資  料

自由民主党「食の安全確保」に関する特命委員会からの提言

 食の安全確保に関する提言
平成14年5月23日
食の安全確保に関する特命委員会
 は じ め に
 
 わが国の食品安全行政への国民の不安・不信感は,残留農薬,食品添加物,飼料添加物などの化学物質やダイオキシン,内分泌かく乱化学物質などの問題が底流にあったことに加え,O-157食中毒事件,BSE問題,そして雪印食品の偽装表示事件をはじめとする一連の不祥事により,今や頂点に達している.政治の最も重要な使命は,国民の生命・健康を守ることであり,その意味で,麻生太郎政務調査会長の特命で設置された「食の安全確保に関する特命委員会」に与えられた課題は,政治の責任そのものを問われたことにほかならない.
 1962年,ジョン・F・ケネディ米国大統領は,4つの消費者の権利を,政府が義務として遂行できるよう「消費者の利益保護に関する特別教書」を連邦議会で演説した.その4つの消費者の権利における第1番目は,「安全を求める権利」であり,健康あるいは生命に危険な商品の販売からの消費者の保護であった.40年も前のケネディの精神は,その後,関連法制度の整備として確りと根付き,今日の米国国民を守っている.
 翻って,わが国の現状をみると,誠に遺憾なことに,これまでの食品の安全に関する諸施策には,消費者保護に立った視点は殆ど希薄であると言わざるを得ない.今回の危機管理に際しての対応においても,食品安全に関する行政の危機意識の欠如と行政の生産者優先・消費者保護軽視等により,BSE発生を未然に防ぐことができなかった.
 本特命委員会は,わが国の食品安全に関する現行体系をあらゆる角度から見直すために,各界各層から幅広く有識者の意見を聴取するなど議論を深め,その成果をここに提言としてとりまとめた.
 食品の安全に関する行政,関連法制度の整備・充実等について,国民の「安全を求める権利」として,中長期的展望も含め,いかにあるべきか,この提言を政府が真摯に受けとめて実行されることを求めるものである.
食の安全確保に関する特命委員会
委員長 野呂田芳成

 

 I 食品安全に関する行政機構の改革
 
 1 基本的考え方
 
 BSE調査検討委員会報告において,食品安全に関する行政の危機意識の欠如と行政の生産者優先・消費者保護軽視等の弊害が指摘されているが,この問題は,BSEに限らず,食品安全行政全般に共通する問題である.
 BSE発生のような食の安全を脅かす問題を二度と生じないようにし,食の安全に対する消費者の信頼を回復するためには,食品安全に関する行政機構を大幅に見直す必要がある.
 その際には,消費者の健康保護を最優先に,食品安全行政に欠落していたリスク分析の手法―「リスクを科学的に評価するリスク評価,リスクとベネフィットや社会的な影響等を比較考量しながら管理するリスク管理,行政と科学と国民との間の情報や意思疎通を円滑に行い相互信頼を確立するリスクコミュニケーシヨン」―を食品安全行政に導入することが重要である.
 また,食品の安全性確保に関する施策は,産業振興とは区分して実施すべきである.
 以上の観点を基本として,食品安全に関する行政機構の改革を次のとおり実施する.なお,その際には,政府全体として行政機構縮減合理化の方向と齟齬をきたさないようにスクラップ・アンド・ビルドの考えを徹底する.そのためには,食糧庁の廃止等も視野に入れた思い切った改革が必要である.

