27.鶏の疣贅性心内膜炎 |
〔高橋一仁(岩手県水沢)〕 |
症例: |
鶏(チャンキー),雌,55日齢. |
臨床的事項: |
著しく削度し,チアノーゼを認めた. |
肉眼所見: |
心筋内に粟粒大の灰白色巣が散在し,左房室弁に米粒大の疣贅物を認めた.肝臓の奬膜面はほぼ平滑で,一部で陥凹を認め,表面,割面に灰黄色の巣状壊死が多発していた.脾臓および腎臓では,針頭大から粟粒大の灰白色壊死巣が,下腿骨近位端付近の骨髄内にも黄白色の壊死巣が散見された. |
組織所見: |
左房室弁は肥厚し,その表面に多数の細菌塊を含む血栓が付着していた(図5A).血栓は細菌の他,偽好酸球,リンパ球,マクロファージ等の炎症細胞,線維芽細胞,線維素,その他細胞の退廃物から構成されていた.また,心筋の一部にマクロファージ,偽好酸球,リンパ球の集簇を伴う梗塞により巣状壊死を認めた.肝臓には中心に多数の偽好酸球の反応を伴う細菌塊を含む広範な壊死巣を認めた.病巣周囲の拡張した類洞内に偽好酸球やリンパ球等の炎症細胞が浸潤していた(図5B).脾臓には高度の炎症反応を伴う細菌塊を含む血栓栓塞が認められた.腎臓においても肝臓と同様の病変が観察された.骨髄では顕著な骨髄炎が認められた.なお,心臓,肝臓,脾臓,腎臓で認められた細菌は,いずれもグラム陽性球菌であった. |
診断名: |
疣贅性心内膜炎および肝臓の広範な壊死. |
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図5A |
疣状心内膜炎を認めた鶏の敗血症.左房室弁は肥厚し,その周囲にグラム陽性球菌からなる細菌塊を多数含む血栓が形成されていた.(グラム染色 ×40) |
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図5B |
肝臓の壊死部位を示す.壊死巣中心部に多数の細菌塊を認め,その周囲では偽好酸球が壊死しエオジン好性に染まっていた.(HE染色 ×40)(岩手県水沢食検出題) |
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28.鶏の肝臓と肺の腫瘤 |
〔大迫英夫(熊本県)〕 |
症例: |
ブロイラー,性別不明. |
臨床的事項: |
著変を認めず. |
肉眼所見: |
肝臓に米粒大〜小指頭大の表面隆起する乳白色で,光沢のある腫瘤が多発していた.肝実質内にも認め,一部は無色透明液を容れる嚢胞を形成していた.正常部位との境界は明瞭であった.肺にもやや弾力性のある肝臓と同様の小豆大の腫瘤を1つ認めた. |
組織所見: |
腫瘍組織は類円形で,細胞質が弱好酸性の大型細胞より成り,細胞の密度は疎で,細胞間に膠原線維が著明に発達していた.大型細胞は細網線維に囲まれ,偏在性の膨張した核をもち細胞質は泡沫状を呈していた(図6).一部に,spider
cell様の細胞が観察された.病変部境界には多くの偽好酸球,偽胆管の増生,リンパ球の集簇を認めた.肺にも同様の病変を認めた.大型細胞は一部PAS陽性,S-100タンパク,ケラチン,ビメンチン,デスミンによる免疫染色はすべて陰性であった. |
診断名: |
多発性神経節細胞腫. |
討議: |
当該畜の神経節病変の有無の確認が必要. |
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図6 |
腫瘍細胞は大型で,細胞質は好酸性泡沫状に染まる.核は大型で膨張して認める.一部腫瘍細胞の外側間にスパイク状の放射を認める.(HE染色 ×200)(熊本県食検出題) |
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29.黄疸を呈したブロイラーの肝臓 |
〔佐藤 博(新潟県)〕 |
症例: |
鶏(ブロイラー),53日齢. |
臨床事項: |
不明. |
肉眼所見: |
脱羽後に発育不良と皮膚の黄変を認めた.削痩し,皮下脂肪は少なく,筋肉が透けて見えた部分もあった.肝臓は黒褐色を呈していたが,胆嚢に著変を認めなかった.脾臓は貧血・萎縮し,腎臓は褪色していた.胸・腹腔内脂肪は黄変していた. |
組織所見: |
肝臓実質には肝細胞の変性・壊死・消失に伴い,巣状の淡明部が散在していた.出血を伴う病巣も認められたが,病巣により程度の差があった.クッパー細胞と巣状病変内には,緑黄色を呈するヘモジデリン(ベルリンブルー法陽性)が沈着していた.大型の胆管に軽度の炎症を認め,偽胆管の軽度の増生もみられた.ヘモジデリンは脾臓にも沈着していたが,腎臓,心臓,肺にはなかった.
