日本獣医畜産大学 獣医公衆衛生学教室(〒180-0023 武蔵野市境南1-7-1) |
Wildlife as a Monitor for the Environmental Pollution
Fukiko UEDA and Mariko MOCHIZUKI
Veterinary Public Health, Nippon Veterinary and Animal Science University,
1-7-1 Kyonan, Musashino, Tokyo, Tokyo 180-0023, Japan
は じ め に産業革命以後,各職域・専門分野への分化は著しく,多くの技術が開発されてきた.しかしその反面 ,分野ごとの利害関係があまりにも優先されたために,多くの公害が発生するにいたった.いまやヒトの生産活動に伴う種々の廃棄物の増加と生産過程で発生する有害な排出物が,地域的な公害にとどまらない地球規模での問題を引き起こしているのは周知の事実である.そして,これらによる環境の悪化は,ヒト以外の動物にもすでに種々の影響を及ぼしている.自然界の中では,これまでも多くの生物種が繁栄と絶滅とを繰り返してきた.多くの場合,特定の原因は不明であるが,産業革命以後(1800年代以降),自然状態の50〜100倍のスピードで絶滅が進んでいるといわれている. 数多くの環境汚染と自然破壊が,限局された地域内での「いわゆる公害」にとどまらず,地球的規模での問題を引き起こしつつあるという認識のもとに,わが国では従来の公害対策基本法を,より大きな地球環境問題の中での地域公害として位 置づけた環境基本法が平成9年に制定され,多くの環境対策がすでに始まっている. 学問領域では,このような環境問題の急速なクローズアップと多様化を受けて,「環境科学;Environmental Science」という新しい分野が急速にその体系を形成しつつある.これは,自然科学系と社会科学系からのアプローチに大別 される広範囲な学問分野を含んだ応用領域である[3].この一環として,野生動物が地球環境の現状を反映しているという考えから,これを指標とした地球レベルでの環境モニタリングの試みが行われている. しかし,わが国の獣医学の中では,一般に野生動物自体の位置づけも明確にされておらず,偶然持ち込まれた疾病等の個々の場合の緊急処置を除いては,その取り扱いに苦慮しているというのが実情であろう.獣医師が,動物の生態と習性を知り,その疾病を判断できる知識を持っており,動物,ヒトおよび環境とをつなぐべき領域に位 置していることはいうまでもない.多くの獣医師が個別的には環境問題に強い関心を抱き,これら諸問題とすでにかかわっている現状を考えると,非常に残念なことである. 当研究室では,野生動物を指標とした環境モニタリングの試みの1つとして1993年以降,有害な重金属元素による野鳥(特にカモなどの水禽類)の汚染を経時的に調査している[5, 9].特定の有害金属の生物影響については,環境試料を含めて数多くの報告がなされているが,複数の有害元素による複合汚染については不明な点が多く,特に生物材料についての分析報告はきわめて少ない. 本稿では,環境モニタリングの視点から多元素同時分析装置であるプラズマ発光分光分析装置を用いて,生物材料の分析法を検討した成績と,その方法により測定した野鳥汚染の状況および野鳥(水禽類)が環境汚染のモニターとなる可能性について紹介する. |