資 料

全国食肉衛生検査所協議会病理部会研修会(第44回)*†
における事例記録( I )

Proceedings of the Slid-Seminar held by the National Meat Inspection
Office Conference Study Group (44th)*†, Part I .


(2002年2月7日受付・2002年8月29日受理)

 全国食肉衛生検査所協議会病理部会が主催する第44回病理研修会が,2001年5月17〜18日に麻布大学で開催された.今回は24機関から25題の事例が提出された.以下に,今回の提出事例の概要を述べる.
事 例 報 告

1.鶏の脚と体腔内の腫瘤
〔坂野陽市(群馬県)〕
症例 鶏(採卵用),雌,日齢不明.
臨床的事項 著しい削痩.
肉眼所見 左大腿部から下腿部にかけて9×6×4cm大の暗赤色と黄白色の部分からなる腫瘤を認めた.腫瘤は筋膜様の被膜を有し,皮膚や周囲の筋肉,骨との分離は容易であった.割面には暗赤色を呈し血様の液体を入れた多数の大小の嚢胞が多数認められ,骨化を伴っていた.腸管,腸間膜および肝臓の漿膜面,心嚢,卵巣の一部に充実性でやや透明感のある白色の腫瘤が播種状にみられた.
組織所見 脚の腫瘤は膠原線維に富み,長円形の大型の核を持つ細胞と細長い核の細胞より成り,広範囲に骨形成がみられた.腫瘤と周囲組織との境界部付近には筋線維の萎縮や変性がみられた.体腔内の腫瘤は細胞の流れに一定の方向性があり,細胞質の乏しい線維細胞様の細胞が疎に分布する水腫様の部分と細胞密度のやや高い部分とがみられた.細胞密度の高い部分では,細長い核で帯状の好酸性細胞質を持つ細胞と円形から細長い核で細胞の輪郭が不明瞭な細胞がみられた.他に好酸性の大きな細胞が島状にみられる部分や血管周囲に密に集合している部分,神経線維束様の構造物を認めた.腫瘍細胞の核は大小不同,細胞形態もさまざまで,肝臓の腫瘤では肝実質内へ浸潤性に増殖する部分があった.鍍銀染色では膠原線維と細かい好銀線維が樹枝状または細毛状に発達していた.
診断名 大腿部の化骨性筋炎と体腔内の多発性神経線維肉腫.
討議 大腿部の病変は腫瘍なのか,また,体腔内腫瘍と同じものか,体腔内の播種状腫瘍は転移性か多発性か等,討議された.

2.牛の心臓の腫瘍
〔大舘ひとみ(岩手県)〕
症例: 牛(ホルスタイン種),去勢,2歳.
臨床的事項: 一般畜として搬入.著変を認めなかった.
肉眼所見: 左心室筋肉内に心外膜面に一部隆起する,4×3×3cm大の乳白色結節を認めた.割面は膨隆,硬結感があり,出血,壊死は認められなかった.また心筋との境界は明瞭であった.その他,肺胸膜に軽度の線維素の付着を認めた.
組織所見: 腫瘤と周囲心筋との境界に被膜はなく,腫瘤を構成する細胞は楕円形〜紡錘形で,弱好酸性の細胞質を有し,核はクロマチンに乏しく,大小不同で1〜数個の核小体を有していた.核の異型性,分裂像は認められず.これらの細胞は同心円状に配列し,中心部に赤血球を入れているものを多数認めた.間質には膠原線維が増生していた.アザン染色で増殖細胞の胞体は赤染し,その周囲には膠原線維が増生していた.PAS染色では同心円状配列の中心部付近が陽性となり,第8因子では最内側の細胞が,α-SMAでは同心円状に配列する細胞が陽性であった.
診断名: 心臓の過誤腫.
討議 当初,血管平滑筋腫と診断したが,非腫瘍性増殖病変とする意見が多く,討議後,過誤腫類似病変との結論に達した.

