論 説
災害時被災動物救援活動の難しさ (社)日本獣医師会 専務理事 松 山 茂 ![]() この大災害が,多くの人とともに生活をしていた動物達にも大きな影響を与えたことは想像に難くない.したがって,「可愛がっていた動物を探したい.」「怪我をしている動物を助けてほしい.」といった声が市民のなかから出てきたことは当然のことであろうが,なかには「放浪している動物が人に危害を加えそうなので何とかしてほしい.」という要望もあったという. こうしたなかにあって,災害発生わずか4日後に, (社)兵庫県獣医師会,(社)神戸市獣医師会および(社)動物福祉協会阪神支部が中心になって「兵庫県南部地震動物救援本部」が設置され,被災動物の救援活動が開始された.地元獣医師会の会員が,自ら被害を被っていたにもかかわらず,この救援活動に精力的に取り組まれたことは称賛に値すると思う.事実,これらの活動に対し,兵庫県知事,神戸市長は敬意と感謝の意を表しているし,マスコミも好意的な報道をした.そして何よりも,この活動に対し全国から少なからぬ 浄財が寄せられたことが,多くの国民の共感を呼んだことを物語っている.この動物救護の行動は,単に動物の命を救っただけではなく,実は多くの被災市民を救うことになったことも忘れてはなるまい.われわれはこのことを誇りに思ってよいと思うし,当時の記録が,今後世界各地で起こりうる災害時の動物救援体制の指標や参考となることは間違いないであろう.しかし,このような救援活動が,いつでもどこでも歓迎・称賛されるとは限らないことも認識して置かなくてはならない. 昨年トルコ,台湾で同様の大地震が起きた.トルコの場合,兵庫県南部地震動物救援本部を引き継いだ緊急災害時動物救援本部が,在日トルコ大使館を通 じ,現地の動物救援を申し出たところ,ご意向だけはあり難く頂戴するが,現地は今そのような状況ではないとやんわり断られた経緯がある.人の命や,生命線確保に奔走している現場では動物救援どころではなかったのであろう.数年前,南米コロンビアでも大きな地震があった.その時同国にいたわが国の青年海外協力隊隊員が現地で救援活動(動物救援ではない)に赴いたが,地元警察および軍隊から市中への外出を禁じられ救援活動ができなかったという報告を読んだことがある.当時市中では暴行略奪が横行しており,善意の外国人が被害を受けるのを当局がおそれたからであろう.そのような状況下で現地で被災動物に餌を与え保護する等の動物救援活動を行ったら,現地の人になぐられることはあっても称賛はなかなかしてもらえないのではなかろうか. |