について法廷で意見陳述を求められた場合には,その時点における獣医学術の水準を考慮し,自らの信念に基づいて公正な判断,意見を述べなければならない. |
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15.診療施設等の広告 |
獣医師及び診療施設に関する広告は,飼育者にとって診療及び診療施設の適正な選択又は判断の拠り所を与えるものであるが,小動物医療の持つ社会性・公共性を考慮して,法令上の規制を遵守するだけでなく,それにふさわしい良識と節度を保った内容としなければならない. |
16.小動物医療における個人情報の保護 |
獣医師が業務上知り得た飼育者に関する個人情報(飼育動物に関する情報も含まれる)については,獣医師法その他の法律で特に守秘義務が課せられているわけではないが,一般的に,個人情報の保護が求められている中で,獣医師は,飼育者に関する個人情報を保護しなければならない. |
17.小動物医療と関連業務 |
獣医師がペットホテル,ペット美容室,しつけ教室,ペットフード販売等の業務をあわせて行う場合,又はこれらの業務に関与する場合には,それらの施設(業務)と小動物診療施設(小動物医療活動)を明確に区別するよう心がけなければならない. |
お わ り に |
獣医師は,常に最新の専門知識,技術を具有するよう自己研鑽に努めることは当然であるが,獣医師の職業倫理として定めたこの指針に照らし,また良識ある社会人として,常に己を厳しく律することができる者こそ真のプロフェッショナルであるということを肝に銘じ,その与えられた社会使命を存分に果たすよう期待するものである. |