3.牛の心臓の結節性病変
 
症例: 牛(ホルスタイン種),雌,7歳.
臨床的事項: 9カ月前に出産するも,子牛は1カ月齢で突然死した.と畜場搬入時,妊娠5カ月であった.
肉眼所見: 心臓,舌,食道,横隔膜のほか,咬筋を含む全身の骨格筋に灰白色〜黄白色の結節を多数認めた.結節は,粟粒大〜米粒大,球形〜長球形で周囲との境界は色調の違いにより明瞭であった.結節割面は,鮮黄緑色〜灰白色を呈し,指で圧することにより,芯様物質が突出するものもあった.その他の臓器,胎子には,これら結節性病変は認められなかった. 
組織所見: 筋組織内に形成された結節は壊死物質を中心とするものが多く,その周りを巨細胞やマクロファージが取り囲み(図1),さらに多数のリンパ球,好酸球,線維芽細胞などが浸潤していた.しかし,いずれの結節においても,膠原線維の増生はみられたが明瞭な線維性被膜はみられなかった.他に,これらの病変とは無関係に住肉胞子虫のシストが散在していた.
寄生虫学的検査: 病変部筋肉のトリプシン消化法により住肉胞子虫のブラディゾイトを多数検出した.
診断名: 住肉胞子虫症(好酸球性心筋炎).
討議 住肉胞子虫のシストに変性はみられず,心筋炎との間には明瞭な移行像はみられなかったが,何らかの理由で死滅したシストが心筋炎を起こしたものと推察された.
図1 壊死物質周囲を異物巨細胞やマクロファージが取り囲んでいる.図左方は生存する住肉胞子虫シスト(HE染色 ×100倍).(神奈川県食検出題)

4.豚の肺の腫瘤
〔鶴田順一(長崎県)〕
症例: 豚(雑種),性別不明,6カ月齢.
臨床的事項: 著変なし.
肉眼所見: 右肺後葉背側表面にゴルフボール大の淡灰白色の腫瘤を認めた.表面は平滑で肺との境界は明瞭であった.割面も淡灰白色であったが,一部暗赤色部も認められ,充実性で弾力感があり,肺小葉が残存していた.その他の臓器および腫瘤以外の肺には著変はなかった.
組織所見: 変部には壊死巣が散在し,壊死巣周囲には膠原線維が発達し,リンパ球,マクロファージを主体として,好中球,好酸球も散見された.壊死巣には糸くず状の真菌様構造物を認めたが,PAS陰性,アザン染色で赤染し,線維素と考えられた.レフレルのメチレン青単染色では細菌は確認できなかった.腫瘤に隣接した気管気管支リンパ節の線維化が著しく慢性炎の像を呈していた.組織所見がアクチノバシラス症と類似していたため,抗兎 Actinobacillus pleuropneumoniae 血清(1,2,5型)で免疫染色を実施したところ,壊死巣や膠原線維増生部で1型抗原が検出された.
診断名: 陳旧化したActinobacillus pleuropneumoniae 性肺炎.
討議 胸膜肺炎が修復する過程では,陳旧化した結節病変でも,内部にいつまでも本病変のような壊死巣が残存する例もあるとの助言があった.

5.牛  の  肺
〔板垣有治(島根県)〕
症例: 牛(ホルスタイン種),雌,6歳.
臨床的事項: 平成12年9月3日から食欲不振.10月13日に肝炎の疑いで病畜搬入.体格大,栄養状態並,立位.
肉眼所見: 肺に不整形で硬い白色結節が多発し,全葉にわたり著しく腫大していた.大部分の漿膜面は白色化し,おおむね平滑だった.割面では硬く,充実性の白色結節によりほとんどの固有組織が置換されていた.また,壁側胸膜,腹膜や横隔膜,肝臓,脾臓,第一〜四胃および腸間膜の漿膜面においても数mmから10mm大の硬い白色結節が多発していた.気管気管支リンパ節および内腸骨リンパ節は硬化,腫大していた.
組織所見: 腫瘍組織は腺様構造をつくる腫瘍細胞と豊富な結合組織で構成されており,腺腔は不整形で大きさもさまざまで,腫瘍細胞は単層から多層に配列していた.腺腔内には壊死細胞塊を認めた.腫瘍細胞の核は類円形から楕円形で淡染し,やや大小不同で多形性を示し,明瞭な核小体を1〜4個程有していた.また,分裂像が散見された.細胞質は弱好塩基性で,細胞境界は不明瞭であった.PAS染色およびコロイド鉄染色では腺腔内および細胞質の一部が陽性で,それらはヒアルロニダーゼに抵抗性を示した.免疫染色では,腫瘍細胞はビメンチン陰性,ケラチン弱陽性であった.その他の病変部でも同様の腫瘍組織を認めた.
診断名: 肺に転移した腺癌.
討議 豊富な膠原線維から,子宮癌の転移が疑われるが,子宮は検索していないため原発巣は不明.

