紹 介

八戸市における獣医師会と行政の連携について

山内正孝(青森県三八支部獣医師会 副会長理事)

1.「八戸市学校獣医師任用等取扱要綱」について
 みなさまご承知の通り,平成11年12月には「動物の保護及び管理に関する法律(動管法)」の改正案が成立しました.以前から動物愛護の精神は述べられているものの,「動物が生命のあるもの,人と動物の共生に配慮する」という言葉が明記されておらず,虐待やそれに対する刑罰も軽いものでありました.
 近年,少年非行や青少年の健全育成の場でいわゆるキレルという子供達は,まず『物』を壊すことから始まり,次にその『物』が,自分の大切にしている物や高価なものの破壊,そして『動物』になり,最終的には『人間』を襲う傾向があるとある教育者は指摘しています.そして,マスコミ・メディアは,動物虐待の増加やその残虐的行為が全国各地で社会的問題となっていることを報道しています.このキレル子供達は命の大切さを知らないといわれています.命あるものをみんな大切にしようという気持ちを育てるためには,どうしたらいいのか.一般に動物のからだが人間とどう似ていて,どう違うのか,というようなことを身体で覚えることができるという適時性は,幼稚園から小学校までの間といわれています.この期間に動物とかかわって成長した子供は,科学的指標での分析はできないが,人とのかかわりでも非常にやさしく,動物を飼うことによって学級も非常にまとまる傾向があると聞きました.そして,来年からは学校も完全週5日制になります.飼育動物もどういう動物種にすればよいか専門家のアドバイスが教育現場でも求められてきています.
 このようなことを踏まえて,八戸市は「八戸市学校獣医師任用等取扱要綱」を定め,非常勤特別職の職員として公務災害補償等に関する条例を適用することになりました.NHKニュースをはじめ新聞報道もされたので,まず具体的に申し述べたいと思います.
 「八戸市学校獣医師任用等取扱要綱」の概要は,『八戸市立幼稚園・小学校において幼児・児童の豊かな心を育むための実地相談指導を行い,動物愛護の精神を養うと共に,学校飼育動物の飼育管理方法の向上に資するため八戸市学校獣医師を設置することを目的とし,その身分を地方公務員法第3条第3項第3号に規定する非常勤職員とする.その任用は,委嘱状を交付して行い,任期は1年以内で当該年度の3月末日までとして,更新を妨げない.勤務態様は,学校への訪問は1校あたり年1回とし,勤務時間は1日4時間以内とする.勤務日は,教育長が別途定める.また,教育長による解職・服務規程を定め,報酬及び費用弁償,そして,学校獣医師の公務上の災害または通勤による災害に対する補償は,八戸市非常勤特別職の職員の公務災害補償等に関する条例(昭和42年八戸市条例第41号)を適用する.』
 なぜ非常勤職員になったのかと申しますと,現在制度化されている学校医は「公立学校の学校医,学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害に関する法律」昭和32年法制化されたものを受けて,その第4条第1項の規定に基づき「八戸市立学校の学校医,学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害に関する条例」昭和36年12月に条例で制定されております.同様に学校獣医師ということで条例化するには,根拠となる法律がないため大変な労力と時間を要することになります.まず法令審議会を設置し行政としての結論を出したあと,市議会での議決後に条例として機能することになります.それは,設置からの期間を考えると早くて6カ月,あるいは1年以上かかるかもしれません.学校の現場に行って獣医師が仕事をする以上ハプニングも起こりうることが考えられます.そこで処遇を明確にすることが獣医師の待遇改善・身分補償・地位の向上になると考え,また医師と同じ6年制で国家試験も受けており,同じ国家資格なのに社会的立場に格差があると思います.そこでその格差是正について何かいい方法はないのか,ということで協議した結果であります.それで要綱を定め非常勤職員とすれば法律に定めてあるのと同じ効力を発揮できるということで同意し,市長の決裁を得てこの5月に制定し6月に実施する運びとなりました.
 その要綱の中に,「その他 この要綱の実施に関し必要な事項は,別に定める」ということにしました.初めてのことだから治療費などもいくらかかかるのかわかりません.とりあえず1年実施し診療実績調査をした上で予算要望をすることにしました.また,報酬についてでですが,「学校獣医師に対する報酬は,勤務1日につき8,000円とする.費用弁償は勤務1回あたり2,000円を支給する」,となりました.このような金額的な問題は,実績を踏まえてから市と交渉することとしました.かといって担当獣医師の負担軽減に努めなくては協力も得られませんので,三八支部獣医師会としても動物愛護の関連事業との理解から応分の負担をすることにしました.獣医師会としては,市の報酬金額を云々するよりも,まず教育現場にあって学校飼育動物の飼育管理の適正化を図ることが第一であり,獣医師の誓い「95年宣言」を重視した結果であります.そして,それはおのずと獣医師という職業に対しても理解が深まる,というメリットも無視できないと思います.
 私は教育委員会とコンタクトをとるようにしておりましたが,三八支部獣医師会の全面的な協力がなければ,たとえ議員であると申しても私一人では何もできませんでしたし,だからこそ,八戸市教育委員会と三八支部獣医師会のお互いの信頼関係が築けたと思います.

