【読者の声】風 化 す る 史 実 敗戦後6年間GHQ占領行政下の獣医事情 山崎正暉(兵庫県獣医師会会員)
は じ め に「史実は国家の存亡,産業の盛衰,学術の進歩などに大きな動機となったことのみが多くは勝者側の記録として残る.勝者と敗者の異なる視点から見た私が書き残せば」との案に「日本の獣医産業全体に画期的な変革をもたらした史実を見聞し体験した数少ない生き証人だから日本獣医史学会誌に投稿するように」と数人の方々に促がされていた.「伊勢湾台風で日記の大半が水浸しになり私の断片的な記憶だけでは史学会誌の権威を損なうのでは……」との私の心の中のためらいをお話した.横浜での世界獣医大会の盛況を会場の一隅で「日本の獣医学も遂にここまできたのだから,いまさらもう風化した史実を持ち出すこともないだろう」との感慨にふけりながら史学会誌以外の印刷物も含めて寄稿は断念していた.戦後世代の人々が現在の獣医界の主流であり,50年も前の史実に関心を持つ読者はほとんどいないのでは……との懸念もあった. 一昨年の暮に兵庫県獣医師会から「1999年の年男として『年頭の辞』を」とお誘いを受けた.400字詰1枚という制限つきで…….偶然にもその日の新聞に大阪の中之島公会堂が改修のために取り毀されるという記事があった.1950年に日本獣医師会の第1回大会が全國獣醫師大會という名称で明治以来の由緒ある煉瓦造りのあの中之島公会堂で開催された史実だけは後世に伝えたいし,その史実だけなら400字で書けると思い投稿した. そのコピーを日本獣医師会五十嵐幸男副会長(当時)にお送りしたところ,「GHQ主導の第1回大会の前後の事情を日本獣医師会雑誌に寄稿するように……」とお勧めいただいた.誌面の都合でほとんど項目の羅列だけに終るかも知れないが,時代背景は省略せず,解説したい. |