6.牛の甲状腺腫瘤(2症例)
〔原 みゆき(横浜市)〕
症例: 症例[1],[2](以下[1],[2])ともに牛(肉用種),去勢,3歳.
経歴: [1],[2]ともに約12カ月齢でニュージーランドから日本へ導入され,[1]は静岡県内,[2]は宮崎県内の牧場で約20カ月肥育された後,出荷された.[1]については,飼料中のヨウ素量の不足が確認された.
臨床的事項: [1],[2]ともに,異常を認めず.
肉眼所見: [1]では甲状腺左葉・右葉とも,対称性に腫大(長径×短径:7.0×3.3cm).割面は充実性でやや膨隆,淡褐色を呈し,甲状腺固有の構造は消失していた.[2]では甲状腺左葉・右葉とも,著明な腫大は認められず,大きさ・割面ともに正常甲状腺とほぼ同様であった.
組織所見: [1]の甲状腺では不整形で大小不同の濾胞の増生を認めた.濾胞の形態はさまざまで,コロイドを満たす像や充実性に増殖する像,濾胞上皮が腔内に乳頭状に増殖する像などもみられた.濾胞上皮の多くは単層で円柱状を呈し,核の異型性はみられなかった.[2]の甲状腺では大小不同の濾胞の増生を認めた.濾胞内にコロイドを含む像が多くみられたが,一部充実性に増殖する像も認めた.濾胞上皮の多くは単層で円柱状を呈し,核の異型性はみられなかった.
診断名: 症例[1],[2]ともにび漫性甲状腺腫.
討議 [2]において,診断名や原因についてさまざまな討議があったが,両側性に病変があり栄養性と考えて妥当なこと,組織所見等から軽度の甲状腺腫と考えた.また原因についてはさらなる検索が望まれた.

7.豚の胸腔および骨盤腔の腫瘤
〔北田範次郎(大阪市)〕
症例: 豚(品種不明),雌,年齢不明(繁殖用).
臨床的事項: 異常を認めず.
肉眼所見: 骨盤腔に乳白色〜黄白色のテニスボール大の腫瘍塊があり,周囲の筋肉へも浸潤していた.膀胱漿膜面に腫瘍塊があり,その内部に尿道が埋まっており外尿道口部の膣は確認できず.卵巣に大豆大結節.左右心房は心内膜層を除き腫瘍に置換され,左右心室は心外膜面に層状に腫瘍が増殖していた.臓側・壁側胸膜と横隔膜に大豆大〜10円玉大の結節が多発し,食道部を腫瘍塊が筒状に覆っていた.腎臓は腫大,褪色し,水腫と出血を認めた.肝臓,脾臓には著変を認めず.リンパ節の腫大は認められなかった.
組織所見: 腫瘍細胞は明瞭な核小体を持った類円形核とわずかな胞体を持ち,胞巣状またはシート状に増殖していた.心耳,尿道では腫瘍細胞が完全に固有組織と置きかわって増殖していた.骨盤腔壁や横隔膜では腫瘍細胞は筋線維間に浸潤性に増殖していた.リンパ節では被膜部に腫瘍細胞の増殖を認めた.
診断名: リンパ腫.
討議 各種免疫染色では腫瘍細胞の由来を特定できなかったが,HE染色所見によりリンパ腫と判断した.原発と考えられるリンパ節が見つからないのは腫瘍組織に埋没している可能性があった.