理化学検査所見:「レルヘの法」により脂肪の黄変は胆汁色素沈着によるものと推定した.残血を用いて測定した血清総ビリルビン値は5.8mg/dlであった. |
診断名: |
鶏の肝臓の多発性巣状壊死様病変とヘモジデリン沈着. |
討議: |
巣状病変は閉塞性黄疸でみられる「網状壊死」に類似していたが胆汁うっ滞の所見を認めないため,これを否定した.いわゆる「巣状壊死」とする意見が多かったが,病巣内にはおもに核膜のみが残存し,通常の凝固壊死と異なることから「巣状壊死様病変」と表現した. |
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30.鶏の腹腔内腫瘤 |
〔横山光恵(茨城県県西)〕 |
症例: |
鶏(成鶏),雌. |
発生状況: |
21,403羽の内,腫瘍で廃棄した24羽中の1羽. |
肉眼所見: |
卵巣に直径7mmのやや硬い乳白色腫瘤を2個,卵管の卵白分泌部の粘膜側に15×8×10mm,漿膜側に8×8×5mmの乳白色腫瘤をおのおの1個認めた.肝臓には米粒大〜小豆大の嚢胞が密発していた.腫瘤は膵臓,腸管の漿膜,肺,右側腎臓の表面にも散在していた. |
組織所見: |
腫瘍組織は主として腺組織から成り,明瞭な腺腔の形成部や充実性増殖部を認めた.一部では腺腔内にPAS反応陽性の好酸性物質を容れていた.腫瘍細胞は立方状〜円柱状,核は類円形で明瞭な核小体を1個有していた.卵巣では,腫瘍組織は皮質〜髄質にかけて巣状に散在していた.卵管では粘膜固有層〜漿膜にかけて腫瘍組織を認めたが,残存する分泌腺や粘膜上皮との移行はなかった.肝臓の病変の多くは巣状で,大型の腺腔をもつものが主であった.一部,肝組織との問に線維性被膜を認めた.小葉間胆管の増生もみられたが,腫瘍細胞との関連性はなかった.ニチレイ社製抗ケラチン/サイトケラチン抗体および,ノルディック社製抗卵アルブミン抗体を用いて免疫染色を行ったところ,腫瘍細胞の一部がケラチン陽性となったが,卵アルブミンでは腫瘍細胞・腺腔内容物ともに陰性であった. |
診断名: |
卵巣腺癌(卵管原発の癌の異議あり). |
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31.鶏の腹腔内の腫瘤 |
〔野崎大輔(宮崎県都城)〕 |
症例: |
鶏(ブロイラー),性別不明,日齢不明. |
臨床的事項: |
著変を認めず. |
肉眼所見: |
腫瘤は腹腔内で腸間膜と緩やかに結合し,ぶら下がるように認められた.腫瘤は5×3×3cmで,表面滑らかな球形を呈し,桃黄灰色で,一部赤色部もみられた.割面も同様で嚢胞形成部と充実部が混在していた.小腸粘膜面との連絡は認められなかった. |
組織所見: |
腫瘤表面は小血管を含む結合織で覆われており,大小の嚢胞形成や杯細胞を含む腺管様構造を認めた.充実部では,未熟な内皮細胞の網目状の増殖や肝細胞様細胞の増殖がみられた.また,毛細血管を軸に,間葉成分を挟み,内皮様細胞が覆う内胚葉洞構造も認めた. |
診断名: |
卵黄嚢腫瘍. |
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32.鶏の腹腔内腫瘤 |
〔渡邉章子(沖縄県中央)〕 |
症例: |
鶏(ブロイラー),性別不明,45日齢. |
肉眼所見: |
腹腔に14×8×7cm大の硬結感のある腫瘤を認めた.表面は黄白色部と暗赤色部より成り,薄い被膜に覆われ一部腹壁と癒着していた.腫瘤割面は粗造で,乳黄白色の充実性構造部と透明感のある赤色の結節部が混在し,小嚢胞も多数認めた.その他の臓器に著変はみられなかった. |
組織所見: |
腫瘤は主として軟骨,骨,脂肪組織などの種々の組織より成り,角化を伴う表皮様組織の増殖巣やPAS反応陽性の杯細胞が密集している部位も認め,周囲に結合組織が発達していた.また,一部にS-100蛋白を有する卵円形核を有する多角形の細胞が散在していた. |
診断名: |
奇形腫(原発部不明). |
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33.鶏の左肩部の腫瘤 |
〔工藤優子(群馬県北部)〕 |
症例: |
鶏(デカルブ),雌,740日齢. |
臨床的事項: |
