資  料

公衆衛生分野における牛海綿状脳症(BSE)対策の取り組み(対応)


沢谷廣志(全国食肉衛生検査所協議会 会長)

 

 は じ め に
 
 2001年,わが国は,アジアで最初の牛海綿状脳症(以下「BSE」と略す.)の発生国となり,家畜防疫対策と食品(食肉)の安全性の確保が求められている.
 BSEの国内発生により,牛肉の安全性が根底から問われており,この失われた消費者の信頼をいかにして回復するかがわれわれの使命でもある.
 2001年10月18日から,と畜検査に,世界に類のない制度である『BSE全頭検査』が導入され,国内2例目,3例目の陽性牛が摘発された.これが,まさに『BSE全頭検査』の成果である.
 「食肉の安全を守る最後の砦」である食肉衛生検査の立場から,全国食肉衛生検査所協議会(以下「全食検協」という.)を代表し,『BSE全頭検査』導入の意義と今後の問題点等について取り組みの概要を記述し,BSE問題解決の一助にしたい.

 

  | .BSEサーベイランスについて
 
 1996年,と畜場法の改正により,伝染性海綿状脳症(TSE)がと畜検査対象疾病に追加された時点(家畜伝染病予防法も政令指定)で,臨床検査および病理学的検査によるBSEサーベイランスが開始された.しかし,これまでの検査実績をみると,原ら[1]の平成9年9月から13年4月に行った「神経症状は呈していないが,起立不能および起立困難の病牛」231頭についての病理組織学的検査によるTSE陰性であったとの報告が,唯ーのようである.昨年,わが国に対する欧州連合(以下「EU」という.)のBSEステータス評価の動向等を受け,農林水産省(以下「農水省」という.)のサーベイランスがスタートし,同時に,厚生労働省(以下「厚労省」という.)からも同様の実施について通知がなされた.

 

  || .国内初発例確定までの緊急対応
 
 国内のBSE検査体制整備のため,全食検協は,厚労省の依頼により次の緊急調査を実施し,実態を把握した.
  1.牛の年月齢別と畜検査実施状況調査
   BSEスクリーニング検査対象範囲把握のため,全食検協メンバー(121機関)に対し緊急調査依頼を実施した.
 結果:調査し得た33と畜場で差はあったが,全体では,3歳未満の牛42.8%,3歳以上の牛57.2%であった.
 
  2.と畜場の規模別牛処理頭数の実態調査
   ELISA法によるスクリーニング検査対象把握のため,全食協メンバー所管と畜場の,規模別処理の実態調査を実施した.
 結果:33と畜場における12年度中の牛処理頭数は,最大8万余頭,最低100頭台であった.
 
  3.その他の関連措置
  (1) スクリーニング検査体制が整うまで,30カ月齢以上の牛の出荷繰り延べ要請(農水省・厚労省).
  (2) 生産者団体,と畜場関係者,診療獣医師等に対する協力要請(当会会員の各検査所対応).
  (3) レンダリング(肉骨粉製造等)業界への協力要請(国の会議における委員としての口答要請).

 

  ||| .BSE国内初発例確定の経過
 
 千葉県下の酪農家で飼育され,BSE患畜の疑いで検査依頼された乳牛の検体について,9月21日,英国獣医学研究所から,BSE陽性である旨の診断通知があり,アジア初,世界で19番目のBSEの発生国となった.