2. 八戸市の学校現場サイドの現状と認識および行政と三八支部獣医師会についての経過
 さて,私は市議会議員としていきなり下記の一般質問をしたわけではなく,日本獣医師会雑誌が発行され学校獣医師についての記事があったときは,そのつど田中秀雄八戸市教育部長,および八戸市教育委員会に資料提供をしておき日常的にコンタクトをとっていたことをご理解いただきたいと思います.
 行政側がどういうふうに考えたのかを記載するために,現在の八戸市行政側における直接の担当者である,八戸市教育委員会 指導課の課長補佐兼青少年班長の高谷勝義氏と同指導課 指導班長兼指導主事の高野康一氏から学校現場サイドの現状認識等についてのご教示をいただきました.それは(指導課)と表記して表わします.
平成10年度
 第一段階として,下記の内容で平成10年12月八戸市議会一般質問を致しました.
(1)
学校の飼育動物をけがや病気から守るケアシステムを地域と行政の協力で整備する考えはないか.
(2)
動物飼育モデル校の指定や獣医師との連携強化,教員の研修などを検討していく考えはないか.
教育長の答弁(議事録に掲載されたもの;省略無)
 学校での動物飼育によって,子供達に動物と直接触れる機会を与えることは,命の尊さを理解し,動物を愛護する態度を養う上で大きな意義があります.学校での飼育動物への心ない扱いも報道されていますが,当市ではこれまでに不適切な取扱をしたという報告は受けていません.
 各学校では,学習指導要領の趣旨に沿って,愛情を持って動物を飼育しているものと認識しております.しかし,学校での動物飼育については専門的な知識が不足のまま飼育していることも考えられますので,飼育に造詣 の深い地域の人材活用や研修講座の設定をし,各学校で適切に飼育できるよう指導して参ります.
 ケアシステムを地域と行政の協力で整備することについても,地域ボランティアの活用など,前向きに検討して参りたいと考えております.
  次に,モデル校の指定や獣医師との連携強化については,先進的な取り組みをしている活動事例等を収集するなど,検討して参りたいと考えております.さらに,教員の研修については,来年度文部科学省から配布予定の「望ましい動物飼育のあり方の手引き(仮称)」をもとに,適切な動物飼育について周知徹底するよう指導して参ります.

