資 料

全国食肉衛生検査所協議会病理部会研修会(第43回)*†
における事例記録( I )

Proceedings of the Slide-Seminar held by the National Meat Inspection
Office Conference Study Group (43th)*†, Part I .


(2001年3月23日受付・2002年8月8日受理)

 全国食肉衛生検査所協議会病理部会が主催する第43回病理研修会が,2000年11月16〜17日,麻布大学で開催された.今回は33機関から34題の事例が提出された.以下に,今回の提出事例の概要を述べる.
事 例 報 告

1.牛の顔面腫瘤
〔木村明吉(名古屋市)〕
症例 牛(ホルスタイン種),去勢,年齢不明.
臨床的事項 一般健康畜として搬入.左眼より吻側へ約5cmの位置に腫瘤を認めた.
肉眼所見 腫瘤は5×6×6cm,有茎性に皮膚より隆起していた.腫瘤表面は赤色で脱毛していた.割面は白色充実性で,硬度やや軟であった.
組織所見 腫瘤は紡錘形細胞を主体とした腫瘍細胞が束状になり交錯する配列や花むしろ状配列や毛細血管を取り囲む渦巻き状配列により形成されていた.また,細胞成分が粗で粘液腫状の部位も認めた.腫瘍細胞は軽度の大小不同を示し,核は紡錘形〜長楕円形であったが,大型の細胞は短紡錘形〜星型で,核は大きく,核仁明瞭で円形〜楕円形の核をもち,核分裂像も散見された.アザン染色では種々の程度の膠原線維を認めた.免疫染色では,腫瘍細胞はS-100蛋白およびビメンチンは陽性,ケラチンおよびニューロフィラメント陰性であった.
診断名 悪性度の低い末梢神経由来の悪性神経鞘腫.
討議 研修会では線維腫と発表したが,麻布大学で各種免疫染色,電子顕微鏡による検索を実施した結果,上記診断名となった.

2.牛の胸腔内腫瘤
〔前原誠一郎(大分県)〕
症例: 牛(黒毛和種),雌,推定10歳.
臨床的事項: 病歴不明.やや削痩.
肉眼所見: 前縦隔〜心冠部付近にかけて17×13×13cm大の腫瘤を認めた.腫瘤は厚い被膜に被われ,表面には凹凸があり,割面は黄白色,髄様で,大小の分葉状を呈し,出血・壊死を認めた.
組織所見: 腫瘍は結合組織性の厚い被膜に被われており,被膜内には神経線維束,神経節などのほか,リンパ球や形質細胞の浸潤,集簇巣も認められた.腫瘍組織は被膜から侵入した結合組織により大小の小葉に区画されていた.腫瘍細胞の細胞密度は部位により若干差があるものの,全体的に細胞に富んでいた.腫瘍細胞は,主として紡錘形で,胞体は弱酸性を呈していた.腫瘍細胞の交錯束状,渦巻き状配列が目立ち,パチニ小体を思わせる構造も散在していた.また,比較的淡明な長円形ないし類円形の核をもち,核小体が明瞭なものと不明瞭なものとがみられた.核分裂像が400倍10視野あたり1〜2個認められた.アザン染色,渡辺鍍銀染色では,膠原線維はきわめてわずかで,腫瘍細胞は膠原線維を作る能力をもたないものと考えられた.
診断名: 神経鞘腫.