 2 独立したリスク評価機関(食品安全委員会(仮称))の新設
 
(1)  リスク管理を担当する既存各省からの独立
 食品安全行政にリスク分析手法を導入するため,新たにリスク評価機関を新設する.
 この新たに設けるリスク評価機関は,リスク管理を担当する厚生労働省,農林水産省等既存各省とは独立した機関とし,内閣府に設置する.
 新たなリスク評価機関は,食品に関する個々の危害(ハザード)について幅広くリスクを評価し,その評価結果に基づき,リスク管理を担当する各省に対し必要な勧告を行う.
 以上の趣旨から,新たなリスク評価機関においては,規制,許認可,検疫等のリスク管理は行わず,これらは引き続き既存各省が担当する.
(2)  食品安全委員会の設置
 新たなリスク評価機関は,食品の安全性に関するリスク評価を客観的・専門的・科学的に行うこととなるため,複数の専門家・科学者が合議により行うことが適当であり,委員会組織(食品安全委員会(仮称))とする.
 なお,リスク評価を実際に行うに際しては,情報公開を第一として透明な議論により国民の信頼を確保するとともに,個々の危害(ハザード)ごとに専門家・科学者・消費者等で組織する個別の作業チームを食品安全委員会の下に設置し,評価を行い,その結果を食品安全委員会に報告の上,最終的には食品安全委員会で決定する.
(3)  食品安全委員会の委員
 食品安全委員会の委員については,5〜10名程度として,専門家・科学者から構成する.
 なお,国会承認人事とする.
(4)  担当大臣の設置
 食品安全委員会を担当する大臣を置くものとする.ただし,リスク管理を担当する各省大臣の兼任は認めない.
(5)  リスク評価の対象
 リスク評価は,食品を経由して体内に摂取される可能性のある危害(ハザード)すべてを対象とする.ただし,医薬品は除くものとする.
(6)  リスクコミュニケーションの総合的実施
 リスクコミュニケーションについては,リスク管理を担当する各省においても実施する必要があるが,食品安全委員会においては,これら各省間の調整を含め総合的なリスクコミュニケーションを担当する.
 なお,実際のリスクコミュニケーションの実施に当たっては,消費者,報道関係者等各分野の専門家で構成する専門部会を委員会に設置し,情報の客観性及び透明性を高めるよう努める.
(7)  食品安全行政の監視・モニタリング
 リスク管理を担当する各省が行う食品安全行政についての消費者からの苦情や告発を食品安全委員会が的確に把握することは重要である.このため,この受け皿として,数十名程度の「食品安全行政監視員」を食品安全委員会に設置し,食品安全委員会がリスク管理を行う各省へ勧告する機能を補完するものとする.
(8)  危機管理体制の整備
 食品安全委員会は,
[1] リスク管理を担当する各省に対し勧告を行う機関であること
[2] 内外の科学情報や事故等の情報収集を行う機能を有していること
[3] リスクコミュニケーションを総合的に実施する機関であること
等から,食品の安全性に関する危機管理が必要な場面においても,リスク管理を担当する各省と連携して,情報収集等による緊急事態の発生・拡大防止,緊急事態発生時の消費者等への情報公開,内外情報の提供等一定の役割を果たすことが求められる.この観点から,リスク管理を担当する既存各省との間で適切な役割分担を行いつつ,食品安全委員会として必要な危機管理マニュアルを策定する.
(9)  事務総局(仮称)の設置
 以上の機能を的確かつ円滑に実施するため,食品安全委員会に事務総局を置く.
 事務総局においては,食品安全委員会の管理に必要な事務のほか,リスク評価に必要な国内外の科学情報や事故等の情報収集,作業チームが行う具体的な評価作業のために必要な事務,食品安全行政の監視・モニタリング等を行う.なお,事務総局の組織については食糧庁等既存組織の見直しの中で対応を図る.

 3 監視体制の充実・強化
 
(1)  水際の食品安全監視体制の充実強化
 中国産野菜の残留農薬問題やBSE問題に関しイタリアから輸入した肉骨粉がBSEに汚染されていた可能性が指摘されるなど,輸入食品の衛生検査,植物検疫,動物検疫といった水際における食品等の安全検査の重要性が増大しているのに対し,一方で現在の体制は,食品衛生監視員(輸入食品についてのモニタリングを行っているもの)約260人,植物防疫官約780人,家畜防疫官約280人ときわめて脆弱な体制にある.
 我が国の食生活はカロリーベースで約6割が外国の輸入品であることを考えると,食の安全を確保する上で,水際の食品の安全監視体制の充実が重要であり,この分野における思い切った体制の強化,整備を図る.
(2)  食品表示に関する監視体制の充実強化
 BSE問題に端を発し雪印食品の偽装表示事件をはじめとして食品表示に関する消費者の信頼が大きく揺らいでおり,食品の安全性や消費者の食品選択に関する権利の保護という点で,食品表示に関する消費者の信頼回復が早急に求められている.
 このため,企業モラルの回復は当然のことながら,違反した場合の罰則の強化,更には,食品表示に関する監視体制の充実強化を図る.

 4 人間と動物の共通感染症への対応
 
 近年における社会経済の発展等により,核家族化,高齢化が進展するに伴い,人間と動物の共生が一層志向される中で,犬,猫等の家庭動物が,人々の心に癒しを与えたり,盲導犬,聴導犬,介助犬等として様々な人々の日常生活を支えるなど,人間生活,社会生活の中で果たす動物の役割は多岐にわたるとともに,ますます重要なものになってきている.
 このような中で,動物の保健衛生の向上,とりわけ人と動物の共通感染症対策について,動物医療に対する需要や期待が従前にも増して著しく高まってきていることから,国は,動物に関し,単に畜産等の産業政策的な観点からのみならず,犬・猫等の家庭動物に関する動物医療の提供体制の整備についても,今後医療面を含めて本格的かつ幅広に取り組む必要がある.
 これに関連して,欧米には獣医局,獣医務局があること等を参考として,獣医師行政の一元化について中長期的課題として漬極的に検討すべきである.