(指導課)
 教育長の答弁の中から教員の研修,ということを検討した結果,平成11年度動物飼育研修講座開催へ急ピッチで進行しました.この背景にふれあい指導を獣医師会でできることがあれば協力しますよ,というアプローチがあったこともこの事業のスタートを容易にした要因の一つです.それから教育現場でも,平成元年に生活科が実施されてから年数も経っており動物種の見直しや具体的な管理上の問題も発生しておりました.他に,文部科学省の動きもあり,平成10年度の段階で「望ましい動物飼育のあり方の指導の手引き」を作成中であったこと.そして,小学校学習指導要領でも理科の内容に変化がありました.つまり,3年生から6年生のすべてに「身近にみられる動物と人」という内容の中で生物を愛護する態度・生命を尊重する態度,環境とのかかわりについての見方や考え方を養うこと.そして,新学習指導要領の生活科では「動物とのかかわり」においてその配慮事項として「小動物の飼育にあたっては,管理や繁殖,施設や環境などについて配慮する必要がある.その際,地域の獣医師と連携して,動物の適正な飼い方についての指導を受けたり,常に健康な動物とかかわるようにする必要がある.また,動物や植物に対する児童のアレルギーや感染症などについても,事前に保護者に尋ねるなどして充分な対応を考えていく必要がある.」したがって適切な動物飼育についての研修を教員にも受けさせたいというニーズもありました.そして,折りよく教育委員会では学校での飼育動物の動物種と個体数の調査をし,ニワトリ184羽/31校,つぎがウサギ128羽/29校,そしてハムスターが多く86匹/11校という結果が手元にありました.加えて行政としては予算編成の時期でもあり,来年度の講座を決めるにもタイムリミットが迫っておりました.実にタイムリーな時期に呼びかけがありましたので,研修講座は平成11年度からスタートすることができたのです.

平成11年度
平成11年度動物飼育研修講座開催要項
<1>
開 催―日時:6月18日(金)
場所:八戸市総合教育センター
対象者:
八戸市立各小学校教員
日 程:
午後14時50分〜16時45分で1時間の講義後に30分の質疑応答の時間を設けたもの.
<2>
研修内容―学校における望ましい動物飼育についての獣医師による講義と質疑応答.
<3>
講 師―青森県獣医師会会員
<4>
その他―あらかじめ質問しておきたいことがありましたら,5月21日までに担当までFAXでご連絡ください.
<5>
担 当
  八戸市総合教育センター 指導主事 前田 稔
 学校長などの管理職から,教員のどなたでもという参集範囲とした.

(指導課)
 この研修講座を開催することで三八支部獣医師会と行政とのかかわりができました.そして,今までは学校に寄付された動物を小屋に入れて飼育していただけだったのが,それでいいのかという教師からの問いかけに変わり,教師が専門家の力を借りて動物とのことを理解して教えていく必要性に気づきました.しかし青森県における過去の事例もなく,各市町村の指導主事が集まった会議ではこの講座について質問されることもあったそうですから,青森県内では先進的なものであったといえると思います.
 一方,三八支部獣医師会では全国の状況を把握するために,平成11年7月31日東京ヒルトンホテルでの「学校飼育動物・市民公開講座 子供たちは動物が大好き」に私を出席させてくれました.そして,三八支部獣医師会はこの時の内容を資料として残しましたので,それも八戸市に資料提供を致しました.

(指導課)
 この間,教育委員会の指導課では獣医師が学校を訪問して子供と動物とのふれあい指導を行い,また,飼育動物の適正管理の指導をするための調査を平成12年度に実施する方針で11年度に準備をはじめました.平成10年12月の一般質問,行政と獣医師が協力して行う考えはないかという質問に対し,それを受けて行政のほうから学校を支援していく上で,今度は行政側から獣医師と行政が協力するにはどういうシステムを構築すればいいか,それを明確にするために獣医師に専門家の眼で学校を見てください,実態調査をして報告書を提出してくださいということになりました.それが,平成12年度に実施される学校飼育動物支援システム策定委託事業です.

平成12年度
平成11年度動物飼育研修講座開催要項平成12年度動物飼育研修講座開催要項
<1>
趣 旨―心の教育の一貫として,獣医師による講話と質疑応答を通して,学校における望ましい動物飼育について研修する.
<2>
日時場所―9月12日(火)15時〜16時40分
  会場と対象は平成11年度と同じ
受講申し込み八戸市総合教育センター所長宛
<3>
「講義についてのアンケートにご協力ください」という形式で獣医師会が今回の講義の内容について,また今後の要望や意見について調査