3.肺に著しい結節性病変を認めた全身性抗酸菌症
〔杉山晶彦(大阪市)〕
症例: 豚(品種不明),去勢,推定6カ月齢.
臨床的事項: 健康畜として搬入され,著変を認めず.
肉眼所見: 肺表面に針頭大〜うずら卵大の透明感のある黄白色結節が多発していた.実質および間質にも同様の病変を認めた.肝臓には胡麻粒大〜米粒大の透明感のある灰黄色結節が多発していた.脾臓には被膜に胡麻粒大乳白色結節を1個認めたが,実質内には病変はなかった.空腸リンパ節(以下,リンパ節をLyと略す.)に石灰化を伴う微細な乾酪壊死巣が散在していた.下顎Ly,浅頸Ly,内腸骨Lyおよび腸骨下Lyに水腫性腫大と充出血を認めた.腎臓皮質にうずら卵大の嚢胞形成を認めたが,他臓器には著変はなかった.
組織所見: 肺,肝臓,脾臓,気管気管支Ly,前気管気管支Ly,空腸Ly,肝Ly,胃Ly,下顎Ly,耳下腺Ly,扁桃および腸骨下Lyに,多核巨細胞,類上皮細胞やリンパ球の浸潤と線維芽細胞の増殖と結合組織増生からなる肉芽腫性炎を認めた.肺および脾臓の被膜に認めた肉芽腫性炎では結合組織の増生とリンパ球の浸潤が顕著であった.多核巨細胞,類上皮細胞の出現は実質臓器より,その付属Lyで特に目立った.チール・ネルゼン染色で肺,肝臓,脾臓,気管気管支Ly,前気管気管支Ly,空腸Ly,肝Ly,胃Ly,下顎Lyおよび耳下腺Lyの病変部の多核巨細胞の細胞質内に陽性菌を認めた(図1).
診断名: 抗酸菌を含む多核巨細胞の出現がみられる肉芽腫性炎(豚全身性抗酸菌症).
図1 肺実質の肉芽腫性炎では,多核巨細胞(矢印)および類上皮細胞の顕著な出現を認めた.(HE染色 ×400)(大阪市食検出題)

4.豚の肝臓と肝リンパ節
〔出井孝幸(栃木県県南)〕
症例: 豚(雑種),雌,6カ月.
肉眼所見: 肝臓は軽度に腫大.全葉に直径2〜3mmの硬結感を有する黄白結節が多数認められた.肝リンパ節は高度に腫大し,割面は髄様であった.肺には肺炎病巣と直径5mm程の黄白色結節が散発していた.気管気管支リンパ節は軽度に腫大し,割面は髄様であった.脾臓の被膜上に直径1〜2mmの灰白色結節が散在していた.腎臓には淡褐色の不整な斑状病変を認めた.
組織所見: 肝臓の結節は結合線維の増生とリンパ球,類上皮細胞および巨細胞の浸潤を認める肉芽腫であった.鍍銀染色では結節周縁部に膠原線維が,内部に網目状に好銀線維および膠原線維が発達していた.肺,脾臓の結節も同様の組織像を示した.肝リンパ節および気管気管支リンパ節のリンパ洞は多数の類上皮細胞,巨細胞の浸潤を伴う肉芽腫に置換され拡張していた.腎臓皮質に大小のリンパ濾胞の過形成と糸球体腎炎を認めた.チール・ネルゼン染色で肝臓,肺,肝リンパ節,気管気管支リンパ節の病巣部に抗酸菌が認められた.
診断名: 肉芽腫性炎(豚の抗酸菌症).
討議: 腎臓に認めたリンパ濾胞の過形成および糸球体腎炎と抗酸菌との関係については不明であった.感染経路の解明のため,消化管病巣の確認も重要と思われる.


5.豚の腸間膜リンパ節
〔島田敏之(愛知県)〕
症例: 豚(雑種),去勢,6カ月.
臨床的事項: 特になし.
肉眼所見: 小腸壁は赤色菲薄化,腸間膜リンパ節は腫脹し,淡黄色粟粒大結節が散在していた.固定後の割面では大小多数の漿液を容れた水疱を認めた.
組織所見: 小腸粘膜固有層に好酸球浸潤と,リンパ小節の形成を認めた.腸間膜リンパ節では水疱の多発により固有構造が消失していた.水疱壁は細網線維より成っていた.また一部にリンパ球が残存していた.結節部は石灰化を伴う乾酪壊死巣を中心に類上皮細胞と線維増生を認めた.乾酪壊死巣内には抗酸菌染色で陽性菌を認めた.小腸粘膜および腸間膜リンパ節水疱内にはグラム陽性桿菌を認めた.
診断名: 水疱形成を伴う肉芽腫性炎.
討議: 腸間膜リンパ節の水疱形成と抗酸菌感染との因果関係はあるのか?乾酪壊死巣のでき方によっては,リンパ液のうっ滞を起こしリンパ洞の拡張が起こり得るとの意見があった.小腸の好酸球浸潤と抗酸菌感染との関係は不明であった.

