BSEの国内発生に伴いスタートした,世界に類を見ない「BSE全頭検査」の導入経過・現状および課題等について記述した.課題も少なからずあるが,消費者の食肉の安全に対する不安解消と畜産振興に「BSE全頭検査」導入の意義は大きかった.BSE発生により,くしくも全国の食肉衛生検査所および家畜保健衛生所等の獣医師の職務が,社会に再認識されることとなった.きわめて厳しい経済情勢の中,全国の自治体で,検査員等の増員・採用の機運にあり,当局の御理解に感謝したい.ただ,BSEの国内発生が,畜産振興と衛生規制の役割分担・連携のあり方が問われている.「食品安全庁」新設世論が再燃する中で,「畜産物は食品である」との基本原則に立ち,獣医師として,それぞれの立場でいかに係わるべきか,国民の納得できる行政システムがどうあるべきか,国際的な危機管理体制の確立とともに,早急な議論が必要であると思われる.一方,BSE全頭検査による「食肉の安全確保」の努力と信頼,および「食の安全」を根底から崩壊させる関連企業の犯罪行為は,断腸の思いであり,一部の企業の不正とはいえ,モラルハザードの確立を求めたい.生源寺[4]は,長期的な利益を確実にするために,「もはや失うものは何もない」,ここが再生のスタート点となるべきであると述べている.正に同感である.
最後に,日本の「BSE全頭検査」に対し,OIE本部は,月齢の若い牛まで検査することは「科学的根拠がない」と指摘されたようだが(朝日新聞 平成14年2月10日),可能なら,科学的妥当な検査範囲に見直すべきかもしれないが,当面は,消費者への絶対的安全・安心材料の提供が最優先課題であろう.
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