8.豚  の  舌
〔山本直規(浜松市)〕
症例 豚(雑種),性別不明,推定6カ月齢.
臨床的事項 平成12年12月6日,健康畜として搬入され外見上異常を認めなかった.
肉眼所見 舌尖から舌体・舌背・咽頭にかけて乳白色,乳頭状の絨毛様病巣が多発し,特に舌背では,同病変が表面全体を覆うように存在していた.割面では,粘膜の肥厚を認めたが,筋層への浸潤は認められなかった.その他,主要臓器には異常がなかった.
組織所見 角化を伴う粘膜上皮細胞が,血管に富む結合組織の芯を入れ乳頭状,樹枝状に増生していた.粘膜上皮細胞は扁平から紡錘形のものが主体で,核は類円形,淡明で1〜2個の核小体を有していた.他に,有棘細胞様の多角形の細胞もみられた.芯を成す結合組織を取り囲む細胞は,基底細胞様でクロマチンに富む核を有し楕円形で小型のものがほとんどであり,芯に対して垂直に配列していた.また,これらの小型の細胞の粘膜上皮側には,PAS陽性のケラトヒアリンを含む細胞も認められた.病変部粘膜上皮細胞や結合組織を構成する細胞は,発生母組織と類似構造を示し,核の異型性や分裂像はほとんど認められなかった.免疫染色では,ケラチン陽性,抗パピローマウイルスポリクローナル抗体で陰性であった.
診断名 豚の舌乳頭腫.

9.豚の胃粘膜にみられた腫瘤
〔永田志保(佐賀県)〕
症例: 豚(雑種),去勢,6カ月齢.
臨床的事項: 特になし.
肉眼所見: 胃噴門部付近の粘膜面に隆起する直径約3cmの球形腫瘤を認めた.腫瘤表面は脳回状で,黄色調を呈し,割面においても,腫瘤は分葉状に区分されていた.非腫瘤部の粘膜面は赤色を呈し,やや肥厚していた.
組織所見: 表層粘液細胞は乳頭状に増殖し,粘膜固有層内への腺管の延長,迂曲や拡張が認められた.小胞巣状,索状に増殖する腫瘍組織が粘膜固有層内にみられ,間質は毛細血管に富み,非腫瘍部との境界は不明瞭であった.腫瘍細胞は多角形を呈し,核は円形で,核小体は明瞭であり,核分裂像はほとんどみられなかった.これらの細胞は,グリメリウス染色で黒染する陽性顆粒をもち,免疫染色では,クロモグラニンA陽性,シナプトフィジン弱陽性であった.なお,腫瘍細胞は隆起した腫瘤部にとどまっており,周囲組織への浸潤は認められなかった.非腫瘤部粘膜には軽度のびらんと間質にはリンパ球,形質細胞やマクロファージの浸潤がみられた.
診断名: 豚の胃のカルチノイド腫瘍.
討議 本症例について免疫染色や電子顕微鏡学的検索を行ったところ,腫瘍細胞が含有する内分泌顆粒数が少なかった.顆粒の数と大きさはホルモン産生能と比例するといわれていることから,腫瘍細胞のホルモン産生能があまり高くないものと推察された.また,腫瘍は粘膜固有層内にとどまっており,脈管侵襲もみられないことから悪性度は低いと考えられた.

10.牛の肝臓腫瘤
〔前島真紀子(長崎県)〕
症例: 牛(ホルスタイン種),雌,9歳11カ月.
臨床的事項: 体温は39.6℃で,削痩,腹式呼吸を認め,左飛節の腫脹による跛行と乳房の硬結がみられた.
肉眼所見: 肝臓に最大15〜20cmの白色腫瘤および径5〜50mmの播種性白色腫瘤がみられた.腫瘤の割面は黄白色,充実性で中程度のうっ血を伴っていた.また肺表面,肋間筋,横隔膜,腎臓,咬筋および心臓に同様の白色腫瘤が認められた.その他,心臓冠状溝付近に脂肪水腫,左肺は胸壁と癒着し水腫性で結合組織の増生が認められた.第四胃炎が顕著であり,腸管には腹膜炎および水腫を認め,腹腔内には糸状虫が寄生していた.また乳房リンパ節は腫大していたが,その他のリンパ節に著変はみられなかった.
組織所見: 肝臓腫瘍は,線維芽細胞様の紡錘形細胞,組織球様細胞および泡沫細胞などの腫瘍細胞より成っていた.紡錘形細胞は細網線維と膠原線維の増生を伴い渦巻き状増殖を示した.組織球様細胞および泡沫細胞はび漫性に増殖し,核分裂像が散見された.他の腫瘤でも同様の組織像を認めた.また肝臓では,肝細胞間に著しいアミロイドの沈着を認め,グリソン鞘の増生,中程度のうっ血がみられた.組織球様細胞および泡沫細胞の細胞質はリゾチーム陽性を示し,すべての腫瘍構成細胞はSh100蛋白,デスミン,ケラチン陰性であった.電子顕微鏡学的に観察したところ,組織球様細胞は不整形の切れ込みを有する核をもっていた(図2).
診断名: アミロイドーシスを伴った悪性線維性組織球腫.
討議 原発巣に関しては肝臓とする意見と不明とする意見があった.
図2 組織球様細胞と紡錘形細胞が渦巻き状に増殖している.図左側は肝細胞間に沈着したアミロイド(HE染色 ×50倍).(長崎県川棚食検出題)