6.豚の脾臓と肝臓
〔千葉みゆき(名古屋市)〕
症例: 豚(雑種),雌,6カ月(推定).
臨床事項: 本例は抗酸菌症多発農家より健康畜として搬入され,外見上は特に異常を認めなかった.
肉眼所見: 脾臓は著しく腫大,硬化し,表面から隆起する類円形,白色結節が密発していた.結節は大豆大〜うずら卵大で実質内にも存在し,割面では中心部が白色で凹凸があった.肝臓では全葉にわたり表面からやや隆起する類円形の乳白色結節が多発していた.結節は米粒大〜うずら卵大で実質内にも存在し,割面は滑らかであった.肺では全葉にわたり米粒大の白色結節を認めた.腎臓では,漿膜面にわずかに膨隆するうずら卵大の白色結節を1つ認めた.気管気管支リンパ節は軽度に腫脹していた.腸間膜リンパ節には著変を認めなかった.
組織所見: 脾臓,肝臓,肺,腎臓の結節には壊死や類上皮細胞,好酸球,リンパ球の浸潤を認めた.一部ではこれらの炎症細胞は壊死巣を囲むように散在していた.また脾臓,肝臓,気管気管支リンパ節においてラングハンス型巨細胞を含む多核巨細胞が認められた.腎臓の結節では,線維芽細胞,膠原線維の増生が顕著であった.また各臓器およびリンパ節のチール・ネルゼン染色,PAS染色では細菌あるいは真菌は観察されなかった.
細菌検査所見: 各臓器,リンパ節を好気ならびに嫌気培養したが,菌は検出されなかった.
診断名: 全身性肉芽腫性炎.
討議: 原因菌として抗酸菌が疑われたが検出されなかったことに対して,染色方法についてのアドバイスをいただいた.

7.牛の頸部腫瘤
〔小山雅彦(宮城県仙北)〕
症例: 牛(黒毛和種),雌,年齢不明.
臨床的事項: 体格小,栄養不良で頸部から胸部にかけて硬結感のある腫脹を認めた.血液検査では特に異常を認めなかった.
肉眼所見: 頸部から胸部にかけて70×30×20cmの硬固な腫瘤を認めた.腫瘤は筋肉内に浸潤しており境界不明瞭であった.割面は灰白色,充実性で,結合組織で区画された不規則,分房状を呈し,出血・壊死もみられた.肺には小豆大から拇指頭大の白色結節が散在していた.副腎実質内には出血を伴う拇指頭大の乳白色結節を認めた.肝臓には肝蛭が寄生し,胆嚢粘膜の乳頭状増殖を認めたが,その他の臓器に著変は認めなかった.
組織所見: 頸部腫瘍では楕円形から長紡錘形の腫瘍細胞が束状配列や花むしろ状,渦巻き状に増殖していた.腫瘍細胞はクロマチンに乏しく,大小不同の類円形から楕円形の淡明な核をもち,核分裂を多数認めた.肺,副腎においても同様の腫瘍細胞の増殖を認めた.免疫染色ではビメンチン(+),α-SMA(−),S-100(−)であった.
診断名: 紡錘形細胞肉腫.
討議: 線維肉腫の形態とは異なる.平滑筋肉腫や神経系細胞肉腫の異議あり.

8.牛の肺の腫瘤
〔大舘ひとみ(岩手県紫波)〕
症例: 牛(黒毛和腫),雌,15歳.
臨床的事項: と殺1カ月前より発咳,食欲不振,肺炎の診断で,病畜として搬入.
肉眼所見: 肺の左右後葉,辺縁部胸膜上に,小豆大〜拇指頭大の黄白色,不整形の結節を多数認めた.結節の割面は平滑で硬結感があり,暗赤色〜淡赤色部を有し,モザイク状で,漿液性あるいは膿性の滲出液が流下しており,肺実質との境界は明瞭であった.また壁側胸膜にも同様の結節を多数認めた.肝臓の漿膜面および実質,腎臓の皮質および髄質に小豆大〜拇指頭大の漿液を容れる嚢胞が多発していた.他の臓器に著変は認めなかった.
組織所見: 肺の腫瘤部では扁平上皮細胞に類似した多形性の細胞が索状あるいは島状に増殖.腫瘍細胞は有棘細胞に類似し,角化傾向が強く,癌真珠を認めた.腫瘍細胞の核は円形から紡錘形でクロマチンに乏しく,1〜数個の核小体を有していた.細胞質は広くエオジン淡好染性であった.核分裂像もしばしば認められた.肝臓と腎臓の嚢胞性病変と腫瘍病変との関連性は認められなかった.
診断名: 扁平上皮癌.