畜産食品の微生物学的衛生管理とHACCPシステム

小久保彌太郎1)   茶 薗  明2)

1)東京都立衛生研究所(〒169-0075 東京都新宿区百人町3-24-1)
2)東京食糧安全研究所(〒112-0014 東京都文京区関口304-175)

Application of the HACCP System to Ensure Microbiological Safety of Animal Food Products

Yataro KOKUBO1) and Akira CHAZONO2)

1)Tokyo Metropolitan Reseach Laboratory of Public Health, 3h24h1 Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0073,Japan
2)Tokyo Food Safety Institute, 304-175 Sekiguchi, Bunkyo-ku, Tokyo 112-0014,Japan

は じ め に

最近,食肉,乳,鶏卵などの畜産食品が直接的あるいは間接的に原因となったと思われる病原大腸菌O157やサルモネラなどによる食品媒介感染症が多発し,国際的にも食品衛生上の大きな問題になっている[12].これらの発生を防止するには,家畜の飼育から製造加工,流通,販売,消費にいたるまでの一連の流れ(food chain)の中で,病原微生物の汚染や増殖を確実に抑制し,さらには排除するような取り扱いが必要である.わが国では畜産食品の安全性確保を目的としてさまざまな法規制を設けている.その中で,国際的に最も合理的な衛生管理法といわれるHACCPシステムが,食肉製品や乳・乳製品などの製造基準のある畜産食品を対象に“総合衛生管理製造過程”と呼称する承認制度として導入され,またと畜場の衛生管理,液卵の衛生規制にも導入されている.さらには,家畜の飼育農場においてもその導入が検討されている.岡本[10]は,「農場から食卓までの食品の安全性と国際基準」と題する総説の中で,食品の国際基準をつかさどるFAO/WHO合同のCodex委員会の活動,米国における食品の安全性確保を目的とした政策などを紹介するとともにHACCPシステムの有用性について述べ,これらに対するわが国の対応を考察している.
本総説では,最近HACCPシステムに関連する用語を含めて,わが国の衛生行政関係者あるいは食品生産者に混乱が生じていることを危惧し,ここに改めて畜産食品の微生物学的安全性確保を目的とした行政対応,Codex委員会が提示した食品衛生管理の考え方およびHACCPシステムの導入手順を中心に述べてみたい.