4.NOSAI団体の対応
NOSAI連宮崎は、平成9年度の台湾口蹄疫の発生時に作成してあった基本方針マニュアル(資料1-1、1-2および1-3)に基づき、県口蹄疫対策本部の発表を受け、その都度(第一報〜第八報)、診療業務、事故確認、引受、損害防止等の対応について各NOSAIに指示し、感染防止対策に県下一体となって取り組んだ.たとえば、第一報(資料2-1および2-2)では、「口蹄疫の疑似患畜に対するNOSAIの初期対応について」と題し、発生後48時間の汚染地域および警戒地域の業務の対応として、[1]診療業務の全面
中止、[2]引受・損防業務の中止、[3]電話による事故確認と事後確認の実施など. また、家畜の移動規制に伴う県下20カ所(20km、50km圏内)の検問、消毒ポイントでは、早速、防除機50台を各ポイントに設置し、車両等の消毒作業に当たるなど、24時間体制で清浄化に向けての防疫に全面
的に支援.規制期間中に出動した職員数は15カ所の382人に達した. 家畜共済の事故の取扱いとしては、今回の事故はすべて口蹄疫の疑似患畜のため、家畜伝染病予防法による手当金が支給されたこともあって、支払共済金は3戸13頭で556,000円であった.また、家畜伝染病による家畜異常事故の取扱いがされた.
NOSAI団体の地域防疫等において対応した経費内容は、人件費を除いて、防除機の修理、消毒薬、防護資材、防疫機材、緊急医薬品、導入牛奨励措置等であり、総額約6,673,000円となった.このうち、防除機の修理費等の約2,526,000円については、行政からの補助をいただいた.
また、NOSAIは家畜診療時の防疫の徹底を図るため、国家防疫の観点から県に対し防疫服等(防疫服、ブーツカバー、ゴム手袋)の確保をお願いしたところ、4,000セットを準備していただき、安心して診療業務に携わることができた.
5.畜産農家への影響、農家への支援策
口蹄疫の影響は、直接には畜産農家に、移動制限や市場の閉鎖に伴う子牛および子豚の出荷停止と収入の減少、人工授精の中止による妊娠牛の減少などの大きなダメージを与えている.その他に園芸農家の他県への出荷取引の中止、観光業界での宿泊等の取消し、イベントの中止や延期など各方面
への影響が大きかった.
畜産農家への支援策として、国は全国で500億円の融資枠を設け、そのうち宮崎県は200億円を確保.宮崎県の緊急対策としては、
(1) 防疫対策として家畜伝染病緊急防疫対策推進事業(新たに6,000万円)、
(2) 農家経営安定策として畜産経営維持資金緊急無利子融通助成事業(無利子、貸付期間3カ月延長、県予算193,500,000円)、この事業の融資対象に家畜共済掛金が該当するよう県に要請を行い、「その他運転資金に必要な経費」として認められた、
(3) 生産構造再編対策として飼料イネ緊急生産拡大推進事業(県4,400,000円)、
(4) ブランド流通対策を計画した.その他各市町村や団体も独自に農家支援策を講じている. また、さらに国は4月27日には農家支援として、価格補および国産稲わらの確保のため100億円の予算措置を決定した.これを受け、県は第2次緊急対策として生産構造再編対策等の支援策(1,195,652,000円)を策定した.
6.問題点および課題
今回の口蹄疫については、発生件数の増加とともに周囲(地域住民等)が疑心暗鬼となり、より一層の風評被害が出てくることが懸念された.そのためには、正しい情報の伝達と連絡体制の確立が必要であり、発生農家に対して周囲の理解が得られるよう事前研修等によってコンセンサスを作っておくことが、地域一体となった撲滅運動を展開する上できわめて重要である.
また、最大の課題は感染源と感染ルートの解明と再発防止の体制づくりである. また、今後の防疫業務を効果的に展開するため、国の指導についての西日本地区農業共済組合連合会会長会議の要請事項として次の内容が決議された.
(1) 農業共済団体等に対する指示・指導 口蹄疫等の発生等異常事態下における診療・引受・損害評価・損害防止・リスク管理指導等の家畜共済業務を適正に行うためには予め「危機管理マニュアル」を作成・整備しておくことが不可欠となっており、国家防疫の観点から関係当局と十分な連携を図り、迅速な指示・指導が必要である.
(2) 家畜伝染病に対する防疫体制の確立 国家防疫の観点から、口蹄疫等家畜伝染病の防疫体制が円滑に機能するよう畜産ならびに防疫等の関係諸機関の組織構成と役割分担について見直しを行い、NOSAI団体の具体的位
置付けを明確にする必要がある.
(3) 家畜伝染病のまん延防止に必要な機材・経費の確保 口蹄疫等家畜伝染病のまん延防止を迅速かつ効果 的に推進するため、消毒機、消毒薬および防疫服など初動防疫に必要な機材の準備と経費の確保が必要である.
(4) 情報の伝達ルートの確立 口蹄疫等家畜伝染病のまん延防止と早期撲滅のため、国および県の主管課を主体とした情報伝達ルートを確立し、NOSAI団体をはじめ各関係機関が迅速かつ的確な対応ができるよう情報の早期伝達が必要である.
(5) 産業動物関係獣医師および獣医師会に対する指導 社会的責任の履行と防疫体制を確立し、関係者が一体となって防疫業務に取り組むため、獣医師会を軸とした産業動物関係獣医師等に対する国および県の指導・調整が必要である.
7.おわりに
口蹄疫発生の報告を受けた当初は、不謹慎ではあるが、宮崎県はもとより日本の畜産が壊滅するのではないかと計り知れない不安と半ば諦めに近い覚悟をしたのを覚えている.
幸い、国および県の口蹄疫対策本部の的確な判断・指揮のもと関係機関が一体となって防疫に取り組んだことにより、また、今回の口蹄疫の感染力が比較的弱かったこともあって、他県に対する被害も最小限度に留めることができ、比較的早期に清浄性が確認された.また、宮崎県の畜産も国や県の諸々の施策が効を奏し、想定した以上に順調な回復をみることができた.さらに、今回の口蹄疫の病性や侵入経路もほぼ解明され、9月26日には国際獣疫事務局(OIE)によりわが国の清浄性が承認され、3月25日以来の口蹄疫は、終息することができた.
今回の口蹄疫の発生により、稲わらや麦わらをはじめとする輸入粗飼料など、わが国の畜産がいかに外国に依存しているかを再認識させられた.国内の稲わらが有効に活用され畜産農家が安心して経営できるよう耕種農家と畜産農家が有機的に連携した体制を早期に確立されることが望まれる.
WTOの時代、いつどこから予想もしない疾病が侵入してくるかもしれない時代となった.再発防止は、日頃から、畜産農家、畜産関係者、国の水際検疫などそれぞれの情報交換・伝達が重要であり、万一疑わしい家畜が発生した場合は、周囲に気がねなく報告できる日頃からの環境づくりが不可欠と思われた.
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