11.牛の肝臓等の腫瘤
〔宮野亜希子(郡山市)〕
症例: 牛(黒毛和種),雌,12歳.
臨床的事項: 20日前より肝炎の治療を受けていたが,削痩が著しく病畜として搬入された.
肉眼所見: 肝臓方形葉臓側面に,被膜に被われたソフトボール大の腫瘤を1個認め,割面は黄白色で壊死巣,出血巣を散見した(標本[1]).右葉の割面にも大豆大〜そら豆大の乳白色結節を数個認めた.また,腹腔内の横隔膜腰椎部から腎門部にかけて人頭大の黄白色結節状の腫瘤を認め,割面は黄白色で壊死巣・出血巣を散見した(標本[2]).これら以外にも,肺には全葉にわたって米粒大〜そら豆大の乳白色腫瘤が散在し,割面には黄白色で壊死巣がみられた.また後葉漿膜面に線維素様物の付着を認めた.肝,気管気管支,縦隔,膵十二指腸,内側腸骨の各リンパ節は腫大していた.
組織所見: 標本[1]では,類円形の核を持つ立方〜円柱状の腫瘍細胞が管腔構造または集塊状を呈しながら増殖し,間質には結合組織の増生を認めた.腫瘍細胞はケラチン陽性を示した.標本[2]では,好酸性の豊富な細胞質を有する腫瘍細胞がび漫性に増殖していた.核の大小不同が著しく,巨核,陥凹する核,多核のものがあり,多数の分裂像を認めた.また,貪食像も散見された.腫瘍細胞はビメンチンおよびリゾチーム陽性を示した.肺漿膜面の病巣,各リンパ節は標本[2]と同様の組織像であったが,肺の腫瘤は標本[1]に類似し,円柱状の細胞がより明瞭な管腔構造を形成し,増殖していた.
診断名: 標本[1]腺癌 標本[2]悪性組織球腫.
討議 両者を肝細胞癌とする意見があった.

12.牛 の 肝 臓
〔高橋俊嗣(秋田県)〕
症例: 牛(黒毛和種),去勢,3歳.
臨床的事項: 特に異常を認めなかった.
肉眼所見: 肝臓は軽度に腫脹し,包膜上に隆起する5〜10mm程度の白色結節を全域に認めた.結節は後大静脈近位の肝実質部において特に密発してみられたが,後大静脈に病変は認められなかった.肝臓の割面では灰白色で渦状に構築された血管様物が樹枝状に走行してみられ,大半は管腔内に糸くず状の線維と血液を入れていた.
組織所見: グリソン氏鞘を中心に,静脈系と思われる血管壁の著しい肥厚を伴う増生が認められた.増生した血管の中心にはわずかな赤血球を入れる狭小化した管腔があり,その周囲に血管内皮細胞,平滑筋,膠原線維が不規則に増生し,神経線維束や動脈および胆管も,それらに埋まるように観察された.また,血栓形成も散見された.なお,病変部に小円形細胞の浸潤は,ほとんど認められなかった.
診断名: 増殖性小葉間静脈炎.
討議 牛の肝臓の増殖性好酸球性小葉間静脈炎の時間の経過した病変と思われる.病変が肝臓の全体にみられたのは珍しい.

13.豚 の 肝 臓
〔今西鉄也(名古屋市)〕
症例: 豚(雑種),雌,推定6カ月齢.
臨床的事項: やや削痩.栄養状態やや不良.
肉眼所見: 肝臓は著しく腫大し,暗赤褐色を呈していた.割面では変形した肝小葉が島状に存在し,肝小葉の周辺帯は黄色で中心帯では赤色を呈し,出血を伴ったものも認められた.また,全身性に高度の黄疸を認めた.
組織所見: 小葉間結合組織において腫瘍細胞の著しい浸潤増殖が認められた.腫瘍細胞は大小不同で細胞質に乏しく,円形ないし類円形の核を持つリンパ球様の細胞で,核分裂像も散見された.肝小葉は圧迫され,肝細胞は変性壊死に陥り,出血も認められた.また肝細胞内に顆粒状〜小塊状の黄褐色色素が沈着していた.
生化学的所見: 血中ビリルビン値3.6mg/dl
診断名: 肝性黄疸を伴った肝臓のリンパ腫.
討議 非常にまれな肉眼所見を呈した肝臓であるとの指摘を受けた.病理組織学的には,リンパ腫であることに異論はなく,高度の黄疸は肝臓が侵襲された結果と考えられた.

(次号へ続く)

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