III 食品表示制度の抜本的改善
 
 1 基本的考え方
 
 輸入食品の増加,多種多様な加工食品,食経験の乏しい食品の増加を背景として,外見や形状では安全性等について判断できない食品が増えている.また,最近,雪印食品,全農チキンフーズ等偽装表示が多発している状況を踏まえ,「表示」を通じて食品の安全性確保と消費者の選択の機会の確保を図るとともに,食品安全に対する消費者の信用回復を図ることがますます重要となっている.

 2 表示制度の一元的な見直し
 
 「表示」をもとに,消費者が,食品の安全性や品質,嗜好などの面から判断して食品を選択することになるが,「食品衛生法」,「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に案する法律(JAS法)」,「不当景品類及び不当表示防止法」,「不正競争防止法」というように多数の制度が関わる食品表示については,消費者にとって分かりやすいものとすることが最も重要である.
 したがって,食品の安全性の確保に関する法制度の見直しの検討に当たっては,こうした趣旨を踏まえることが必要である.
 このような視点に立って,消費者等の意見を十分に聴きながら,表示項目,監視体制及び罰則にわたる一元的な見直しを行い,その結果に基づき組織体制を整備するとともに,食品表示制度に関する法律の一元化等の法整備に努めることが必要である.
 その際,食品の表示には,
 [1] 食品の安全性に関する表示と,
 [2] 品質の規格や公正な取引確保などの食品の安全
  性に直接関わらない表示があり,両者で趣旨・目的・義務付けの必要性が異なることに十分留意することが必要である.
 なお,今通常国会に提出中のJAS法の改正法案は,緊急的に必要な罰則強化措置を講じたものであり,見直しの第一段階と位置付けるべきである.
(1)  表示項目の整理
 表示させる項目を,法律上義務付けるべき事項と任意的な事項とに区分して再整理することが必要である.
[1]  法律上義務付けるべき事項
・食品の安全性に関する事項
・消費者の商品選択において特に重要な事項(原産地表示等)
[2]  任意的な事項
 [1]に掲げる事項以外の事項,例えば他の類似品との差別化を図るための事項等
なお,当面,品質保持期限,賞味期限,消費期限など食品衛生法とJAS法とで重複して表示させている項目について,合理的な範囲で,それぞれの趣旨・目的等の観点から再度整理を行う.
(2)  生産履歴に関するJAS規格の制定
 消費者が,必要な場合に,食品の生産履歴に関する正確な情報を入手できる体制を早急に実現することが必要である.
 このため,JAS規格においては,表示された生産履歴と実態が一致しているかどうかを第三者機関が検証する仕組みを取り入れた「生産履歴」に関するJAS規格を制定する.
(3)  監視・検査体制の見直し
専門的な知識を要することも多い食品の安全性に関する監視は体制の充実強化を図りながら保健所の食品衛生監視員を中心に対応する.
消費者の商品選択において重要な原産地などの事項については,農産物等の生産,流通を担当する部局を拡充強化して対応する.
消費者の協力を得て表示のモニタリングを行う「食品表示ウオッチャー」制度の拡充,消費者等から苦情,相談に対応する表示相談窓口(表示相談110番)の充実に努める.
(4)  罰則の強化
 義務的な表示,任意的な表示を問わず,表示義務の不履行や虚偽表示の場合の罰則について,食品表示制度間の均衡にも配慮しながら,違反に対する十分な抑止となるよう措置し,特に「食品の安全性に関する表示」に関しては,法人に重点を置いた強化を図る.

 

 IV 食品安全に対する消費者の信用回復対策
 
 1 基本的考え方
 
 英国においてはBSE問題等を契機として,行政への消費者の信頼が失墜したが,(1)行政機構の改革により,独立した食品基準庁の設立,(2)BSE専門家からなる委員会の設置,(3)国民への情報公開を実施することにより,国民の信頼を回復することができた.
 英国のこのような経験にかんがみ,我が国においても,国民の信頼を回復するためには,(1)リスク評価を担う組織とリスク管理を担う組織の分離,(2)専門家から構成される食品安全に関する委員会の設置,(3)情報公開の徹底を行っていくことが重要である.

 2 トレーサビリティ(生産・製造過程への遡及)について
 
 当面,食品の安全確保の観点から,食中毒発生時において,原因究明や被害拡大防止のため,食品製造者等に対して,原材料,製品等の購入元や販売元に係る記録を保管するよう,努力義務を課す.
 また,安心して食品を購入することができるよう,消費者のニーズに応じて生産や流通に関する情報を引き出すことができる取組みを促す.

 3 食品企業におけるモラルの確保
 
(1) 食品を扱う企業の責務として,社会的モラルをもって行動することが求められる旨を包括法に明記する.
(2) 欧米では内部告発者を保護することにより,内部告発を奨励する制度が採り入れられており,示唆に富む面もあるが,我が国の企業文化や風土に馴染むものであるか慎重に検討することが必要である.したがって,当面は,既存の監視・検査体制の充実で対応する.

