家畜用次世代ワクチンの開発の現状:
鶏ウイルスベクターワクチンを中心に

塚 本 健 司

東農水省家畜衛生試験場ウイルス病研究部(〒305-0856 つくば市観音台3-1-1)

Progress in Developing the Next Generation of Vaccines for Animal Use:
Focusing on Avain Viral Vector-based Vaccines

Kenji TSUKAMOTO

Department of Virology, National Institute of Animal Health, 3-1-1 Kannondai, Tsukuba 305-0856, Japan

は じ め に

  ジェンナーは1799年に種痘によって感染症を予防できること(ワクチネーション)を,そしてパスツールは1885年に病原体(狂犬病ウイルス)を異種動物・非自然感染ルートで継代すれば弱毒生ワクチンができることを発見した.その後ワクチン開発は不活化ワクチン(Kolleら,1896),コンポーネントワクチン(Glennyら,1923)へと進み,組織培養ワクチン(Salkら,1954)へと発展した.現在家畜に使用されているワクチンはこれらの原理に基づいて1960年代以降に開発されたもので,その歴史は40年に過ぎない.一方,われわれは「理論的展開によってワクチンを開発できる新しい時代」にさしかかっている.遺伝子組み換え技術によって1990年に酵母で人用B型肝炎ワクチンが日本で,また1994年に鶏痘ウイルスベクターを用いた組み換えニューカッスル病(ND)生ワクチンが米国で製造承認された.遺伝子操作による組み換え生ワクチンの研究は約15年前にポックスウイルスベクターで始まり,現在その中心はヘルペスウイルスベクターやアデノウイルスベクターに移っている.この総説ではこの10年間に鶏ウイルスベクターで得られた成果 を中心に紹介し,今後の開発動向と野外で組み換えワクチンが利用されるまでに必要な安全規制などについて述べたい.