このため,NS蛋白質に対する抗体検査手法は,ワクチン接種地域におけるキャリアー動物の摘発手法になる可能性があって,各国で研究が行われている.これまで,NS蛋白質のL,2B,2C,3A,3B,3C,3D,3ABCなどを遺伝子組換え技術や化学合成法で作製し,これらを抗原とした免疫拡散法,エライザおよびウェスタンブロット法などの抗体検出法が検討されている[13, 84].しかし,こうしたNS蛋白質を抗原とする抗体検出法には問題も残されている.すなわち,上記の各NS蛋白質の中には,3D蛋白質(VIA抗原)のようにウイルス粒子に微量が組み込まれ,結果としてワクチンを頻回接種した動物にも抗体が検出されるため特異性が乏しいものや[89],免疫原性が低く抗体が持続しないもの(L,2C蛋白質)などが存在する.1994〜1997年にかけて,欧州委員会で実施されたNS蛋白質を利用した抗体検出法に関する共同研究によると(Dr. Mackay, 1997年欧州委員会口蹄疫防疫技術検討会),3ABCポリ蛋白質を抗原とした抗体検出法が最も有望視されている.しかし,現在のところ,こうした抗体検出法単味で抗体識別を行いキャリアー動物の摘発を図るのは困難で,プロバング法やPCR法との併用が不可欠と考えられている.しかしながら,NS蛋白質を用いる抗体検出法は,万一口蹄疫が発生した場合にもその後の清浄化技術に不可欠で,その研究は清浄国においても重要性を増している.
  4)ウイルス株の抗原解析
  タイプあるいはサブタイプの決定などウイルス株間の抗原の比較は,従来はモルモットで作製した免疫血清を用いて,補体結合反応または中和試験で行われてきた[46].この方法では,2株間の抗原的相関度Rは,で求める.rはヘテロ血清とホモ血清の抗体価の比率で示され,2種類の抗原についてr1とr2を求める.その結果,R値が70%以上を示した場合に同一タイプに分類され,ヘテロワクチンが有効とみなされる.一方,R値が32%以上70%未満の場合には異なるサブタイプに分類され,ヘテロワクチンの効果は不十分と判定される.またR値が32%未満の場合には,その程度に応じて著しく異なるサブタイプか,まったく異なるタイプに分類され,ヘテロワクチンの効果は無効と判定される.ところで,以上の分類方式は1967年に口蹄疫WRLにより提案されたものであるが,その後サブタイプ分類に関する諸問題が生じてきた.すなわち,(1)測定誤差や免疫動物の個体差によりR値の変動が時にサブタイプ分類の枠を越える場合があること,(2)ワクチン株の選択には広い抗原相関度を持つdominannt株がよいが,r1とr2の平均値で示されるRは必ずしもそのことを反映しておらず,ワクチン株の選択という観点からはむしろrを重要視すべきこと,(3)将来限りなく新しいサブタイプが出現する可能性があって,分類学上混乱が生じる,などの問題点である.このため,1976年に同じく口蹄疫WRLから,既存のサブタイプは存続させるが,将来のサブタイプは疫学的に重要なものに限定するとともに,ワクチン株の選択という観点からはR値よりr値を重視するよう提案がなされている[46, 68].