口蹄疫ウイルスは,陸上では60km,海上では250kmもの距離を風で伝播すると指摘されている[51, 87].風によってウイルスが伝播することは,1930年代から指摘され[37, 39, 40,
51, 105, 106],1967/68年の英国での発生でその現象が確認されている[59, 60].それによると,多数の発生が原発農場の風下に存在し,それらは雪や雨を伴う風向きに一致していたという.その後,フランスからドーバー海峡を越えて英国へ(1974年,1981年),デンマークからスウェーデンへ(1982年)など主として欧州で風による伝播が記録されている.欧州以外でもヨルダンからイスラエルへ(1985年)同様の事例があった[87].しかし,口蹄疫ウイルスの風による伝播には,高湿度,短日照時間,低気温等の一定の気象条件が必要である[59].そのうち,特に湿度はウイルスの自然環境での生残に重要で,湿度60%以上ではウイルスは数時間は生残して,風による伝播を助長する[87].最近では,風による伝播要因の解析が進み,感染動物種とそれらの推定ウイルス排泄量(殺処分までの期間を含む),飼養施設数,気象観測データ,地域の地理特性などをもとに,疫学シュミレーションで半径10km程度の範囲でウイルスの蔓延を予測し,防疫活動に役立てる試みが行われている[83]. 口蹄疫ウイルスの国際伝播では,感染家畜,汚染農・畜産物の流通,船舶や航空機の汚染厨芥,風や人,鳥によって物理的に運ばれるものなど原因はさまざまである.過去627例の世界の口蹄疫発生原因を解析した米国農務省の報告によると[87],口蹄疫の初発原因は,汚染畜産物と厨芥が最も多く(66%),次いで風や野鳥(22%),感染家畜の輸入(6%),汚染資材と人(4%),不活化不十分なワクチン(3%)および野生動物(<1%)となっている(Table 4). |