 

 II 食品衛生法等関係法令の改正
 
 1 基本的考え方
 
 食の安全に対する消費者の信頼を回復するため,食品の安全性確保に万全を尽くす観点から,食品衛生法を始めとする食品の安全性の確保に関する法律を抜本的に改正しなければならない.
 食品衛生法は,終戦直後の衛生状態も不十分な時期に制定された法律であり,有害・粗悪・不衛生な食品を取り締まり,排除するという観点が強い法体系である.現在は,農薬,動物用医薬品などはもとより,遺伝子組換え食品,ダイオキシン,内分泌かく乱化学物質など食品の安全性をめぐる新たな課題が生じてきている.また,O-157を含む食中毒事件は,引き続き国民の健康や生命への大きな脅威であり,毎年数万人の患者が発生し,尊い生命が失われている.
 こうした状況を踏まえて,食品安全行政はすべて,国民の健康を保護することを目的としていることを明確に位置付け,食品衛生法をはじめとする食品の安全性の確保に関する法律を,国民の健康保護に重点を置いた今日的な法体系に抜本的に見直す.

 2 食品安全行政の基本原則の確立
 
 食品の安全性の確保に関する法制は,食品衛生法やと畜場法などの厚生労働省が所管する食品衛生規制,飼料安全法,農薬取締法などの農林水産省が所管する生産段階での規制があるが,包括法において,以下のとおり,食品安全行政の基本原則を確立する.
食品安全行政は,国民の健康保護を最優先すること.
安全な食品を提供する第一義的な責務は,製造者,輸入者,加工者,調理者,販売者等にあること
国及び地方公共団体は,国民の健康保護の観点から,食品の安全性確保のための施策に責任をもって取り組むべきこと
食品安全行政は,リスク分析の考え方に則って,リスク評価とリスク管理の機能的分離と相互作用,リスクコミュニケーションの確立などを主眼として取り組むべきこと.

 3 食品衛生法等の食品衛生規制に関する法律の見直し
 
(1)  基本原則の明確化
 2に対応して,各法律の目的規定を見直し,「食品の安全性を確保することをもって国民の健康保護を図る」旨を明確にし,行政,事業者の責務を明確に位置付ける.
(2)  食品の安全性確保に関する基準の整備
[1]  農薬や添加物等の安全性評価の推進と安全性に問題のあるものの流通禁止
(ア)  農薬取締法を含む関係法を改正し,農薬,動物用医薬品,飼料添加物について,国内で使用されるための登録等と同時に食品への残留基準が設定される仕組みを導入するとともに,食品への残留基準が変更された場合に農薬の使用基準等も改正される仕組みを強化する.
(イ)  基準未設定の農薬等について,早急に基準値の設定や分析法の整備を行い,その上でなおも基準未設定の農薬等についての残留を原則禁止する制度を創設する.
(ウ)  既存添加物について,安全性評価を優先的に行うべき既存添加物の評価を早急に終了させ,安全性の問題が判明したものについて即時に使用禁止できる規定を整備する.
[2]  製造・輸入・販売に係る安全性確保のための規格基準について,最近の食中毒発生の状況などを踏まえて製造基準などを整備するとともに,既存の基準について,最新のリスク評価を基に見直す.
[3]  ハサップ(総合衛生管理製造過程)承認制度について,一定期間ごとに見直しを行う更新制度を導入する.
[4]  過剰摂取等による健康影響が懸念される場合の流通禁止規定など,安全な健康食品の流通確保のための規制を整備する.
[5]  法違反時の罰則について,法違反に対する十分な抑止力となるよう,経済情勢も踏まえながら,法人に重点を置いて,強化する.
[6]  食品表示制度の見直しについては,「III 食品表示制度の抜本的改善」に記載のとおり.
(3)  監視・検査体制の充実・強化
[1]  包括的輸入禁止規定の創設
 繰り返し基準に違反し,かつ,輸出国において十分な安全対策がとられていないなど,違反の蓋然性の高い特定の国からの特定の食品について,輸入の都度検査を行わなくとも,包括的に輸入を禁止できる仕組みを創設する.
[2]  実施体制の充実・強化
 [1]の法改正に加え,輸入食品については国の検疫所,国内流通食品については地方自治体の保健所を中心として,予防を万全に行うという観点から,監視・検査を行う専門職である食品衛生監視員の増員を図るなど,実施体制を強化する.
(4)  食品に起因する事故発生時の対応
[1]  大規模・広域食中毒発生時の国の自治体に対する指示権限を創設するとともに,自治体間の役割を明確にする.
[2]  食品製造者等に対して,食中毒発生時の原因究明等のため,原材料の購入等の記録保管の努力義務を課す.
(5)  リスクコミュニケーションの強化
 海外等の情報収集・分析体制を強化するとともに,ホームページや公聴会等を通じて消費者との意見交換を行う,関係審議会への消費者代表の参加を明確にするなどにより,地方自治体を含め,食品の安全行政への消費者参画の推進を図る.

 4 食の安全確保についての国民の理解
 
 食品の安全性についての科学的な知見,収集される情報の正確性・即時性や食品の安全についての監視・検査の体制・人員・予算には常識的に一定の限度があり,また,安全性の確保には,相応のコスト(価格への反映)を要することについても,国民の理解を得ていくことが肝要である.
 過度の農薬使用は消費者の「(曲がったキュウリや)虫食い野菜を敬遠する」嗜好にも問題がある.見栄えよりも肝心なのは安全性であるというように消費者の意識を変革する,啓発していくことも必要ではないかと考える.