鶏ヘルペスウイルスベクターワクチン
鶏のヘルペスウイルスベクターには,鶏伝染性喉頭気管炎ウイルス(ILTV)ベクターとマレック病(MD)ウイルス(MDV)ベクターがあり,細胞性,液性の免疫を誘導する.ヘルペスウイルスベクターのねらいは,
(1)初期のウイルス増殖による基礎免疫の誘導とその後の再三の抗原刺激(ウイルスの再活性化)による免疫の長期間持続にある.さらにMDVベクターでは,(2)移行抗体を保有する孵化後まもない雛に投与できるため,若齢期からの免疫誘導に適していること,(3)ワクチンとしての高い安全性が保証されていることが長所としてあげられる(表2).移行抗体の影響を受けにくい理由は,ワクチンがウイルス感染細胞であり,体内でのウイルス増殖も細胞から細胞への接触伝播によるため抗体によって阻止されないからである.MDは高い死亡率を引き起こすリンパ球性腫瘍で,予防のために1972年頃から約30年間にわたり全世界のほぼすべての鶏にこのワクチンが利用されている.この野外利用実績はMDワクチンのベクターとしての安全性を明確に物語っている.このように優れた特徴を備えたMDVベクターには2つの血清型,1型(MDV
CVI988株)と3型七面鳥ヘルペスウイルス(HVT)があり,いずれも外来遺伝子挿入部位 は複数ある.MDVベクターはポックスウイルスベクターよりもたぶん強い免疫を誘導できることもあり(表5),今後の開発に期待が寄せられている.いままでのところは実用化にはまだ不十分なものが多いが[6](表4),最近徐々に良い成績も得られ始めているのでそれを紹介したい.
例えば,HVTベクターにNDウイルス(NDV)のF/HNおよびMDVのgA/gBを発現させると,ワクチン接種14日後には,NDに対して95〜100%の発症防御率が得られ,発育鶏卵接種でも免疫が誘導された[2,
5].またMDVベクターにMDV gBプロモーターでNDVhFを発現させたものではSV40プロモーターを用いたものよりも効果 が高く,6週間後の攻撃に対してSPF鶏では,NDに対して100%の発病阻止が得られ,移行抗体保有雛でも移行抗体消失前にワクチン抗体が誘導された[10].このようにNDVに対してはMDVベクターの効果
が現行生ワクチンに近づいている.一方IBDでは,われわれが開発したMDVベクターにVP2を発現させたもの(rMDVhVP2)が今のところ最も良く,6週齢での攻撃に対して100%の発症阻止と50%の病変阻止であった[11].その有効性をさらに高めるために1日齢にMDVhVP2を接種し,2週齢に鶏ポックスウイルスhVP2(rFPVhVP2)を追加投与すると,4週齢での攻撃に対して100%の発症阻止と75%の病変阻止が達成された[12].ブースターワクチンの有効性を表5に示すが,このワクチンプログラムではMD,鶏痘,IBDが効果
的に制圧されると期待されている.また,ヘルペスウイルスベクターとアデノウイルスベクターとの組み合わせやサイトカインの同時発現などを検討することは興味深い.
しかし,ヘルペスウイルスベクターではわからないことも多い.(1)MDVでは1型と3型のどちらが優れたベクターか,(2)どのプロモーターを使うべきか,(3)免疫の長期間持続はどの程度達成されるのか,(4)多価化は本当に可能か.これらの問題に対する答えが得られるころには現行生ワクチンより優れた組み換えヘルペスウイルスワクチンが開発されていることを期待する.
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