平成11年6月29日に搬入された7,300羽中の1羽. |
肉眼所見: |
腋窩部前方の皮下に7×4×4cmの黄白色卵円形腫瘤を1個認めた.腫瘤表面は平滑で被膜に覆われ,硬結感があった.腫瘤は筋肉に浸潤しており境界は不明瞭であったが,皮膚との分離は容易であった.骨との接続はみられなかった.割面は乳白色,充実性でやや膨隆していたが,顕著な出血・壊死は認められなかった.その他の臓器に腫瘤形成等の病変はみられなかった. |
組織所見: |
腫瘍組織は主として紡錘形の腫瘍細胞より成っていたが,概して大型で多形性があり,複数の核が連なる細胞も散見された.好酸性の細胞質を有し,核はおもに淡明大型,大小不同で異型性を認め,核分裂像もわずかに散見された.小型円形細胞の集簇もみられた.PTAH染色で細胞質に横紋を認め,アザン染色および鍍銀染色で腫瘍細胞間に発達した膠原線維と好銀線維を認めた.PAS染色およびアクチン,デスミン,SMAによる免疫染色で陽性を示した.ミオグロビン,S-100蛋白による免疫染色は陰性であった. |
診断名: |
横紋筋腫. |
討議: |
筋組織の再生,萎縮,融解像を認め,腫瘤の起源は横紋筋と確定しにくいとの意見があった.しかし本例の場合,単一発生の腫瘍で,転移もみられず,顕著な壊死・出血もなかったことに加え,横紋が確認でき,核分裂像が低頻度であったことなどから分化の度合いが高い細胞であるとして,上記診断名となった.
SMA陽性に関して,正常な骨格筋でも発生時にSMA陽性を示す場合があるので,腫瘍化した細胞でも同様の反応を示す可能性があるとの助言をいただいた. |
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34.鶏胸筋内の腫瘤 |
〔小林晴美(栃木県県北)〕 |
症例: |
鶏(ブロイラー),雌,約60日齢. |
発生状況: |
平成12年6月9日に処理した6,512羽中1羽. |
肉眼所見: |
やや削痩.浅胸筋内に約7cm大の弾力のある白色球形腫瘤を認めた.硬度やや軟で,腫瘍を包む被膜は一部筋肉内に入り込み,境界不明瞭であった.割面は乳白色湿潤でやや膨隆し,分葉状を呈していた.他の部位に著変はみられなかった. |
組織所見: |
主として長紡錘形細胞が束状に走行する密な部分と,比較的疎で波状〜束状〜渦巻き状等さまざまな方向に走行する部分を認めた.密な部分では膠原線維が発達し,比較的疎な部分には,鍍銀染色で膠原線維と細網線維が混在していた.腫瘍細胞は淡明な細胞質と類円形〜紡錘形の核を有し,大小不同があった.一部腫瘍組織内に骨格筋細胞と思われる細胞の集簇を観察した.免疫染色でS-100,α-SMAとも陰性であった. |
診断名: |
神経線維腫(神経鞘腫の疑義あり). |
討議: |
線維主体の組織像であったため,「神経鞘腫」ではなく「神経線維腫」とした.組織像が単一で変化に乏しいことから「神経鞘腫」という疑義もあった. |
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〔編集責任:全国食肉衛生検査所協議会病理部会事務局茨城県県北食肉衛生検査所 一条 悟朗,真原 進〕 |
* 茨城県県北食肉衛生検査所(〒310-0851 水戸市千波町2831-12) |
* The Kenn-poku Meat Inspection Office of Ibaraki Prefecture(2831-12 Senba-cho,
Mito 310-0851, Japan) |
† 連絡責任者: |
真原 進(茨城県県北食肉衛生検査所)
〒310-0851 水戸市千波町2831-12
TEL 029-241-4527
FAX 029-244-5570 |
† Correspondence to : |
Susumu MABARA (Kenn-poku Meat Inspection Office of Ibaraki Prefecture)
2831-12 Senba-cho, Mito
310-0851, Japan
TEL 029-241-4527
FAX 029-244-5570 |
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