2.家畜共済の課題と今後の方向

 現在,農業災害補償制度の改正に係る検討会が開催・進行中である.
 食料・農業・農村基本法および食料・農業・農村基本計画において,「災害によって農業の再生産が阻害されることを防止するとともに,農業経営の安定を図るため,農業災害補償法に基づく農業災害補償制度の適切な運用を通じた災害による損失の合理的な補てん等の施策を講ずること」とされており,今後も農業災害補償制度は農業の持続的な発展に関する施策として重要な施策のひとつである.
 また,担い手となる農業経営者の育成,農業における構造改革が求められている中,「農業災害補償制度については,その基本的な枠組みを維持しつつ,政策全般の展開方法に沿って,検討・見直ししていくこと」が求められている.
 これらを踏まえて,「農業構造改革推進のための経営政策」においては,「農業災害補償制度の関係については,農業経営者の多様な経営感覚が生かされるようにするとともに,制度の効果的・安定的な運営に資する等の観点から,必要な検討を行うことが適当である」とされているところである.
 こうした中,昨年11月に農業災害補償制度の見直しに関する検討会が設置され,次期制度改正を見据え,その検討が行われている.その検討の視点は,
(1) 担い手農家等の経営感覚が活かされる制度のあり方について
(2) 制度の一層の効果的・安定的な運営について
となっており,家畜共済にあっては,先般(3月18日)開催された検討会において,最近の畜産情勢,共済事故の発生状況,現行の仕組みとの関係等その課題が検討され,制度改正への対応方向として,
多頭飼養化等に対応した家畜共済の補償のあり方について
共済目的の追加(乳牛の子牛・胎児)等について
の2点が示された.
 多頭飼養化等に対応した家畜共済の補償のあり方については,
[1] 組合の区域を超えた危険段階別共済掛金率の設定
[2] 事故の発生が家畜個体のみならず農家(飼養家畜)全体に及ぶ火災,自然災害,伝染病等の事故に対しては,従来どおりの補償とするが,それ以外の死廃事故(基本的に家畜個々の損害)においては,支払共済金に一定の制限を設定する新たな補償方式の導入
[3] 事故除外方式のメニューの拡大の検討
が,検討方向として示され,また共済目的の追加(乳牛の子牛・胎児)等についてでは,これまで共済目的となっていなかった乳牛の子牛・胎児についても,BSEの発生に伴い酪農家における後継牛の確保の重要性,F1やET技術の普及による肉専用種等付加価値の高い子牛の生産の増加等に対応して,共済目的の追加を検討することとし,あわせて肉牛の胎児価額の設定方法(現在,母牛の2割となっている.)について検討を深めることとした.
 今後,保険技術的な検討等を踏まえて,秋頃には検討会の報告がまとめられ,来春の通常国会に提出される予定である.予定どおりことが進めば,平成16年度から改正された制度が施行されることとなる.
 今後,家畜共済事業にあっても農政の方向に即して,その支援対策としての機能を発揮しつつ,健康な家畜から生産される安全,安心な畜産物の提供に寄与するためには,わが国の家畜診療の大宗を占める農業共済団体等の家畜診療所等の役割を一層充実強化して,この機関が担っている家畜診療技術等を駆使して,農家の付託に応えることが重要と考える.
 これについては,これまでの個体の診療を中心とする診療技術等を基本としつつも,農家のニーズでもある「家畜群」への診療体制の整備等を図ることが肝要と考えており,家畜共済においては,地域の高度な家畜診療体制の整備にかかるべく補助事業も進めて,その対応を図っているところである.
 最後に,今後とも関係各位のご理解とご支援を賜りたい.

 

[ 参考 ]
家畜共済制度の概要
(1)共済目的の種類
[1] 牛:出生後6カ月齢以上の牛(ただし,肉牛の子牛及び授精等の後240日以上の胎児は定款等に定めることにより共済目的とすることができる.)
[2] 馬:明け2歳以上の馬
[3] 種豚:6カ月齢以上の種豚
[4] 肉豚:20日齢以上(離乳豚)から原則として8カ月齢まで
 
(2)共済事故
[1] 牛(肉牛の子牛を含む.),馬及び種豚
死亡(と殺は除く.),廃用,疾病及び傷害
[2] 肉牛の胎児及び肉豚
死亡(と殺は除く.)
[3] 廃用については,次に示す場合(牛の胎児及び肉豚を除く.)
第1号 疾病,傷害によって死に瀕した場合
第2号 不慮の災害によって救うことのできない状態に陥った場合
第3号 骨折,は行,両眼失明,BSE,牛白血病,創傷性心のう炎若しくは,特定の原因による採食不能であって治癒の見込みのないものによって使用価値を失った場合
第4号 行方不明(盗難による場合を含む.)となった日から30日以上生死が明らかでない場合
第5号 乳牛の雌,種雄牛又は種雄馬が繁殖能力を失った場合
第6号 乳牛の雌が泌乳能力を失った場合
第7号 肉牛の出生時において,奇形又は不具であることにより,将来の使用価値がないことが明らかな場合
(注)事故の一部を共済事故としない方式がある.
 
(3)引受方式
 
(4)共済掛金期間
 原則として共済掛金の支払いを受けた日の翌日から1年間.
 
(5)共済金額
 共済価額に最低割合(2〜4割(豚は4〜6割))を乗じて得た金額から8割を乗じて得た金額までの範囲内で,農家が申し出た金額.
 
(6)共済掛金
 共済掛金の額=共済金額×共済掛金率
共済掛金に対する国庫負担は,2分の1(豚は5分の2).
 
(7)共済金
[1] 死廃事故
 共済金の支払額={事故家畜(胎児)の価額−(肉皮等残存物価額,廃用家畜の評価額,補償金等)}×共済金額/共済価額
[2] 傷事故
 包括共済:包括共済対象家畜ごとに定めた給付限度額の範囲内で疾病及び傷害の診療費(初診料を除く.)を給付.
 個別共済:家畜1頭ごとに定めた給付限度額の範囲内で疾病及び傷害の診療費(初診料を除く.)を給付.