 4 食育の推進等
 
(1) 食の安全に関する不信と食品の多大な廃棄の現状に照らし,食品の安全性,食品に対する愛着等について,子供等に教える「食育」を推進する.
(2) 消費者の嗜好を反映して,流通部門から生産部門に対する規格に関する要請(重量,長さ,形状等)が生産コストを押し上げたり,無駄を生み出している面があるので,国民経済的視点からの見直し・改善が必要である.

 

 V 危機管理体制の確立
 
 1 基本的考え方
 
 食に関連した国民の生命,健康の安全を脅かす事態に対して,科学的な根拠に基づく,健康被害の発生予防,拡大防止,治療等の対策が円滑かつ効果的に実施される危機管理体制を確保するためには,新たに設置されるリスク評価機関である食品安全委員会がリスク管理を担当する厚生労働省,農林水産省等既存各省と連携して各々の機能を果たすことができる,まさに各省庁横断的な体制作りを行うことが重要である.

 2 危機管理情報の収集及び共有
 
 危機管理においては,危機管理情報の収集が最も重要であるため,食品安全委員会の事務総局が関係省及びその研究機関等から政府機関関係情報,学術情報等の提出を求めることとする.また,リスク管理を担当する厚生労働省,農林水産省等既存各省においても危機管理に関する情報を相互に提供することとする.各機関が収集,交換の対象とする情報については,事故発生情報,学術研究情報など情報の性質も踏まえて,脱落している情報がないようあらかじめ取り決めておくこととする.

 3 「食の危機管理基本指針」の制定
 
 危機管理体制の構築に当たっては,英国における食品安全(リスク評価を含む.)を担う食品基準庁が健康問題を所管する保健省及び家畜衛生等を担う環境・食料・農村地域省との間の覚え書において,一般原則,責任の分担のほか,農薬の安全,動物用医薬品,食品に起因する動物由来感染症及び伝達性海綿状脳症,食品規格と表示,遺伝子組換え食品,動物飼料,国際関係,緊急対応等の個別の課題について定めており,わが国においても関係機関の間で覚え書を交換し,その内容を公表することによって,実際の協力が的確に働くことにしていくことが必要である.
 危機管理体制の基本的事項を明らかにするため,内閣府の総合調整機能の一環として食品安全委員会が中心となり,厚生労働省及び農林水産省と協力して「食の危機管理基本指針」を作成する.「食の危機管理基本指針」は,
[1]  食中毒のような急性の健康危機だけでなく,微量の有毒有害物質の長期摂取であっても重大なものも含め,広範な食の危機を対象とし,食品のみならず,飼料も対象とする必要がある
[2]  予防の観点からの未然防止措置,危機発生時の緊急対応,人の健康被害が生じた場合の治療等の確保,情報公開と再発防止措置の確立について記述する
[3]  国産,輸入を問わず,フードチェーンを通じた危機管理が可能となるよう関係省間の連携,役割分担の基本的考え方を明確にすることが重要である.

 4 危機管理マニュアルの策定
 
 上記「食の危機管理基本指針」に基づき,各省庁が対応する危機に関して,食中毒,動物由来感染症,環境汚染由来物質,残留農薬,残留動物用医薬品などの分野ごとに具体的対応の詳細を明記した危機管理マニュアルを作成する.さらに,BSEやダイオキシン汚染など個別の重要問題ごとについても作成する.
 危機管理マニュアルには,関係省間の連携,分担を明らかにして縦割り行政の弊害を解消するとともに,リスクコミュニケーションのあり方も明記し,国民に信頼される危機管理システムを構築する.
 さらに,危機管理マニュアルには,各省レベルの対応内容のほか,
[1]  対応の責任及び役割分担の明確化,指揮命令系統の整備
[2]  地方支分部局,研究機関,地方自治体との連携,役割分担
[3]  地方自治体内での関係機関との連携
[4]  平時における情報収集,情報交換,演習訓練などの記述も必要である.

 5 緊急時の予防措置
 
 特に緊急時の危機管理システムの構築に当たっては,
[1]  リスク評価を緊急に行う場合,データの収集,専門家の検討等一定の結論を得るまでに時間を要する場合もあることから,欧州食品規則も参考として,リスク管理を担当する厚生労働省,農林水産省等既存各省において,問題がある食品又は飼料の流通,輸入等の条件の付与や一時禁止等の当面の予防措置を講ずることができること
[2]  この当面の予防措置については,リスク評価機関である食品安全委員会,リスク管理を担当する厚生労働省,農林水産省等既存各省の間において相互に情報提供を適切に行い,後日,食品安全委員会からのリスク評価に基づく勧告,危機管理対応の評価等を受けることとすることが必要である.

 

 自由民主党「食の安全確保」に関する特命委員会
 
委員長: 野呂田芳成
同代理: 谷津 義男
副委員長: 自見庄三郎
事務局長: 北村 直人
委  員: 伊藤達也,金田英行,鴨下一郎,鈴木恒夫,
田野瀬良太郎,中川昭一,長勢甚遠,
野田聖子,浜田靖一,増田敏男,山本公一,
有村治子,加藤紀文,金田勝年,清水達雄,
清水嘉与子,日出英輔,藤井基之,保坂三蔵,
松田岩夫,南野知恵子