【海外家畜衛生事情のページ(第28回)】

米国における1998年の狂犬病調査(その3)

John W. Krebs, MS; Jean S. Smith, MS; Charles E. Rupprecht, VMD, PhD; James E Childs, ScD
the Viral and Rickettsial Zoonoses Branch, Division of Viral and Rickettsial Diseases, National Center for Infectious Diseases, Centers for Disease Control and Prevention, 1600 Clifton Rd NE, Atlanta, GA 30333.

考   察
 狂犬病検査用のサンプルの提出については州ごとに異なる方法が採用され,調査の水準も州ごとにまちまちである.また,狂犬病の調査には受動的な傾向が強いので,狂犬病の罹患率(あるいは発生率)は,ほとんどの動物種について明確に把握できていない.報告されている症例数は,病気の発生規模をおおまかに反映する指標にすぎず,その地域の野生動物や家畜のあいだでどのぐらいの範囲にウイルス感染が及んでいるかを明示するものではないのである.本報告では,検査により狂犬病と確認され,州や準州やコロンビア特別区の衛生部局からCDCに報告されたケースのみを扱っている.したがって,検査を受けていないために狂犬病と認知されていない動物も多数存在する.
 米国の狂犬病報告数のうち,アライグマの報告数が占める割合は,1993年に62%を超える最高値を記録して以降減少し続けている.だが,アライグマは1998年も依然として米国内で最も報告数の多い(約44%)動物である.アライグマの狂犬病は,1998年には,19の州とコロンビア特別区で風土病としての流行が確認されている.これらの地域では,アライグマの狂犬病の99.7%(3,490/3,502)が報告されている.また,1998年に米国で報告された狂犬病の72.1%(5,742/7,962)を,これらの地域からの報告が占めている.アライグマのあいだで狂犬病が風土病として広まっている州では,一般に狂犬病の報告数に急激な増加が見られるが,それは,前回の流行によりアライグマの数が激減してのち,ふたたび数が増え,狂犬病の伝染に十分な密度に達したことによるものである.
 狂犬病の拡大を阻止したり,その勢いを鈍らせたりするために,多くの州で,野生のアライグマにワクチンを投与する方策が実施されている.現在,アライグマの餌にV-RGウイルスワクチンを混ぜるというプログラムの効果が,フロリダ州(パイネラス郡),マサチューセッツ州東部(ケープ・コッド),ニュージャージー州(ケープ・メイ),ニューヨーク州,ヴァーモント州で評価中である.オハイオ州では,4つの郡で,1998年の春と秋に1,500平方マイルを超える地域に725,000用量以上に相当するV-RGウイルスワクチンが追加散布されている.これは,同州を含む中西部諸州にこれ以上アライグマの狂犬病が広まらないようにするための措置である.今後,さらに多くの州でV-RGウイルスワクチンが使用され,アライグマの狂犬病の抑制が試みられるものと思われる.ワクチンの安全性や効果,環境への影響といった問題については,すでに評価が終わっている.V-RGウイルスワクチンは,1995年4月に条件付きで認可されたのち,1997年4月に全面的に認可された.現在も各州は,州公認あるいは政府公認の狂犬病抑制プログラムに則っている場合にのみ,ワクチンの散布を認めている.