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食品の最終消費をするのは消費者.消費者は安全な食品を十分な情報を得た上で,選択できることを保証される権利をもっている.食品の安全性の確保に関する基本原則として,消費者の健康保護が最優先に掲げられ,このような消費者の安全な食品へのアクセスの権利が位置づけられなければならない.
こうした消費者の権利を保障するために,生産,加工,流通,販売を含む「農場から食卓まで」のフードチェーンにおいて,携わるすべての事業者は,食品の安全性の確保および正確な情報の提供に関する責務を有する.
このため,食品の安全性にかかわる関係法において,その法目的に消費者の健康保護を最優先し,消費者の安全な食品へのアクセスの権利を定めるとともに,その目的を達成するための,予防原則に立った措置も含む行政および事業者等の責務を定めるなどの抜本的な改正・見直しが必要である. |
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リスク分析は「リスク評価」「リスク管理」「リスクコミュニケーション」の3つの要素からなっており,具体的に制度化する必要.また,全過程において透明性の確保の視点が重要.
リスク評価は利害関係から独立して客観的に行われる必要.リスク評価は専門の科学者によって行われる.
リスク管理は,消費者をはじめとしたすべての関係者と協議しながら,消費者の健康保護を第一の要素とし,その他有用性,社会的な影響等の要素を総合的に考慮して,適切な政策・措置を決定・実施する過程として位置づけられなければならない.リスク管理は透明性をもつと同時に,採用された政策の結果は常にモニタリングされ再評価されなければならない.
虚偽表示問題は,食品の原材料の追跡・検証が可能になるようなシステムが必要.トレーサビリティは最終商品から原材料へと追跡可能なシステム.今日,食品の安全性の確保のためにトレーサビリティは,フードチェーン全体を通じたすべての食品に適用されるべきシステム.また,リスク管理における重要な手法として位置づけられなくてはならない.
リスクコミュニケーションは,リスク分析の重要な要素として位置づけられなければならい.リスクコミュニケーションはリスク評価,リスク管理の普及,広報としてのみ行われるのではなく,リスク評価・リスク管理の過程にも求められる.とりわけ行政は,消費者をリスク分析のパートナーとみなし,消費者とのリスクコミュニケーションを重視し,情報の公開と提供,参加と対話を強めるべきである. |
2 |
食品の安全性の確保にかかる組織体制の基本的考え方 |
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食をめぐる今日的な状況に適切に対応していくためにリスク分析手法の導入が,食品の安全性の確保にかかわる組織体制のベース. |
(1) |
リスク分析に関する基本指針の確立
[1] |
基本指針は,リスク評価を実施する新しい行政機関において,利害関係者の意見を聞き合意の下で作成されなければならない. |
[2] |
基本指針には,リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーションを貫く基本方針を盛り込む. |
[3] |
基本方針は,リスク分析の原則から導かれたもので,その実施のための具体的方策等を掲げるものとする. |
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(2) |
リスク分析をベースとした組織体制の整備
[1] |
リスク評価体制の確立
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リスク評価の実施は,一貫性,独立性の観点から関係省庁から独立した行政機関で行うべきである.また,その機関はリスク分析に関する基本指針を策定し,客観的な科学評価を実施することからみれば,総合科学技術会議のように常勤メンバーの中に科学者のいる機関とすることが望ましいと考えられる.これらを踏まえて,その組織のあり方について慎重に検討するべきである. |
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[2] |
リスク管理体制の確立
ア |
食品行政の機能別分担の再検討と相互調整システムの確立
基本指針に基づき,食品行政の機能別分担を再検討し,相互調整システムを確立.リスク評価を行う行政機関と関係各省および各省間の政策調整システムを制度化. |
イ |
リスク管理を分担する各省庁と「危機管理体制」の整備
危機管理に際して,迅速な警戒体制および予防措置を行うために,リスク管理を分担する各省庁に危機管理体制を整備することが必要. |
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[3] |
「リスクコミュニケーション」の確立
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リスク分析手法において,リスクコミュニケーションは重要な役割を持っており,その中において消費者の参加,消費者への情報公開・積極的な情報の提供を位置づけることが重要.
また,リスクコミュニケーションが適切に機能するためには,情報が受け手にとって解りやすいことが必要.一般の人向け,子供たち向けなど,受け手の特性にあわせた情報の提供など工夫が必要.このようなきめ細かな情報を提供していくためには,情報に関する専門部署と専門家がいなければならない.特に広報担当コミュニケーターの育成が急がれる課題である. |
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リスク評価を実施する機関とリスク管理を実施する機関との間,ならびにリスク管理を実施する機関同士の間において,実際の協力が的確に働くようにしていくことが必要.
リスク管理を実施する省庁相互の間でも,データ・情報の共有化をはかるとともに,一方からの要請により相手方からデータ・情報を提供する旨を盛り込むなどの制度が検討されるべきである. |
(4) |
国際的な情報収集能力の向上と国際機関・主要国との連絡・調整のあり方 |
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食品の安全に係わる危害情報や新しい科学的知見や技術などの迅速な情報入手をはかるため,海外情報収集と国内への情報提供を一元的に担う機能を,リスク評価を実施する機関に配置することが必要である.
国際機関や主要国との連絡・調整の機能を強化することも必要.
EUや国際機関,これらの国の行政機関や研究機関,また科学者・研究者との交流を積極的に強めるべきである. |
(5) |
重要な個別の課題
[1] |
BSE・変異型CJDに関する研究体制の整備 |
[5] |
アジアにおけるBSE発生国としての国際貢献 |
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3 |
新しい消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法律の制定ならびに新しい行政組織の構築 |
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1および2に掲げた事項を実現するためには,新しい法律の制定と行政組織の構築が必要となる.
政府は以下の2点について,6カ月を目途に成案を得て,必要な措置を講ずるべきである.
その検討に当っては,その経過を常に情報公開し透明性を保つとともに消費者をはじめとして広く国民の意見を聞き,合意の下に成案を得るよう努めなければならない. |
(1) |
食品の安全性の確保に関する基本原則,リスク分析の導入を重点と位置付け,リスク分析の分担および手続き,ならびに消費者の参加の保証を内容とする「消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための法」を制定し,食品衛生法,と畜場法,飼料安全法,家畜伝染予防法その他の食品関連法を抜本的に見直す. |
(2) |
欧州各国の食品安全機関の再編成を参考にして,リスク評価機能を中心とし,独立性・一貫性をもち,各省庁との調整機能をもつ新たな食品安全行政機関を設置する.
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欧州各国における食品安全機関の再編成を参考とするに当って,組織・機関をそのまま日本に導入することは危険である.欧州における状況を精査し,日本における現状とを具体的に比較検討した上で,新しい行政組織を構築していくべきである. |
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