ま と め 香川県高松市高松町において見出された本書は種々の文献中に名前が挙げられ,珍本といわれるものではないが,これまでその全体に対して解説されたことはない.本論文はこれまで知られた出版元とは異なる,京都の銭屋三郎兵衛の版をテキストして,外観,内容などについて研究し,本書が中国由来の『牛経』に基づくものであり,本邦では利用されていない水牛疾病の項目を除き,原典項目の約70%を訳出していること.内容の症状については半分程度,病気によっては病名だけのところもあるが,薬方に関してはほぼ完全に記載していることを明らかにした.項目が多いので,そのいくつかの項目について( )内に考察した.馬は東国に,牛は西国にといわれていた[6]本邦にあって,数少ない牛の獣医古書が香川県から掘り出されたことは意味のあることであろう.なお,別 版の同名書との比較ならびに『牛経』および類似書との獣医学的関係についても今後検討を要する. 引 用 文 献 |
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白井恒三郎:『日本獣醫學史』,文永堂,復刻版(1980),142〜143,「牛療治調法記」,(1944) |
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島田謙造:江戸期における牛病治療の資料的研究,日本獣医史学雑誌,27,46〜49(1991) |
[3] |
喩本元・喩本亨:『元亨療馬牛駝経全集』,521〜652, 「牛経」,中国農業科学院中獣医研究書重編校正,7版(1981),(1608) |
[4] |
白井恒三郎:前出『日本獣醫學史』,9 |
[5] |
長尾壮七:馬書多禮倶良と明鏡集との比較,日本獣医史学雑誌,20,7〜13(1984) |
[6] |
窰直麿:「國牛十圖」前出『日本獣医學史』42,「國牛十圖」による(1310) 391h 397 (1993) |